89.沖縄本島の北端
翌日、香織達は、北を目指して歩いていた。
「やっぱりモンスターがいないわね」
「そうだね。その理由もある程度、分かってきたけど」
香織達の歩いている場所には、苔が生えている場所が多々あった。つまり、ここら辺も海に沈んでいたということになる。
「もしかしたら、つい最近まで、沖縄は海に沈んでいたのかもしれない」
「だとしたら、モンスターがいないのも頷けるわね。いたとしても海のモンスターだろうし、それも海が引けば、いなくなるものね」
「これから先も、モンスターは生まれないのでしょうか?」
「それだと、楽で良い」
焔の疑問に、香織と咲は、少し考え込んだ。
「う~ん、私達の街も一応沈んだけど、少しは出てくるよね?」
「基本的に、冒険者がうろついているからあまり気にならないけどね。でも、こっちは、海に沈んでいた期間が、かなり長くなるわ。その違いもあるかもしれないわ」
「そうだね。でも、モンスターが絶対に出ない保証はないから、警戒はし続けるようにね」
「はい」
「分かった」
香織達は、警戒を解かずに進んで行く。段々と家々が少なくなっていき、森のような場所までやって来た。
「ここから、森の中だね。点々と家がある感じがあるけど、家を巡っていく形にする?」
「生存者がいる可能性を考えれば、その方が良いかもしれません」
「よし、じゃあ、近くの家をまわりつつ、北を目指していこう」
香織達は、走りながら家々をまわっていった。半日かけて、北端へと辿りついたのだった。その間、生存者は、一切見付かる事はなかった。
「はぁ、私達の捜索範囲だと、生存者ゼロかぁ」
「まだ、まわってないところもあるわ。早合点する事もないわよ」
「そうだよね。でも、一番の問題は、沈んでいた範囲だよ。沖縄本島が全体的に沈んでいたのなら、食糧に問題が出てくる。一ヶ月間生き残れるかどうか……」
「そうね。取りあえず、捜索は明日も続けるとして、今日は野営にするわよ」
「そうだね。焔と星空も準備して」
「はい」
「分かった」
香織達は今日の野営の準備を進める。翌日は、香織と咲、焔と星空に手分けをして、くまなく捜索を行うことになった。南側は、玲二達が進めてくれるので、北は、自分達で捜すことにしたのだ。
捜索は、三日間続いた。北側に捜すところがなくなった。結果は……
「こっちは、いなかったよ。そっちはどうだった?」
「こっちも同じです。地上部分は全部捜索しましたが、誰もいませんでした」
「じゃあ、私達が、見つけた遺体が、この辺りの最後の生存者だったのかもしれないわね」
香織と咲は、生きた人を見つける事は出来なかったが、遺体を見つけてしまった。その遺体は、死んでからかなり経っていたようで、腐敗が進んでいた。念のため、遺体は燃やして灰にしていた。
「坂本さん達が、何か見つけてくれてると良いんだけど」
「後は、他の島ね。ここら一帯の水面が上昇していたなら、他の島も沈んでいた可能性があるけど」
「行ってみる価値はあるかな。でも、それには船の建造が必要だね」
「そうね。現状、使える船舶なんて存在しないものね」
この二年間で、船の類いも飛行機と同じように、使い物にならないものが多くなった。中には、使えるものも存在するかもしれないが、モンスターの攻撃には耐えることが出来ないだろう。そのため、他の島に向かうのなら、一から船を作ることが必須となるだろう。
「周辺諸島を調べるなら必須ね。帰ったら、坂本さん達にも相談してみましょう」
「そうだね。明日は、空を駆けて、空港に戻ろう」
「分かりました」
「うん」
香織達は、ご飯を食べてから、それぞれのテントに入った。布団に入った後も香織は、眠れずにいた。
いつもなら聞こえるはずの隣の寝息が聞こえないことに気が付いた咲は、瞑っていた瞼を開く。
「どうしたの、香織? 眠れないの?」
