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仮タイトル ~しっくりくるタイトルが思い付かなかったけど、長いタイトル付けとけば何とかなるに違いない~  作者: イキヌキノイキヌキ
プロローグなどではないが、主人公の人柄だけは分かるかも知れない3つの話
3/15

3

「俺は今、機嫌が悪い。とーってもだ、とーっても」


 ××は剣を持たない右拳を強く握った。

 目の前にはゴブリンが十数イヤらしい笑みを浮かべ迫り来る。

 ゴブリンと対峙し、退治しようと……いや何でもない。行く手を阻まれていた。

 ××はまともに魔物討伐したことはなく、クエストすら受けたことのない。いわゆるペーパードライバーならぬ、ペーパー冒険者(アドベンチャー)だ。その上、日帰り薬草採取のクエストを受託して武器を持たず身一つで来ていた。

 深緑に醜悪な風体、スキンヘッド。腰丈の身長ではあるが、十数の群勢で現れ数は少なくはない。手には粗雑な使い古したような剣やこん棒を装備。その凶悪さは、魔物に関する書物に描かれていた通りの見た目だった。


 同い年くらいの少女は震えながら、俺の服の裾を掴んで後ろに隠れている。引っ張られた服からぎこちない振動が背中を通して伝わる。


 湿気た嫌な雰囲気を孕んだ風が、背中から腕を撫でるように吹き、周りの青々とした植物達を揺らした。

 足元の雑草には黒ずんだ血らしき跡がある。

 そして、少女の服にも。


「俺は金属錬成の素質で、戦闘に向かないのは十二分に知っているさ。ずーっと、そういう扱いされてきたんだからな!」


 ゴブリンはこちらに向けて、ギャアギャアと声を発した。雑音が重なり忙しなく鳴き続ける鳥の地鳴きよりも騒がしくする。


「お前らゴブリンが(うっす)い知能があって理解してるのかもしれない。直感的なのかもしれない。だがな、俺をバカにしてるは、よーく分かる。この世界に存在する色んな能力の中でも最弱だからな。この能力でどれだけの! 人にだってバカにされてきたんだ! お前達の態度も確かにムカつくが、俺が一番(いっちばーん)ムカついているのはそこじゃない」


 俺は早口にストレスを投げつけて、ゴブリンに向かって指を指した。

 ゴブリンはその動きに一瞬だけびくっと震わせ警戒し、注目が集まる。


「この世界のゴブリンはなぁ!」


 ゴブリンが臨戦態勢から攻撃に入ろうとした瞬間、内部から複数の(ヤイバ)が突き出て絶命した。

 今までに存在しない異様な姿の死に方に、残りのゴブリン達の叫びと動きは止まる。

 理解できるはずのない新なウィッチクラフトを目の当たりに、現状を必死に理解しようとしいるのだろうか。慈悲はない。


()ぇーんだよ! なんなら子供だって難なく倒せるくらいだよ! 特にな……特に苛立ってんのはなぁ!」


 一体、二体と同じ内側からの串刺したゴブリンの死体は増える。

 動こうとした瞬間に、イメージを発動させる。魔法はイメージだ。体内から刃が突き出るイメージ。何も無いであろうゴブリンの内臓の内から植物のイガのように、内から外に向かって体の組織を切り裂くように鋭く、素早く。


(わり)ーが、こっからはただの八つ当りだよ!」


 ゴブリンは逃げる間もなく、無惨にも死体は増えていく。

 適性外の魔法は錬度が物を言う訳ではないという事がわかる。自分のイメージより遥かに劣っており、足りない部分を補うだけ魔力を食う。


「お前に言っても仕方ないのは分かっている。お前らに八つ当りするのは間違っているのも知っている。だけどな、だけどなぁ! お遊戯に付き合わされるこっちの身にもなってみろぉ!」


 魂の叫びと共に最後のゴブリンを串刺にすると、余程興奮していたのか自分は肩で呼吸していた。

 刃の突き出た十数のゴブリンが森に散乱し、グロテスクな光景が広がる。

 自分がしでかした事であるが、初クエストの記憶がこの光景。

 心が辛いのと匂いが脳にこびりつくようで、当面の精神に影響しそうだ。本日の夕食には確実に。


 タイミングを計ったかのように日差しは雲間から俺の事を照らす。

 日差しまで……と考えると眉間にシワが寄り目眩がする。


 目の前に来て少女は、

「××さま、ゴブリンに襲われ窮地に陥っている見ず知らずの私を助けて頂き、本当に、本当に! 感謝しても感謝しきれません。お遊戯の意味はワカリマセンが、此度のお力添え感謝いたします。あぁ立ち眩みがっ!」

 台本があるかのようにこう言ってのけた。

 ご丁寧に手を握りながら。

 立ち眩みで誤魔化せると――思ってるんだろうなぁ。

 あからさまに機を狙ったのは天気などではなく、こっちの女だった。

 この女の顔に焦点を合わせようとするのを俺の目が拒絶する。

「もう嫌だ……」

 そんな心の声をそのまま口に出す回数は増えている。

 幼い頃ははこんなんじゃなかった、希望に満ちてと振り返る事も多くなっていた。


「そんないけずな事を仰らず……、図々しいお願いだとは存じますが、私達の荷車の護衛もお願い出来ないでしょうか? 報酬は弾みますので!」


 逃がすまいと腕組んでをロックして動きを制御する。

 余力があればゴブリンを倒せるのでは? そんなこと考えたからか、段々と腕が締めつけられる。

 ゴブリンを圧殺出来るに違いない。ついでに俺の腕が鬱血してるに違いない。


「申し遅れました私、××という者で、××の一人娘で――」


 ××? 聞覚えが……、××、××、××伯爵。伯爵!? は!? とんでもねぇ奴を配役したなぁ! こいつは雇ったエキストラかも知れないが、やべぇのが関わってやがる。

 アイツだけでも手一杯なのに、余計な手間を増やして!

 どうしてくれるんだよ!

 

 こうして俺は、この世界初であろう、ゴブリンに襲われた少女を助けた称号を手に入れてしまった。

 これは、自分の妄想称号で無いのだろうなぁ……。

 ストレスで吐きそうなのと戦いながら、頭の中ではこれからどう対処するか考えを巡らせていた。


「さあ、私達の馬車はあっちです!」

 少女に腕をガッシリ組まれ森の奥へ連れられると、何故だか頭の中にくまさんの曲が流れ出した。

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