104.ロサンゼルス探索へ
宴の次の日、香織達は、空港に戻ってきていた。
「これからどうするの?」
香織は、玲二に問う。現地の解放軍と同盟を組んだので、当初の目的は達成出来た。すぐに、ニューヨークに向かっても大きな問題はないだろう。
「ここから数日は、空港周辺の探索だ。昨日のうちに、エマに許可は得ておいた。モンスターの違いは分かったが、まだ、素材の違いについては分かっていないからな。香織も、こっちで別の素材が取れるなら取りたいだろ?」
「そういえば、ライアンさんが、北に上位の薬草が生えているって言ってた気がする」
「北か……どのくらい行けば良いんだろうな。場合によっては、歩きじゃいけないぞ」
「えっとね。確か、シアトルくらいだって言ってた」
空港から支部に向かった際に、香織は、ライアンから色々な話を聞いていた。暇だったからということもあるが、単純に、アメリカの素材などが気になったためだ。
「緯度によっては、北海道の北側に行けば、見付かるかもだが、シアトルか……確か、北海道よりも上の緯度に位置していたはずだな。稚内で見付からなかったら、厳しいだろう」
「じゃあ、尚更、ここでアメリカで見つけないといけないじゃん」
「そうだな。上位の薬草は、俺達にとっても必要なものだ。ニューヨークに行った後は、北側に行くのもありだろう。ただ、カナダに入らないように気を付けないといけないがな」
「そうか。カナダは、領空権の範囲外だもんね。まぁ、そこら辺は、ニューヨークに行った後だね」
ニューヨークに行った後の予定が一つ増えた。これを、冒険者達に知らせたが、香織も冒険者も必要なものなので、文句を言う者も妥協しようという者もいない。
「取りあえず、まずは、この付近から調べるぞ。班分けをして、調査に向かってもらう。調査日数は、沖縄の時と同じく、一週間だ。一週間経ったら、空港に戻ってこい。よし、班分けの人員を発表するぞ」
玲二が、班分けを発表していく。その中には、万里と恵里の名前もあった。
「香織達は、香織達で独自に動いてくれ。だが、一週間で戻ってきてもらうのは変わらないぞ」
「分かった」
「今呼ばれなかったやつは、ここの防衛だ。全員、絶対に無理はしないようにしてくれ。それと、慣れない土地で、迷子になる可能性もある。そこで、香織から地図の貸し出しがある。一班につき、一枚の支給だ。当然、香織に返すことになるから、無くさないようにしろ」
「「おう!!」」
今回は、日本ではなくアメリカなので、冒険者達には、土地勘が全く無い。そのため、香織から、地図の提供があったのだ。自身を中心とした地図となるが、道に迷う可能性はかなり低くなるだろう。
「それじゃあ、準備が整った班から出発してくれ」
「「おう!」」
冒険者達が、それぞれの班に分かれて、話し合いを始める。どの方向に向かうかや、アイテムの数が足りているかの話し合いだ。香織達も同じように、皆で集まっていた。
「どっちに向かう?」
「北回りいいんじゃないかしら? 他の冒険者の皆は、南に向かうようだし」
咲の視線の先には、すでに、南に向かおうとしている冒険者達がいた。
「そうだね。じゃあ、簡易工房を畳んでくるから、少し待っていて」
「ええ、私達もテントを畳んでくるわ。焔、星空、白雪、手伝ってくれるかしら?」
「はい」
「うん」
『分かった』
香織は、工房を片付けに向かい、咲は、焔達と自分達のテントを片付けに向かう。五分程で、互いに片付けを終えて集まる。
「よし! じゃあ、出発!」
香織達は、北に向けて歩き出した。今回は、探索メインではないので、歩いて色々な場所を見ていく。香織達は、大通りを歩いて行った。
「あっ、川だ」
ロサンゼルス国際空港から、少し歩いていくと川が流れているのを見つけた。
