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変わってしまった現代で錬金術師になった  作者: 月輪林檎
第二章 繋がり

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90.契約書

ここからは、少しの間、まったりとした日常回になります

 沖縄から戻ってきた香織は、一日家で休んでから、ギルド本部に顔を出した。咲は、今ダンジョンの方に向かって、材料集めをしている。


「いらっしゃい、香織さん。代表は、最上階にいらっしゃいます」

「分かりました」


 今日、香織がギルドに顔を出したのは、海に出るための契約書を交わすためだ。これを交わさないことには、周辺諸島の探索を行えないからだ。


 最上階に上がった香織は、玲二がいる執務室をノックする。


「どうぞ」

「こんにちは。この前の契約のやつをしに来たよ」

「香織か。すまん、少し待ってくれ」


 玲二は、入ってきたのが香織だということを確認して、手に持っていた書類を片付けると、応接用のテーブルにつく。


「はい、これ」


 香織は、一枚の紙をテーブルに置く。それは、香織が作った魔力紙だ。紙面には、香織が書いた契約内容が連なっている。


「一応、坂本さんが、許可を出せば、冒険者なら大丈夫って契約内容だけど、それでいい?」

「ああ、咲もそうだが、寧ろ、こんなに俺が自由に出来る内容で良いのか?」

「まぁ、坂本さんは信用しているし、大丈夫だよ。契約違反者は、命の保証無しって書いておいたし」

「何!?」


 玲二は、改めて契約内容を読み進めていく。すると、最後の方に、そのような内容が書かれていた。


「坂本さんが違反しない限り、坂本さんが被害を被ることはないよ。坂本さんが許可を出した人が違反したら、その違反者だけが罰を受ける事になるから」

「安心して良いのかどうか迷うな。だが、それで大丈夫だ。俺が違反しなきゃいい話だからな」


 玲二は、契約書に署名し、血判を押すと、契約書の文字が光り始める。光が収まると、香織が契約書を手に取って、問題なく契約出来たかを確かめる。


「うん、大丈夫そう。じゃあ、写しを用意するね」


 香織は、契約書に白紙の魔力紙を重ねて、魔力を流すと、白紙の魔力紙に契約書の内容が写った。


「原本は、こっちで持っとくから、写しはそっちで保管しててね」

「ああ、分かった。取りあえず、沖縄の探索は、後々に進めていこう。東北の探索も期間の話で言えば、そろそろ終わるはずだからな。情報が整い次第、動く事になるな。パイロットの育成も進めている」

「色々同時に動かしてるんだね」


 日本が解放されたので、玲二は、日本を繋げるために東奔西走している。北海道と沖縄の両端を繋げるために、今回の遠征があった。他にも、関西の冒険者ギルドと協力して関西方面を繋げようとし、東北に冒険者を派遣して、繋がりを得ようとしている。基本的に、玲二の理想に冒険者全員が賛同しているため、協力を惜しむような人はいない。


