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焦がれる刀のシャルーア  作者: ろーくん
悪欲の徒は踊る

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第78話 施した " モノ ”




「宿まで一人で大丈夫?」


 ウェネ・シーとレストランを出る頃、外はすっかり夜になっていた。

 活気あるジューバの町は街灯や建物から漏れ出る光のおかげで、細い路地を除けば暗い場所を探す方が難しいほど、町中は明るい。



「はい、大丈夫です。ごちそうになりました、ウェネ・シーさん」


 そう言って別れたのが2時間ほど前のこと。


 シャルーアは10分とかからない距離にある自分の宿に、まだ到着していなかった。








「~♪ ……よし、入り口の掃除も終わりっと。あー今日も良く働いたなーオイ」

 とある小さな店の前で鼻歌混じりに背伸びをする男。ともすれば山賊の類かと思われそうな風貌ながら真面目に働いている彼の名はクァッブ。


 あらくれ者然とした風貌ながら、これでもイチ商店の店長だ。……もっとも他に店員が一人もいない小店舗の主でしかないが、それでもその外見に似合わず、細々とした収入ながらマメで真面目な性格でもって日々しっかりと働いていた。


「はぁ~、せめて店が大通りに面してりゃあな。……ま、愚痴ってもしょーがねー」

 もう一度大きく背伸びをして、自分の店兼住居の中に戻ろうと彼が踵を返した―――途端、驚く。


「んなっ!? ……お、おいおい、お嬢ちゃん……どうしたんだいその恰好?」

 店の小脇の裏路地へと通じる道から出てくるように少女はいた。本人は平然としていて平然と立ち、平然と歩いているが、その姿は穏やかではなかった。


 元から布地は少な目で露出の多そうな服だが、あちこちシワ寄って胸の肝心な部分もズレて覆いきれていない。スカートの留め具が壊れたのか、腕に搦めて垂らしているその向こう側……下半身は何も履いていないスッポンポン状態。


 軽く匂ってくる男の臭い―――少女に何があったのか簡単に想像がつき、クァッブは慌てふためいた。


「ちょ、ちょっと待ってな、いま身体拭くモン持ってくっから!」

「あ、平気ですからお構いなく……それよりその、お願いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか??」




  ・

  ・

  ・


 次の日。


「さー、いらっしゃいいらっしゃい! いいモノ揃っているよ! そこのお姉さん、どうだねこちらの綿織、軽く見ていってよ!」

 朝からクァッブの店は、やけに賑やかになっていた。


 客足が増えた……だけではない。クァッブしかいなかったはずの店の前には、数人の男達が店員としてあくせく働いている。

 そんな男達の中心には昨晩、宿に帰らなかったシャルーアの姿があった。


「こちらが商品です。お買い上げありがとうございました」

 会計の済んだ品物を綺麗に整えて手渡す。

 年を召した女性がそれを受け取り、にこやか顔でほがらんだ。


「まぁまぁ、ありがとうねぇ。一体いつの間にこんな可愛らしい娘さんを(お嫁に)もらったんだい、クァッブ?」

「い、いやいや違うよラマばーさん。一時雇いさ、嫁なわけないって」

 するとラマと呼ばれた客は、おやそうかい? とすんなり話題を切った。


 クァッブはこういう事を言われると、たとえそうでなくとも “ へへ、そーだろー ” などと言って最初は肯定するような態度を取り、その後でおどけながら否定するというノリよく冗談を言うタイプだ。

 最初から違うと強く否定することはとても珍しい。



「クァッブさん! 出物が多くて空き棚が増えてやすぜ!」

「在庫はないんですかいー!?」

「お、おう、待ってろ今行く!」

 クァッブの店がこうまで混み合う光景も珍しい。特に安売り(セール)をしているわけでもなければ、品揃えが大きく変わっている様子もない。


「(ふーむ?? どうなっとるんじゃろうね?)」

 ラマにしてもそうだ。ただ店の前を通りかかろうとしたつもりが、何となく足を止めて店を覗いてしまった。


 クァッブの店は、反物をはじめとて様々な雑貨類を広範に取り扱うなど、品物に統一性がない。それでいて店そのものが狭いので、扱える量も少ない。

 なのでこの町の住人なら、買い物に訪れるにしても年1回あるかどうかで、しかも冷やかしに終わることが多い。


 そんないつもなら前を素通りする背景のような店で、ラマはエウロパ圏デザインの部屋着の古物を購入。それも入店から流れるように、不思議と陳列する品々の中からすぐ目がいってサラリと手にとり、気付けばお会計を済ませていた。



「(何より今日のクァッブの奴……いや、他の男達もそうじゃが、何か爽やかというか、妙に憑き物が落ちたような感じがするのう)」

 店員として働いてる男達は、話したこともなく名前も知らないがこの町の住人だ。どちらかといえば不真面目な方で、多少の日銭を稼ぎながら路地裏で暮らしているような者達だったと記憶している。


 ところがその顔つきはいずれも、まるで大漁に沸く漁港の市場のスタッフのような明るさと活気にあふれ、暗がりの住人たる陰気がまるでなく、快活で男前なオーラを放っていた。


「(……不思議なこともあるもんじゃのう)」

 それなりに長く生きてきたラマでさえ、初めて目にする清々しい小店舗の賑わう光景。彼らに一体何があったのかは分からない。

 だが、少なくともあの中心にいる少女が、何らかの影響をもたらしているのだろうと年長者の目は捉え、納得しつつ帰路へとついた。






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