「そうだ。海沿いを歩いてみない?」
「海沿いを? ああ、クラーケンね」
「うん。話を聞いたら、少し気になってね」
「それなら、少し大回りする必要がありそうね」
咲は、地図を見て、海岸に行く方法を見つける。土地の形的に、川沿いに歩いていって海岸に行くのは、少し厳しそうだったので、ちょっと大回りする必要があった。
「その間に、何か素材が生えていると良いんだけど。あまり、有用な素材はないね」
「ここら辺の草木は、枯れているものが多いですね」
焔が、周りに生えている植物を見てそう言った。焔の言うとおり、香織達の歩いている場所の周りには、枯れた植物が多かった。
「いつ頃枯れたのかにもよるけど、塩害が原因かな。そう考えると、沖縄の植物は、進化したって考えても良いのかな?」
沖縄では、植物はまだ元気に育っている印象があった。しかし、ここの植物は枯れている。
「沖縄の植物は、そう考える方が納得出来るわね。でも、ここが枯れた理由は、他にありそうよ」
咲は、そう言ってある箇所を指さす。そこには、粘性の高い黒い液体があった。その周りには、水分が蒸発した黒い物体がある。
「イカ墨?」
「多分ね。エマさんの話であったイカ墨のレーザーが、ここまで飛んできているのかもしれないわ」
「ここから海岸まで何キロかあるはずだよね。射程距離が長すぎるよね」
「調べる?」
星空が、香織に訊く。香織は、少し考えてから、
「うん。一応調べておこう。あの墨に何か秘密があるかもしれないし。回収してきちゃうね」
香織は、墨がある場所まで向かって、瓶に墨を詰めていった。直接素手で触るのは危険な可能性があるため、風魔法で墨を運んで入れていった。
「見た目通り、粘性は生きているね。こっちのは、完全に乾燥しているのかな? これも回収しておこう」
十分な量を回収し終えた香織は、咲達の方に戻ってくる。
「お待たせ」
「ちゃんと回収は出来た?」
「うん! 大丈夫! じゃあ、海に向かって進んで行こう!」
香織達は、海岸に向かって移動した。香織達が来たビーチは、ベニスビーチと呼ばれる場所だ。
「これが西海岸……」
「西海岸は、太平洋に面した地域の事をいうのであって、本当の海岸の事を言うんじゃ無いわよ」
「えっ! そうなの!?」
そんな話をしつつ、香織達は海岸沿いを歩いていく。決して、海に入ろうとはしない。海に入れば、ほぼ必ずクラーケンが現れるからだ。姿は見てみたいと思うが、実際に戦いたいかと言われれば、香織達は否と答える。香織達は、アメリカの領海権が欲しいわけではないからだ。
「う~ん、やっぱり、遊泳の仕方は、リヴァイアサンと違うみたいだね。全く姿が見えないや」
「ダイオウイカみたいなのだったら、深海に住んでいるかもしれないものね」
香織達がそう話しながら歩いていると、白雪が香織の服を引っ張る。
「ん? どうしたの?」
『あれ、何?』
白雪は、片手に筆談板を持ちながら、ある方向を指さした。その方向を香織達が見ると、そこには、薄らと円形のものが見えた。その他にも、何か細長いものも見える。
「あれは……遊園地?」
「そうね。薄らとしか見えないけど遊園地っぽいわ」
『ゆうえんち?』
白雪達人造人間には、必要最低限の常識を詰め込んでいる。なので、得に必要のないもの……例えば、娯楽の知識などだ。だから、焔と星空は、将棋についての知識が無かった。そして、それは、遊園地の知識に関しても同じだった。
「う~ん、簡単に言ったら、高級な遊び場かな?」
「少し違う感じもするけど、それでいいんじゃないかしら」
「百聞は一見にしかず! 行ってみよ!」
香織達は、遠くに見えている遊園地に向かっていった。
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