「うん。今日まで、普通にモンスターを倒してきたけど、それは、私達に異常な力があったからでしょ? それがなかったら、ここみたいになっていたのかなって……」
香織達が今日まで生きてこられたのは、異常な力を手に入れた結果だ。これがなければ、最初のモンスターの大量発生の時点で死んでいる。
「そんな事ないわよ。関西の冒険者や北海道でも人に会っているでしょ? 必ずしも、こんな事態になるってわけでもないはずだわ。そもそも赤龍とリヴァイアサンなんていう二体の化け物が、同じ場所で暴れること自体が、珍しい事でしょ?」
咲の言うとおり、赤龍とリヴァイアサンが争っているところを直接見た人はいない。それに、その激戦の跡を発見したのも、ここが初めてだ。
「こんなことあまり言いたくないけど、ここは運が悪かったのよ。赤龍とリヴァイアサンの二体の領域を侵犯してしまったから、二体が出会う事になってしまったんだわ」
「お母さん達が大丈夫かな?」
「大丈夫よ。疑うよりも信じていましょう」
咲はそう言って香織を抱きしめる。香織が心配になった原因は、両親の事だった。権利保有モンスターの戦いが、こんなにも激しいものだとしたら、まだ領海権と統治権が残っているアメリカでは、起こり得ることだ。
「うん、そうだね。ちょっと弱気になってた」
「仕方ないわよ。大事な両親だもの。心配になるのも当然だわ」
咲は、無意識に香織を抱きしめる力が増す。それに、香織も気が付く。香織は、咲の方に身体を寄せる。
「もう寝る」
「そうね。おやすみ」
香織は、咲に抱きしめられながら眠りについた。咲も、すぐに眠りにつく。いつの間にか、香織を抱きしめる力は緩んでいた。
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香織達は、二日掛かった道のりを、空を全力で走ることで、一日で消化する。空港に着くと、玲二が他の冒険者から報告を受けている最中だった。その報告が終わるまで、香織達は待っていた。
「すまん、待たせたな。どうだった?」
「一番北まで行ったけど、生存者なし」
「そうか。こっちも見つける事は出来なかった。それに、街のあちこちに戦闘の跡が残されていた。あれは、赤龍とリヴァイアサンのものだと思うのだが、どう思う?」
玲二が調べた範囲でも、同じような激闘の跡が存在したようだ。
「私も同じ意見。それと、リヴァイアサンが死ぬまで、ここは沈んでいた可能性も高いよ」
「家屋が湿っていたからな。その通りだろう。この調子だと、生存者はいないだろうな……」
玲二は、沈んだような顔になる。
「周辺の島はどうするの? 調べる?」
「そうだな。そのつもりだ。契約で許可を貰えるか? 周辺諸島に関しては、俺達で調べる」
「そう? 分かった。ここでする?」
「いや、一度、本部に戻ろう。急だが明日戻る。そのつもりでいてくれ」
「分かった」
香織達は、飛行場にある野営地に、自分達のテントを建てる。すると、探索を終えた万里と恵里が走り寄ってきた。
「皆さん、おかえりなさい!」
「久しぶり!」
万里と恵里はそう言うと、焔と星空に寄っていった。
「二人はどこを調べてたの?」
他の冒険者の動向が気になった香織は、二人にそう訊いた。
「私達は、この周辺を念入りに探索していました」
「でも、あまり収穫はなかったよ。入っても問題なさそうな家とかも入ったけど、これと言ったことは分からなかった」
「基本的には、そうなるよね。私達も同じだったし。まぁ、今回は、フィールドダンジョンがないだけマシって感じかな」
その後、香織達は、情報を交換しつつ、夜を過ごしていった。そして、神奈川に帰る日がやってくる。冒険者が全て乗ったのを確認して、飛行機が飛び立った。
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