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仮タイトル ~しっくりくるタイトルが思い付かなかったけど、長いタイトル付けとけば何とかなるに違いない~  作者: イキヌキノイキヌキ
プロローグなどではないが、主人公の人柄だけは分かるかも知れない3つの話
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 講義終わりに廊下を歩いていると「やっほー」と少女が手を降り近寄って来た。

 馴れない学園生活に疲労が溜まっていたせいか、見覚えのある酷く安心して顔が緩んだ。

「これはこれは、××様」

「やめてよ。今じゃ貴方の方が立場が上なんだから、かしこまるのは私の方よ」

 昔からの癖、耳周りの綺麗な艶髪ロングの赤髪をかきあげた。


 僕の能力の決定が下された後、先程のハイテンションだった自分の心は嘘のように落ち着き払っていたのをよく覚えてる。

 そんな気持ちを置いていくかのように、両親だけじゃなく周りは祝いに騒いでいた。そのせいかもしれないな。

 人を冷静に見れた。

 ××も表面上は喜んでいたものの、心から祝えていなかったのを俺は察していた。

 取り巻く環境が一瞬にして変わるなんて物語でしばしばあるが、この時点では将来の話で見通せる訳もなく、その瞬間を切り取っただけの感情が流れ込んでいたのだと思う。

 イジメや誹謗中傷は物語の中だけであって欲しい。

 それでなくても立場が一瞬で逆転するなんて×才には酷な状況だ。


「私の片親が金性だったら良かったのになぁー」

「これはこれでしんどいぞ?」そう言うと彼女が不機嫌そうにしたから、ちょっぴりのおどけた雰囲気を出して「どの能力にも相応の苦労があるのさ」と付け足した。

 彼女は少しだけ黙り、「貴方は気楽そうなのにね」寂しげに言って手を降り別れた。

「ドベだし! ある意味では気楽だよ!」

 彼女の背中に向かって叫び、振り返り見てもないのに大きく手を降った。


 魔法とは14に分割されている能力は、皆に分け隔てなくこの世界の住人に等しく与えられる、と聖書の一文に書かれている。

 その通り皆に等しく一つずつ与えられる。

 それが平等とするのであれば、平等なのであろうなと、それだけの平等だと思う。

 それでも不満は誰もが有している。

 選べないという非選択の不自由さは俺が一番に感じている。

 俺は一度だけ彼女に言った言葉が今でも変わらない。

 隣の芝は青いのだ。


 奇麗事が並べられた文書ほど、現実は書かれているほど美しい世界ではなく、能力に差は確実に存在する。

 能力自体が身体にも、知能にも影響している。傾向ではなく、明確に出ている。明確に熱や身体能力が高く、雷は知能が高い。

 中でも一線を画いている能力が金性のプラス能力。悪い意味で。


 14属性に序列というものが決定されたのは自分が誕生する何十年も前の出来事、大抵の歴史書にも書かれており、講義に取り入れる位に周知のものだ。

 万物の創造に近しい金属性は、14の中で唯一の無から有を作り出す能力だと現在進行形で神聖視されているのは表向き。

 史実はいつの時代も政治と財産家の癒着は切っても切れない関係と言わんのものであろう。

 今でそれなりの数減ったものの、未だ資産家の昔ながらの貴族は半数と多い。新進気鋭という名の分家も足せば、政治介入も想像も容易い。

 当時は資産家の八割以上はその能力の所有者だったのだから、必然といえば必然か。


 金属錬成は特異能力であり、他能力とは一戦を引いた能力であるのは、保有する立場になれば嫌でもそれが理解させられる。

 大多数の他人からすれば特異()されている能力であり、脆弱な能力だ。

 自衛の為の法律といった見方も無くは無く、当時の制定に介入した本人しか知らず、お(かみ)のみぞ知るって話。


「あー! ××くん。こんなところにいた! もー、講義始まっちゃうよ! 移動教室なんだから」


「すまんな。クラス委員長(リーダー)


 そういえば、こいつもコンツェルン系の家柄のお嬢様だったな。


 能力は先天的な要素と五歳の儀式までに形勢される。

 遺伝の一言で言い表せるのだが、変異変性も少なからずと、どうも確証がないらしい。

 今まで結論がないのだから、余程の発見もない限り曖昧のままなのだろうな。

 それでも婚約も狙ってするのだから、遺伝は大きい要因らしい。

 父上が母上と婚約するにあたって色々あったらしく、古参の使用人らは苦笑いするだけで経緯は聞けていない。

 無理してまで聞くことではないので、とりあえずそっとしておこうと思う。

 まぁ両親が、この能力を狙って婚約し、それが原因で敷かれたレールを走らされているのなら許せんよ。心踊らせた妄想計画の全てを頓挫させた罪は重い。


 自分の場合は運が悪かった、そう思うことにした。

 無駄に考えるのもエネルギーを使うしね?


