98.三人目
香織、咲、玲二は、先程も話し合いをしたテーブルに集まっていた。
「どうやら、今回は、俺の杞憂だったみたいだな」
「ただ、分かった事もあったね。日本とアメリカじゃ、モンスターの種類が全く違うね。恐竜のモンスターが多いみたいから、もしかしたら、大型恐竜が闊歩している可能性もあるよ」
香織が懸念しているのは、大型の恐竜、ティラノサウルスやブラキオサウルスなどが、街中などを歩いていることだ。草食恐竜なら、問題ないかもしれないが、ティラノサウルスなどの肉食恐竜は、かなり危険だと思われる。
「それもそうだが、あんな奴等がいる中で、住み続けることは出来るのか?」
これには、香織も咲も思案顔になる。
「私達もモンスターがいるなかで生活しているから、出来なくはないかもしれないけど……」
「私達のところは、そこまで強いモンスターが出てくるわけじゃないからっていうのが、大きいと思います」
香織と咲は、それぞれの意見を言う。
「そうだな。とにかく、襲撃をいなしつつ、このまま様子を見よう」
「見張りの人数は増やした方が良いだろうね。防壁も建てておいた方が良さそう」
「香織は、重吉と防壁建設をしてくれ。咲達は、周囲の警戒を頼む」
「オッケー」
「分かりました」
香織と咲は、ここで別れて、それぞれの役割を果たしに向かった。
香織は、重吉の元まで向かった。
「里中さん」
「香織か。どうした?」
生産職用の作業テントを建てていた重吉は、香織に気が付いて生産職仲間に任せて、香織の方に来た。
「坂本さんからの指示で、防壁を建てるようにとの事です。私も手伝います」
「なるほど。襲撃対策か。分かった」
重吉は、何人か生産職を集めて、防壁を作るように説明した。
「香織は、反対側を頼む。俺達は、三方を担当しよう」
「分かりました」
香織は、飛行機を挟んで向こう側に向かった。
「さてと、あまり目立たないようにしないといけないから、普通に素材から錬成しようかな」
香織は、アイテムボックスから大量の石材と鉄鉱石を取り出した。そして、三メートル程の魔法陣を描き、石材と鉄鉱石から、腰くらいの高さの防壁とそこから一メートル程の高さの有刺鉄線を作り出した。
「正面が見えないと意味ないもんね。これに強度強化の刻印をして、強度を上げておこう」
香織は、作った防壁の強度を上げる。こうして、一面を防壁で覆うことが出来た。見た目は弱そうだが、その実、そこら辺の壁よりも頑丈になっている。
「これでよし! そろそろお昼に近いかな? 大分眠くなってきたけど、時差ぼけを治すためにも、このまま生活しておかないと」
若干の眠気を感じながらも、香織は、ちゃんとした足取りで重吉の元に歩いていった。
「里中さん、こっちは終わりました」
「さすがに早いな。こっちも問題なく進んでいる。香織は、休んでくれて大丈夫だ」
「分かりました」
香織は、取りあえずやることもないので、自分の作業用のテントを建てる事にした。長居はしないと思われるが、それでも今までよりも遙かに長い期間いる可能性が高い。そのため、消耗品などの補充が重要になるのだ。香織の場合、魔法などで戦う事が多いが、消耗品をふんだんに使った戦い方もするので、定期的な補充は必要なのだ。
「さてと、テントはこんな感じで良いとして、中身を整えないとね」
素材自体は、アイテムボックスに入れておけばいいので、香織は、魔導コンロと錬金釜を配置する。
「色々便利なものを作ったけど、最近は、もう錬金釜だけで解決出来るようになったからね。なんとなく、一人前の錬金術師になった感じがするなぁ」
そんな事を言いながら、環境を整えていく。やっているのは、テント内部の空気洗浄と循環だ。錬金術で、薬を調合していると、どうしても煙が出てきてしまうため、こういった処理は必要だ。いつもは、工房にある換気扇でどうにでも出来ていている。この他にも、狂骨の砦で使った室外機のようなものも使えないことはないが、錬金釜が大きいので、うまく煙を吸い込むことが出来ないのだ。
「よし。取りあえず、これで大丈夫と。今のところ、作る必要があるものはないし、どうしようかな?」
香織は、何か作るべきものがないかを考えた。その時、頭の中にあるものが過ぎった。
「そういえば、氷雪龍も龍の一種だよね。その核からは、人造人間が造れるはず……」
香織は、アイテムボックス内の材料を確認する。咲に材料集めに行って貰っていたからか、何人でも造れるくらいには、材料が余っていた。
「……どうしようかな。今のところ、人手が足りないわけでもないしなぁ……」
香織は、顎に手を当てて少し考え始める。
(デメリットはない。なら、造っても問題はない。でも、こんなところで生んでもいいのかな……)
