88.街中へ
空港を出た香織達の目に映ったのは、ボロボロに崩壊した廃墟の群れだった。
「……これは、予想以上ね」
「人が住まなくなって朽ちたという感じではなさそうですね」
「取りあえず、全体的に見ていって、気になる廃墟には入ってみよう」
香織の提案に、三人が頷く。香織達は、廃墟の群れの中を歩いていった。原型を保っている家屋は、かなり少ない。
「ちょっと待って」
香織が三人を止めて、一つの廃墟に入っていく。それは、何の変哲もない廃墟だった。
「うん。やっぱり……」
「どうしたの?」
「すごく湿っているのに、木材が腐ってない。もしかしたら、私達が来る前まで、ここは沈んでいたのかも……」
香織は、そう言いながら、家の中をサッと見回す。
「二階かな」
香織は、家の外から二階に上がり、中を覗く。すると、壁に境界線のようなものがあった。
「沈んでいたのは、確定だと思う。多分だけど、リヴァイアサンの仕業かな」
「なるほど、水の中に沈んだ木材は、腐敗が進まないのね。じゃあ、ここら辺に生存者は……」
「いない可能性が高い。あり得るとしたら、高台かな」
「リヴァイアサンが、いつ沈めたのか、どのくらいの期間沈めたままにしたのかが重要ね」
リヴァイアサンは、香織達が一ヶ月くらい前に倒しているはずなのだ。それなのに、木材が湿っているということは、つい最近まで沈んでいたと考えられなくもない。
「リヴァイアサンが生きている間は、ずっと沈んだままだったって事ですか?」
「そういうことだと思うよ。まだ、確定ではないけど」
香織達がそう話していると、香織の服の裾を星空が引っ張った。
「どうしたの?」
「あっち」
香織達が、星空が指さす方向を見ると、遠くに黒い家屋が多く並んでいた。
「何だろう? あっちだけ黒い家が多いね」
香織達は、黒い家屋の方に向かった
「これは……」
そこには、黒く焦げて倒壊した家屋が並んでいた。そして、その近くには、何かと何かが争ったような跡が刻まれていた。
「香織の予想が的中したみたいね」
「そうだね。赤龍とリヴァイアサンの争いか……かなり激しかったみたいだね。それに、ここの人々が巻き込まれたんだ」
「赤龍は、私の核ですよね? なら、この争いが起きたのは相当前なのでは?」
焔の言うとおり、香織達が赤龍を討伐したのは結構前だった。少なくとも、その前に、ここは沈んでいたということになる。
「生存者がいる確率が、さらに減ったわね」
「食糧を確保出来てたら変わるよ。奥に進んで探してみよう」
香織達は、さらに奥へと進んでいく。建物はほとんど崩壊している。無事なものは本当に少ない。
「所々、被害が大きい場所があるね」
「恐らく、米軍基地や飛行場ね。あの崩壊の仕方からして、赤龍の仕業だと思うわ」
「下手に侵犯してしまうと、ああいうことになってしまうのですね」
「そうだね。私達みたいな規格外の人がいないと、権利持ちモンスターと戦うのは厳しいだろうし」
玲二達は、近くに香織達が住んでいたから無事で済んでいるが、そうでなかった場合が、この沖縄の惨状だ。
「やっぱり、高台に向かおう」
「分かったわ。一番近くのものから順番に行くわよ」
「誰かいると良いんだけど……」
香織の願いは、最も悲惨な形で裏切られた。高台の上には、黒く焦げた家屋と、同じく焦げた遺体が重なっていた。戦闘の余波が、ここまで襲ってきたのだろう。
「…………」
「焔、星空、こっちに来てなさい」
咲は、焔と星空の目を塞ぎながら、その場を離れる。香織は、生存者がいないかを確かめるために、少し奥まで確かめる。
「全滅……かな……」
あらかた探し終えた香織は、咲達の元まで帰ってきた。
「その様子だとダメだったみたいね」
「うん。気配も何もない。この様子だと、近くの高台とかにはいなそう。このまま北まで逃げていったのかな?」