「まったく、××くんには先導者としての自覚が無いのかなあ?」


「……ヴァンガード、ね。都合のいい言葉だ」


「ば、ばぁん? え? なに?」


「なーんでも、早く行かないと遅刻だよ、遅刻」


 俺は少女を置いて走り出す。


「え? ま、待ってよー」


 少女も走る。

 予鈴が鳴り響く校舎の廊下を二人の少年少女は走った。


 #


「さぁ、皆で仲良くする時間です。皆で一緒に遊びましょう」


 しんどい。

 字面でしんどい。

 いや、やる意味は分かるよ?

 未来を担う人物が集結しているのですから、横の繋がりは大切ですし、そりゃあ出来れば仲良くした方がいいに決まってますよ。

 でも言い方ってものがありますよ。

 友好とか親睦とかなんかありません? カリキュラムに記されたまんまの授業名でも良かですよ?

 仲良くって。


 鬼ごっこが出来そうな無駄に広い多目的室に集まっております。

 ××教諭はいつも通り胸焼けがするまぶしい笑顔ですね。


「さあ、皆さん! 何をしましょうか?」

 さっきのリーダーが立ち上る。

 まとめ役は単純に成績で決められた。

 それに合った家系も持ち合わせているから、教諭陣に都合良かったんだろう。本人やる気あるし。

 俺はクソなコンビニ店員のように心の中で、彼女に純金というアダ名を付けている。

 金プラスの両親(りょうおや)の子だからと単純な意味。

 ムカつく時は血統書とか天然記念物とか変換するが、髪色の雑じり気のない金色が、やっぱり純金って感じがする。

 当然、そこは口には出さない。細心の注意は払っています。不敬罪で打ち首までありうるので。


 よくこんな面倒な事をやるなあと思うのとある意味で有難いと思うのが混在する。やる気のあることは素晴らしい。俺に面倒がまわってこないのだからな。


「××くん、何かありますか?」


 俺かよ。

 まあ、皆がイイコちゃん多少のアウトロー風は、問題児に見えますかね? やけに当たりが強くので。


「うーん……。参観とかに向けての演劇練習とかどうでしょう? 近くの催しとかに使えるので。日頃の感謝とか表現……、出来ませんかね?」


 王族や上級貴族の意見、もとい機嫌を伺いつつ言葉を選ぶが、そんな面倒な事をしない。

 客観的問題児なので好き勝手言えるし、言う。

 そして、損して得取れ策戦。


「××くんが、そんな手間のかかる素晴らしい案を発案するとは思いませんでした。皆さんいかがでしょうか?」


 時間効率考えたら最高の案ですよ。居残るであろう将来を前倒しして、この無駄な時間を有意義に使えるんですから、我ながら天才まである。


「皆さん、大変な部分もありますが、協力して成功させましょう!」


 あーこれ、やる気スイッチ入った感じだわー。

 思惑通り、チョロいわー。

 一桁才が行うお遊戯会に何の難しさがありますか。大変なのは周りの大人という黒子ですよ。僕達はなーんも言われた事をやるだけの動く歩道ですよ。

 自分木の役やりますんで、目立ちたい人目立って下さいって感じです。


「では、××は脚本家に知り合いがいましたね? 手配を。××は装飾とドレス、××は舞台装置に、あとは――会場! 会場と講演の日程ね。どうしましょうか? ××教諭」


 え? 近くに発表会見せる感じですか? 将来的にって言いませんでしたか? ログ的に思い返して――、言ってませんでした。やべぇ。

 スイッチ入り過ぎてる気が、エンジン効き過ぎてません? むっちゃ早口。ウケる(笑)。過度に脳内変換されてません? まじやばたにえん。暴走とまらん。ありえん(笑

 うん、落ち着こう。落ち着いて。

 ……

 こっちに予定以上の被害はない、ないが、大事になってない? 巻き込みえげつないが。

 不用意です。不用意。あの素敵笑顔××教諭の額にも脂汗が、すんません、大人の皆さん。すんません。こっち見る余裕さえないでしょうが、目でも謝罪。猛省してます。はい。こうなったら最後という覚悟してるでしょうね。自分にはどうしようも、どうしようも。後は任せます。

「あっ、発案者の××は総指揮もやって欲し――」


 逃げました。

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