香織は、少し間迷ってから、決心した。それから、二時間程、香織はテントを出てこなかった。
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香織の錬金釜の中から、白い髪、白い眼をした女の子が現れた。氷雪龍の核から生み出した人造人間だ。
「…………」
「初めまして、私が分かる?」
ぼーっとしているその子に香織が声を掛けると、こくりと頷く。
「?」
香織は、少し怪訝な顔をする。
「えっと、君の名前は……安直だけど、白雪はどうかな?」
香織がそう訊くと、笑顔でこくりと頷く。ここで、香織は、ある事を確信する。
「もしかして、喋れないの?」
「……」
白雪は、目を逸らして、少し顔を伏せる。
「どうして……魔法式は合ってる……これまでと同じように錬成したし、手を抜いたなんて事はない……氷雪龍の核の効果……?」
香織は、色々と考えるが、明確な答えは出ない。
「少しだけ、核と喉に触っても良い?」
白雪は、こくりと頷いた。
「少しくすぐったいかもだけど、我慢してね」
香織は、白雪の身体に異常がないかどうかを確認する。喉と核、どちらも正常になっている。
「喋れないわけないのに……どうなってるんだろう?」
白雪は、申し訳なさそうに顔を伏せる。
「ごめんね。白雪のせいじゃないよ。多分、私がミスをしたんだと思う。治す方法が見付かったら、すぐに治してあげるからね」
香織がそう言いながら、白雪の頭を撫でると、白雪の顔に笑顔が戻った。
「じゃあ、これを着て」
「コクッ」
白雪は頷くと、香織から渡された服を着た。
「すぐに、戦闘服を作るから。白雪は、何が得意なのかな?」
香織がそう言うと、白雪は、目で見て分かる程にオロオロとした。
「あっ、ごめん。えっと……文字は分かる?」
「コクッ」
「じゃあ、ちょっと待ってね」
香織は、魔鉱石と魔水晶、閃光石を釜に入れて、錬成を始める。そうして出来上がったのは、タブレットより、少し大きめの黒板のようなものだった。
「名付けて『筆談板』だよ。自分の思った言葉を、ここに写す事が出来るの。これなら、スムーズな会話が出来るよ」
香織は、筆談板を白雪に渡す。白雪が筆談板に魔力を流すと、白い文字が写されていく。
『ありがとう』
「どういたしまして。それで、白雪が得意な事は何かな?」
『私は、魔法が得意。水と氷』
「なるほどね」
香織は、手早く防具と武器を作っていく。それでも大体、二時間程掛かった。その間、白雪は、興味津々で香織の錬成を見ていた。
「はい出来上がり」
香織は、焔達とおそろいの戦闘服を作った。黒地に白い刺繍をしてある服だ。そして、白いシンプルな杖を作っていた。
「これに、白雪の血を押し当ててくれる?」
香織は、いつもの針を白雪に渡す。そうして、白雪の血を吸った白い杖が光る。光が収まったときには、白い杖に青い筋がいくつも通っていた。
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ユニークウェポン:神杖 氷姫
人造人間白雪専用武器。桜野香織によって作られた素体に、白雪の血を吸わせた事により、進化した。
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「よし、じゃあ、皆に会いに行こうか」
『うん』
香織と白雪が外に出ると、テントのすぐ前に咲と焔、星空がいた。
「……香織? その子は?」
「新しい子。氷雪龍の核があったのを思い出したから」
「そういえば、氷雪龍も龍である事には変わりないものね。つい、権利所有モンスターじゃないといけないんじゃないかと思ってしまったわ」
咲も、香織と同じように忘れていたみたいだ。
「私は、咲よ。よろしくね」
「私は、焔。よろしく」
「私は、星空」
咲達が軽く自己紹介する。焔は、星空の時と違い、最初から敬語をやめている。あの時、星空に言われた事を意識しているのかもしれない。
『初めまして。私は、白雪。よろしくお願いします』
白雪は、そう言って、頭を下げた。
「香織、この子……」
「うん。原因不明なんだけど、声を出せないんだ。だから、筆談板での会話しか出来ないの」
「そう。どうにかして、治さないといけないわね」
「うん。早く原因を解明しないと」
香織と咲が、そう話している間にも、焔、星空、白雪は、打ち解けていた。同じ人造人間ということが大きいのかもしれない。少し待ったりとした時が流れていたが、すぐに張り詰めた状況になっていった。
その原因は、空港の外から来た。
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