「ああ、今まで以上に忙しくなってる。だが、必要なことだからな。すまないんだが、アメリカに行くのは少し先になりそうだ」

「いいよ。これから、冬が来るし、冬を越してからの方がいいでしょ?」

「そうだな。次の冬を越したら、出発しよう。それまでは準備期間だな。冬の間に、色々と進んでくれると良いんだがな」

「そういえば、坂本さんは、アメリカに付いてくるの?」

「ああ、そのつもりだぞ。向こうとも国交を結びたいからな。互いに支え合う基盤みたいなものが出来ればいいんだが」


 玲二は、日本だけでなく世界とも繋がることを考えていた。だが、あくまで、優先順位は日本からだ。


「先の先まで、考えてるんだね。それじゃあ、契約も終わったし、私は、もう帰るね」

「ああ、態々すまなかったな」

「ううん。権利を持ってる私の役目だし」

「取りあえず、冬を越すまでは、特に何もないと思う。今までが、忙しすぎたからな。ゆっくりとしてくれ」

「分かった。そっちで対応出来ない様な事があったら言って。出来る事はするから」

「そうだな。俺達で、対応出来ない様なモンスターが出たら、頼む」

「うん。じゃあね」


 香織は、ギルドを後にして、自分の家に戻った。


「ただいま」

「おかえりなさいませ。契約は、もうお済みになったのですか?」

「うん。ただ、署名してもらうだけだったしね。在庫の方はどう?」

「薬系が少なくなっています。道具系は、まだ在庫があるので大丈夫です」

「分かった。補充するね」


 香織は、店番をしている焔と星空の頭を撫でてから、工房の方に向かう。そして、薬系の売り物を作り始める。その後、咲が材料集めから帰ってくる。


 香織は、夕食の時間に、玲二と話したことを三人に伝えた。


「そう。じゃあ、この冬はゆっくりと出来るわね」

「うん。でも、ゆっくりって何すれば良いんだろうね? 前までは、対黒龍や対リヴァイアサンばかり考えてたから、本当に暇になったら、スキル上げに行ってたよね?」

「そうね。でも、日本の中じゃ、もうそんな事考えなくても良いのよね。というか、私と香織の場合、レベルそのものがないじゃない? これ以上強くなれるのかしら?」


 咲の疑問は尤もだった。神の領域に踏み入れた香織達には、レベルという概念が消え去っている。これ以上、レベル上げをしてみたとして、それで強くなるか分からないのだ。


「私と星空は、まだ、レベル表示がされているので、修行に行った方がいいでしょうか?」

「う~ん、その方が良いかな。今度、万里ちゃんと恵里ちゃんと一緒に、冒険に行って来るといいよ」

「店番は?」

「私がやるから大丈夫だよ。元々は、私がやってたわけだし」


 話し合いの結果、焔と星空は、万里達と一緒に冒険に行っても良いことになった。その間の店番は、香織がする事になる。そもそも、あまり忙しい毎日というわけではないので、店番をしても問題はない。


 ────────────────────────


 あれから、一ヶ月の時が過ぎた。香織達の住んでいる神奈川に雪が降り始めた。本格的な冬の到来だ。世界が変異してから、あまり雪が降らなかった神奈川でも積もる程の雪が降るようになった。まだ、二年しか経っていないが、その二年間のどちらも雪が降っている。


「今年も降ったね」


 香織と咲は、店のカウンターに座りながら話していた。


「そうね。本格的に暖房を活用した方が良さそうね。焔は大丈夫そうだけど、星空は寒いのは嫌そうだから」

「そういえば、そうだよね。焔は、赤龍を核にしているからか、身体がぽかぽかしてるもんね。星空がいつもひっついているけど、私も時々抱きしめちゃうもん」

「そうね。でも、焔が、明らかに嫌がってるから、ほどほどにね」

「えっ!? 嘘っ!?」

「本当よ。香織達に抱きつかれている間、明らかに顔が嫌がっていたもの。最初の頃は嬉しそうだったけど、湯たんぽ代わりにされているだけだと知ったら、そんなものでしょ」


 香織は、心の中で反省した。しかし、それでも焔を抱きしめる事をやめるつもりはなかった。愛情表現としてなら大丈夫だと判断したためだ。


「はぁ、やることないと、本当に暇だなぁ」

「娯楽がないものね。いっその事ゲームでも出来れば良いのだけど……」

「昔のようにはいかないね。復興が進めば、そういう娯楽系のものも増えてくるのかな?」

「どうかしらね。当分先になりそうだけど。そもそも、皆が娯楽を得るのに、街全体を賄える発電機が必要になるわよ」

「確かに……」


 香織が作った発電機は、一軒の家を賄えるものと空港の電力を賄えるものだ。街全体となると、さらに大規模な発電機が必要になってくる。その建造となると、かなりの労力が必要になってくる。


「発電機のレシピを渡したら、解決かな?」

「あれの構造を理解出来る人がいるのかしら……?」

「え? 出来るんじゃない? そこまで、難しい部分なんて……あるね……」


 香織が開発した発電機の構造は、かなり複雑で、少しでもミスをすると、発電機能を失ってしまう。そのため、空港内に設置した大型発電機は、香織一人の手で作られたのだ。


「でも、まぁ、いずれ作っても良いように、設計図だけは、書いておこう。よし! やることが一つ決まった!」

「そうね。私も何かやることを見つけようかしら?」

「咲は、戦闘系の職業とスキルだから、結構難しいよね。焔達に付いていく?」

「う~ん、それは、やめておくわ。せっかく、友達同士で行っているのだし、水を差したくないわ」


 咲は、焔達が遠慮しないようにと考えて、同行することは否定した。


「それとは別に、ダンジョンに行ってこようかしら。何か、必要な材料はある?」

「う~ん、鉱石系かな。使い過ぎるから、在庫ももう無くなりそうなんだ」

「分かったわ。じゃあ、明日採りに行ってきてあげる」

「ありがとう」


 香織達は、変わらない毎日を過ごしながら、冬が明けるのを待った。

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