2話「猫術ですって?」
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「どうやらガチャを引いたようだね」
ガチャって言ったよビュレット!? 何で?転移特典の能力の話なのに?
「……モエは戸惑っているみたいだから説明するけど、この猫たちは猫そのものじゃなくて能力や装備と言った与える特典能力を具象化したものよ。大きく3つのグループに分けて、ある程度お手軽にセットした一式を、猫の姿と心を与えているの」
「……ツッコミたいところが多いのですけど」
「まず3つのグループは、『戦士系』『魔法使い系』『レンジャー系』ね。これはグランテッドでの戦闘スタイルを大まかに分けたものよ。いわゆる冒険者クラス(職業)はもっと細かく分かれるけど、それは実際に行ってから決めてちょうだい」
「戦士や魔法使いやレンジャーはどんな基準なのです?」
「近接戦闘タイプが戦士、遠距離戦闘タイプが魔法使い、支援戦闘タイプがレンジャー、それにスキルと主な戦力で戦闘スタイルは決まるわ」
「戦力ってなんですか?」
「魔法か闘気か。これは戦闘に使う力の種類ね。根源としてはどちらも同じものであり、違うものである。魔法はイメージの通り、万物にあるマナを集めてコントロールする力。闘気は自分の中のマナを生命力としてコントロールする力、いわゆる『気』ね。どちらも魔術を学んだり肉体を鍛えて修練しないと使えないけど、転移特典として簡単に使える様にあらかじめ刻み込んであげるから心配しないで」
「刻み込むというワードに不安が…」
ビュレットはドヤ顔をして語っているけど、勝手に体や心を弄られるのは不安しかない。私だけじゃなく優紀だって不安だろうし。そう思って振り向くと何も考えていない無表情な優紀が…。ああ、こんな奴だったよ…。
「萌絵、どうしたの?」
「何でもない、優紀の顔が見たかっただけ」
「///」
「なぜそこで照れる…?」
いつも通りの優紀を見て、落ち着いたのも確かだ。さて、もっとビュレットに話をきかないと。戦闘スタイルについて勘違いしていたのだけど、システム的にクラスを決めるものじゃなくて、自己申告的なクラスらしい。
例えば基本は魔法主体でも、戦い方は自由。『魔法剣士』や『魔法弾手』とかあるとの事。前者は魔法剣や肉体強化で戦う近接型魔法戦士で、後者は魔法の弾幕や高速移動で戦う中距離型魔法戦士。
どちらもその人の戦うスタイルで決めているし、魔法剣士が弾幕を打つ事も、魔法弾手が魔法剣を使う事もできると言う。
私が密かに憧れていた、魔法戦士の夢は断たれなかった。一度は憧れるよな、魔法戦士!
「お手軽セットって言ったのは、この3つのスタイルに合わせた特典の組み合わせよ。例えば戦士系のスキルを取ったのに装備がレンジャーならともかく、魔法使いだと苦労するでしょ?そんな事が無いようにある程度合わせた組み合わせになっているの。戦士系スキルと戦士系装備。魔法使いスキルと魔法使い装備。レンジャー系スキルとレンジャー系装備。特典ガチャは親切なのよ」
「……っていうかガチャってなんです?何で自分で詳しく選べないのですか?猫の姿なのも謎ですし、外からじゃ分からないのも不親切なのでは?」
少しビュレットに慣れてきたので、言いたい事をツッコんでみた。このまま何も詳しく聞かないととんでもない事になりそうだし。基本お気楽な優紀はそんな事を聞いてくれないし。私がやるしかないからね。
「猫は可愛いからよ!とても重要なのよ。猫は可愛いから、ガチャもこの姿なのよ!」
「そ、そうなんですね…。いえ、猫なのはまあいいんですけど、何で私たちが選べないのですか?自分で決めないと意味が無いのでは?」
「だって、何百とかあるスキルを、説明だけで知って、かつ自分に合ったものなんて分かるの?あなた達人間は、自分でなりたいものと、自分で合ったものの区別がちゃんとできるの?例えば魔法使いになりたい人が、本当は戦士に向いている。そのまま魔法使いとしての力を与えても、結局上手くいかずに失敗して、遂には命までも失ってしまう。……何回もそんな例を見てきたわ。私たちとしても簡単に死んでしまっては困るのよ。神力を送るのだって簡単な事では無いし、時間も予算もかかるのね。一度送って失敗なんかしたら、次まで何年もかかるし。
その間の管理が捗らないのも困るし。これは何度か試行錯誤した結果なの」
「そう言われると困ってしまいますが…」
「そうそう、ガチャという形式なのは、あなた達の運命力で引いてもらいたいからよ。神界のコンピュターで分析したモエたちの適正に合ったスキルを、何種類かランダムで選ばせる。星5とか星4とかはレア度。レアな程強いものよ。と言っても星5が最高だけど」
「星5ってどれくらい強いのです?4だと?」
「実際に現地で確かめた方が分かるけど、星5でキマイラとかワイバーンに有利に勝てるくらいかしら。…ドラゴンはやめた方がいいわ。転移者が何人かいて、やっと勝てるくらいだから。星4はゴブリンやオークに楽勝できるくらいね」