「その可能性は高いわね。じゃあ、空を駆けて北に向かう?」
「そうだね。焔と星空も空を飛べるよね?」
「はい」
「うん」
焔と星空の背中から被膜の張った羽が生えていた。
「じゃあ、北の方に急いで行って、生存者の確認をしに行こう!」
香織と咲は、空を駆け(文字通り)、焔と星空は、羽を羽ばたかせて飛んでいく。普通であれば、空を羽で飛んでいる焔達の方が速いはずなのだが、追いつくのが限界だった。
「何で、マスター達の方が速いの?」
「さぁ?」
星空も同じように疑問に思ったらしい。焔も、星空の疑問に答える事は出来なかった。
二時間程移動していくと、沖縄本島の半分くらいまで来ることが出来た。
「前よりも速くなった?」
「そうね。これもステータスを超えた力なのかもしれないわ」
香織達の異常な速度は、本人達も気付いていなかったようだ。香織達が焔達よりも速い理由は、咲の考え通り、神の領域に達していたからだった。この領域に達していなくても、焔達くらいには、速く走ることは出来るのだが。
「今日はもう夕暮れだし、野営にしよう」
香織達は、地上に降りる。一応、周りに家々が並んでいるが、そのどれもが崩れていた。そして、それはここに来るまでの道のりでも同じ事だった。
「赤龍とリヴァイアサンの戦いって、どこまで跨がってるの?」
「戦闘の激しさを物語っているわね。下手をしたら、沖縄全土が同じような状態かもしれないわよ」
「権利持ちモンスターの戦いは、本当にヤバそうだね。だから、黒龍も成長するまで、地下のダンジョンにいたのかな?」
「そうかもしれないわね。逆に、最初から成長していた赤龍とリヴァイアサンは、ちょくちょく戦っていた可能性があるわ」
ここに来て、赤龍やリヴァイアサンの生態の一端が分かった。基本的に空にいる赤龍と海の中を遊泳しているリヴァイアサンは、あまり接点がないと思われているが、二人の距離が近づいた時は、戦闘が起こっていたのかもしれない。
「焔と星空は、龍だった時の記憶はないんだよね?」
「そうですね。私の記憶は、マスターに造られた直後の時からです」
「私も一緒」
一応の確認で、香織は、焔と星空に訊いてみたが、二人とも首を振った。
「実際のところ、どこで戦っていたか分からないけど、他にも同じような場所がある可能性はあるって事だね」
「街の復興には時間が掛かるわね」
そんな事を話しつつ、テントを張っていく。
「明日の朝早くに動くから、二人も早めに寝なね」
「はい」
「分かった」
香織は、そう言いながら『近寄らない君・改』を周りに撒いていく。前に使った時よりも効果が強くなったので、周りに一切魔物が寄らなくなる。しかし、生産量がかなり少なくなるので、多用出来ないのが欠点だ。
香織が、モンスター対策をすると同時に、焔達がご飯の準備をしていく。咲は、周囲からモンスターが来ないか、常に警戒していた。
「ここに降り立った時から思ってたけど、モンスターの数が少なくないかしら
?」
「え? う~ん、確かに、ここまで見ないのは珍しいかもしれない」
「発生しない場所って事?」
星空が首を傾げる。
「どうだろう? 北の方に土地が残ってるなら、そっちにいる可能性があるけど」
「明日は、地上を歩くことにする?」
「そうだね。空にモンスターがいないだけかもしれないし」
香織は、咲の提案に乗ることにする。
「地図を見ると、ここから先が森みたいになっているから、そこにいるかも」
「積極的にモンスターと戦う方向で行くって事で決まりね」
香織達がそんな事を話していると、
「ご飯が出来上がりました」
と、焔が声を掛けた。
「分かった」
香織達は、ご飯を食べてからそれぞれのテントに別れて、眠りについた。
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