首括り電車
ガッタンガッタンガッタン
また電車が止まる事なく通りすぎる。
あの真黒な電車だ。
その電車は夜となく昼となく俺の目の前を通り過ぎる。
窓ガラスに映る人達は電車と共に揺れる。
ユラユラユラユラ
てるてる坊主の様にぶら下がっている死体。
日によって一体だったり、電車一杯だったりする。
皆首を括っている。
何時からだろう。
首括り電車の噂がたったのは?
何時も使う駅で、女子高生が友達と話していた。
___ ねぇねぇ知ってる。首括り電車の話し ___
___ なに~なに~? 知らな~い。首括り~電車? 聞いたことないよ~ ___
___ その電車は昼となく夜となく咎人の前に現れるんだって ___
___ 咎人? って罪人の事よね~? ん~ん? それって罪を犯した~人ってことよね~ ___
___ そう首括りの電車は咎人を地獄に連れて行くの ___
___ きゃはははははは~~❤ それなら~あんたその電車に乗れるじゃない~ ___
___ あら。失礼ね。あんただって同罪でしょう。真理子を死に追いやったくせに ___
___ 真理子が~気に入らないって~追いかけ回したのは~あんたでしょう~ ___
小さな鏡で前髪をいじりながら女子高生のお喋りは続く。
___ それに~真理子が勝手にトラックに轢かれたのよ~。私達のせいじゃないわ~ ___
___ そう悪いのは信号を無視した真理子とトラックの運転手ね ___
___ そう~そう~私達は何にも悪くないわ~~ ___
下品な声で嗤う女子高生。
ああ……醜いな。
彼女達がその醜さに気が付くのは何時だろう?
確かあの制服は春宮高校の制服だ。
名門校だったが、やれやれ落ちこぼれは何処にでもいるもんだな。
___ (それよりもここ監視カメラ無いわよね) ___
___ (う~ん。人も余り来ないみたい~) ___
___ (私ね。真理子の死にざま見てから、またあれが見たくなったの) ___
___ (うん。真理子は不細工だったけど~。彼岸花みたいに綺麗だったよね~) ___
___ (次の電車が来たら。やっちゃう?) ___
___ (クスクス。やっちゃう❤ やっちゃう❤) ___
何やら二人の少女は俺を見てクスクス笑っている。
ガッタンガッタンガッタン
またあの電車が、やって来た。
キキッ―‼
あの真黒な電車が止まる。
えっ? 止まったのを初めてみた。
___ ちょっちょっと‼ 何よこの電車‼ ___
___ 真黒な首括り電車‼ えっ? 嘘~嘘~噓~噓~‼ あり得ないよ~単なる都市伝説なのよ~‼ こんなことある訳ないわ~~ ___
二人の女子高生はギャーギャー喚いている。
ギギギー
耳障りな音を立ててドアが開いた。
一人の少女が立っている。
彼女も二人と同じ制服を来ている。
三つ編みの長い髪が風もないのに揺れている。
最も彼女の制服は血塗れだが。
___ ひっ‼ 真理子‼ ___
___ 私達が悪いんじゃないわ~‼ 真理子が勝手に飛び出したんでしょう~~~‼ ___
___ そうよ‼ 死者はサッサとあの世の行きなさいよ‼ ___
=== そうね。死者はあの世に逝くべきだわ ===
壊れた鈴の様な声で彼女は言う。
じゅるじゅると何かが床を這いずって二人の少女の足に絡みつく。
___ ひっ‼ ___
___ きゃ~~‼ ___
二人の少女は足を引っ張られて無様に転ぶ。
振りほどこうとしてそれが腸だと気付き固まる。
人間は本当に驚いたりショックを受けると声が出ないって本当だな。
悲鳴を上げる事さえできず二人の少女は藻掻くが。
腸は二人の少女の体を絡めとると電車の中に引きずり込んだ。
腸は二人を吊るすといつの間にかロープに変わる。
首吊りって最悪だな。
映画や怪談話で首吊りの話が出てくるが。
あれは綺麗に加工されたものが多い。
日本では首吊り自殺が多いらしいが。
何でもたいして苦しまずに死ねるらしい。
だが、首吊り死体って最悪なんだよな。
見つけた奴にとって。
目は飛び出し、舌は垂れ下がり。
糞尿は垂れ流しだ。
死斑の色は暗い紫で。
最初に死体を見た奴に確実にトラウマを植え付ける。
おや?
この首括り電車では違うようだ。
すぐには死ねないみたいだ。
吊るされてからも藻掻いている。
俺は前から思っていた事があるんだが。
何故? 地獄が恐ろしいのか?
もう死んでるから死ねないって事だ。
=== 彼女達は気付いてなかったけれど。彼女達も私が死んだ時、トラックに轢かれて死んでいたの ===
「ありがとう。助かったよ」
俺は彼女にお礼を言った。
あの二人はひそひそと話していたが。
会話は全て聞こえていた。
彼女達は自分達も死んでいる事に気が付いていなかったようだ。
幽霊になって人に危害を加え続けると悪霊になる。
=== 彼女達はすれちがった人を車道につき飛ばしたり、階段から転がしたり、幾人もの人に大怪我をさせてきたの。私が助けたから死ぬ事は無かったけれど ===
生きていた時も糞だったが、死んでからも糞な奴っているんだな。
___ ちょっと‼ 早くこれを外しなさいよ‼ ___
___ そうよ~‼ 真理子のくせに生意気よ~~‼ ___
二人の少女の喚き声が聞こえた。
死んでいるのに元気だな。
ブシュュュ~~
首括り電車のドアが閉まる。
ガッタン……
電車が走り出す。
___ ちょっと‼ 降ろして‼ 降ろしなさいよ‼ ___
___ 真理子~~~‼ 覚えてなさいよ~~~‼ いい子ぶって‼ 私達の邪魔ばかりして~~‼ 私達はただ綺麗な彼岸花が見たかっただけなのに~~~ ___
本当に死んでいるのに元気だな。
俺はため息をつく。
あんなのを裁く閻魔様が気の毒になってくる。
「あっ……君も逝くんだね」
=== はい。彼女達を捕まえましたから ===
俺は彼女に手を差し伸べる。
少女は微笑んで俺の手を取る。
彼女の体は淡い光に包まれるとやがて消えていった。
俺は携帯を取り出すと左手で電話番号を押す。
「ああ……俺だ。うん。除霊はすんだ。彼女は逝ったよ。それともう一件も終わった」
『そっちも除霊したの?』
「ああ……違う違う。そっちは首括り電車が連れて行ってくれたんだよ」
『都市伝説じゃなかったの?』
「ちゃんと存在しているよ。言ってなかったっけ? 俺も何度か見たことがある。マジで地獄電車だったよ。あの二人は地獄にお持ち帰りされた。今日はこれで帰る」
『あ……そこからだったら、有名なケーキ屋さんが近くに在ったわね❤ モンブランお願いね』
「はあ~~~俺疲れてるんだが……」
『モンブランお願いね❤』
携帯から殺気が漏れる。
「分かりました。モンブラン買わせていただきます」
『楽しみに待っているわ~❤ あなた~❤』
妻は携帯を切った。
俺はため息をつきケーキ屋に向かう。
これでも俺は有名な祓屋だ。
鬼や悪霊に恐れられている。
しかし妻には頭が上がらない。
~ 完 ~
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2020/7/27 『小説家になろう』 どんC
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