そんなに強くなかった!?いや、今の自分よりもずっと強くはなるのだろうけど、無双とまではいかないね。なんだよ、ドラゴンに勝てないくらいの特典なんて意味があるのか…。
「……ドラゴンは多くが世界の調整役だから、簡単に倒されても困るの。逆に言えばドラゴンはあの世界でも最強の一角だから、複数集まれば倒せる転移者ってすごい方よ」
「とりあえず生き残る分には充分なのですね。そういえば人間たちの中では転移者ってどれくらいすごいのですか?」
「うーん、星5のスキル、装備持ちの人間や亜人もそれなりにいるわ。過去の転移者の子孫や、修練して強くなった人や、生まれつきの天才とか。ただ、複数の能力が星5はめったにいないわ。だいたい一人一つが関の山よ」
「転移者は違うのですね」
「転移者、そして転生者ね。彼らは最初から特典として一つは星5の能力は持っているし、成長して星5に覚醒させる事もあるわ」
「……転移者とかってそれなりにいるのですかね?」
「まあ、今はモエたちも入れて13人ね。上限が決まっているから、それ以上はすぐは増えないわ」
「そうなんですか」
確かに他の転移者に会っても何を話していいのかわからないかも。魔王を倒すとか競争する訳でもないみたいだし。私には優紀がいるからぼっちじゃない。だからなるべくスルーする方向で行こう。
「まあそれは置いといて、一番聞きたい事があるのですが」
「なになに、何でも聞いてよね」
「私の特典、『猫術』についてです」
「……猫術ですって?」
ビュレットの驚いた顔を見て、私は思った。
(これ、もしかしてあかんやつかも…)
「猫術…私の得意な魔術よ。あなた達にも詳しく教えてあげるわ!」
ビュレットがそう言って取り出したのは1冊の本。そこには転移者に贈る特典のスキルや術、装備の一覧が載ってると言う。
「正確には神や悪魔の使うスキル等一覧だけど、そこから選ばれるからね」
「じゃあ神や悪魔と同じ力をもらうという事ですか?」
「いいえ、神や悪魔にしか使えない力、装備もあるから。星6のスキルは人間使用不可よ。星5までのものを与えられるから」
話していてもビュレットはすぐに該当するページを見つけたみたいだ。私たちにも見せてくれた。
【猫術】星5?:猫に似たナニカを創造できる。それは使役できる。または猫に似たナニカを召喚できる。こちらは使役できない。本当の猫も呼べる。
「猫に似たナニカってなんです?創造と召喚の違いもよくわからないのですけど」
「まず創造の方だけど、さっきあなたたちが抱いていた猫のガチャがそれよ。私がガチャの宝石を猫の姿に買えたのよ。よくできていたでしょ」
「え、あれはビュレットさんが創った猫?なんですね…」
「そうよ!本物の猫にそっくりにした上に、相手に合わせる選別機能までつけたの。モエもユキも、あなたたちに合った特典を自然に選ばせたのよ」
「こっちに近づいてきたり鳴いてみたりする猫が相性が良かったのですね?確かにその子たちから選ぼうみたいな気になりました」
「でしょでしょ。だけどあくまで猫っぽい行動だから疑いもしなかったでしょ」
「……別の意味で疑いましたけどね」
そういえば優紀が会話に入ってこないな。ちゃんと聞いているのか……え?
「あの~」
「それでね――、って何よ」
「優紀が、猫たちで遊んでいるのですけど……」
「そういえばモエしか話していないわね……って何してるの!」
優紀が猫を集めておままごとをしている。縞猫やら三毛猫やらに配役を振って、自分も参加している寸劇だ。
……なんで私がぶち猫なんだろう。ビュレット役はサバトラ猫だ。会話に入っていけないって、お前がこっちにこないのだろ?
「ちょっとユキ!私はサバトラの子よりも茶白の子が合うと思うのよ。モエは……ぶちでいいわね」
(おいおい何でやねん。私がちょっとぶざいくなぶち猫なのは変わらないのかよ。……いや、ここは我慢だ。ビュレットが優紀の相手をしているなら、今のうちに…)
ビュレットがさっきまで見ていた本。特典スキルの一覧が載っているという。興味が抑えられず、私はこっそり開いて見る。どんなものがあるのだろう。えっと…。
【畏怖されし七王】星6:最強の黒魔法。七つの大罪に因んだ七種類の魔法。神や悪魔のみ使うことを許される。あらゆる存在に通用する破格の威力を誇る。
憤怒の怪炎、嫉妬の雷剣、色欲の死花、怠惰の氷棺、強欲の影獣、暴食の消失、傲慢の爆散。
(いきなり凄いのきたな!これ人間には使えないのか…。何というか厨二心をくすぐるのだけど。……他にはどんなものがあるのかな…)
「あ!今度はモエが私の本を見ている!こら、止めなさい!……ユキはこっちに来て。猫たちは解散よ」
「あ、猫もえが行ってしまった…」
あーあ、すぐに気が付かれちゃったなぁ…。
20話くらいで終わる予定です。