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焦がれる刀のシャルーア  作者: ろーくん
邂逅

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第54話 旅の危険は砂嵐に隠されて



 ワッディ・クィルスから街道という名の砂の道を行くこと5日と8時間弱。

 リュッグ達はムカウーファという町に到着していた。




「ワッディ・クィルスからここまで、不気味なほど安全でしたね」

 ハンムは、あり得ないと言わんばかりに呟き、リュッグもそれに同意し、互いに嫌なものを感じていると、難しい表情で頷き合う。


「あまりにも気配(・・)がなさすぎる……。順調な旅路は歓迎するところと言いたいですが、奇妙に過ぎるのは手放しでは喜べません」

 町に到着して一息ついた途端、部下達がシャルーアを取り囲んで鼻の下伸ばしているその後ろで、二人は入り口から町の外を遠く眺める。


 視界には歩いてきた、砂地に残る一行の足跡。砂煙によって徐々に薄れていくだけの、どこまでも荒涼とした砂漠の光景だけが広がっていた。


「今は、砂嵐が来る前に町に到着できただけでも良しと考える事にしましょう。……シャルーア、こっちに来なさい」

「はい、リュッグ様」

 囲っている兵士達に戸惑っていた彼女だが、リュッグから声がかかれば彼らをかき分けて出てくるのに一切の遠慮なし。


 それはシャルーアにとってリュッグという人物の比重が、彼らよりも重いという事であり、兵士らは一様にぶーたれた。



「シャルーア、勉強の時間だ。……あの足跡を見なさい。頭の中で時間を数え、どれくらいで足跡が完全に消えるかを測るんだ」

「はい、わかりました」

 リュッグは砂嵐の兆候を知る手段の一つとして砂を含んだ風の強さを、足跡の変化から見て取る方法をレクチャーし始める。

 ハンムはシャルーアに振られて情けない態度を取ってる己の部下の元へ行き、活を入れながらまとめにかかった。


「お前達、まだついたばかりなのだぞ、やる事は色々あるのだ腰をあげろ。まず宿の手配だ、砂嵐が来るまでに滞在の準備を完遂する」



  ・


  ・


  ・


 ムカウーファの町近辺は、砂嵐が頻繁に起こる地域である。


 ファルマズィ=ヴァ=ハールの中部から北部へと差し掛かる位置で、ザブン・ケイパーの南西80kmほどの場所にある。


 なので、これまで主に東寄りの町を徐々に南に下るように移動してきたリュッグ達は、北へと戻るにあたり、別ルートを取る形となった。



「申し訳ありません、こちらの都合でわざわざ遠回りなルートを……」

 宿のロビーにて一息ついたところで、ハンムはリュッグに軽く頭を下げた。


 ワッディ・クィルスからジューバへと向かうのであれば、ザブン・ケイパーやワル・ジューア、サッファーレイを経由する街道の方が早い。


 しかし建前でも任務を申し付けられた軍人だ。上司より指定されたルートを行かねばならない。これはリュッグ達の道中に護衛をつけるかわりに、こちらの仕事を手伝わせようというオキューヌの故意でもあった。


「いえ、構いませんとも。急がなければならない用事もありません。それに、シャルーアにとっても見知らぬ地を旅させる事は良い学びとなるはずなので。それよりも」

 リュッグは、兵士達にまたも囲まれては何やかんやと話しかけられてるシャルーアの様子を軽く伺ったあと、気になっている事をハンムに話始めた。




「……道中、どう思います? ここまでの道のりは100km少々……決して短い距離ではなかった。にも関わらず―――」

「―――魔物のマの字も見当たらない……いえ、存在している気配すらあまりにもなさすぎる、ですね」

 道を歩いていたからと言って必ず襲われるというものではない。まったく襲われることなく目的地に到着する、というのは普通にある事だ。


 しかし、最近の魔物の出現頻度の上昇傾向にある情勢下にしては、彼らのここまでの旅路はあまりにもおかしかった。


 遭遇しなかったといっても、遠くにその気配なりを感じるくらいはあっていいはず。なのにそれすらなかったのだ。

 傭兵として長いリュッグは勿論のこと、兵士として日々鍛えられているハンム。彼らの戦いのカンがわずかな危険の微香すらも感じえなかったほど、平和な旅路であったというのは、逆に恐ろしい。


「見舞われる前に町に着けたのは幸いといえば幸いでしたが……」

「砂嵐が通り過ぎるまで1日……いえ、2日は滞在する事となるでしょう。我々はその間に、町中にて情報収集を行おうと思っておりま―――おや、きたようですね」


 ビュウウォオオオッ……


 強い風の音を聞きつけ、ハンムは言葉をきってつい窓の外を伺った。もっとも宿の窓からその激しい自然の荒々しさを見ることはできない。





 砂嵐の到来――――――宿の主人によればこの辺りじゃ珍しくもない気象現象。


 なのでムカウーファの町は、その造りが特殊だ。


 まず町全体が下に沈む形―――人工的に凹ませた大きな窪地にある。町の入り口自体は地表にあって、窪地を囲うように壁がなされているが、入り口をくぐって20mほどの所に、下へと降りる第二の入り口がある。


 本命の町がある窪地は、特殊な鋼板を骨組みにしたドーム状の天井で覆われていて、砂嵐がきても町は風や砂にほとんど晒されることなくやり過ごせる工夫がなされている。


 なのでムカウーファは砂嵐の到来中であっても、町中を平然と人が行き来していた。





「嵐の風の音が遠くに聞こえるというのは、なんだか不思議な感じが致します」

 この町のギルドに向かう中、シャルーアは町を覆うドームの高い天井を見上げ、ほぁーと感嘆の声を漏らした。


「まぁ、普通は頑丈な家に閉じこもっていても、轟々と唸るような音が聞こえるものだからな。言い換えればこの町は、それだけ砂嵐に晒されやすい場所にあるからこそ、こういう造りになったワケだ。成り立ちの歴史を知るのも面白いぞ」

 リュッグとシャルーアがギルド支部に向かうのを、当然兵士達が我も我もと同行したがった。

 しかし彼らは彼らで仕事がある。ハンム小隊長に拳骨(げんこつ)をくらった兵士達は、しぶしぶ町での情報収集に散っていき、ハンム自身は町長に話を聞きに行った。


「(全員が散開しての行動、か……さほど大きな町でないとはいえ何か胸騒ぎがする……)」

 そんなリュッグの不安は的中してしまう。




 ドゴォオッ……ン!!


「! 爆発?」

「リュッグ様、あそこに!」

 リュッグが音の出どころを探していると、シャルーアが3件先の建物からのそりと出てくる影を指さす。


『フルルルル……』


 町の往来の人々もリュッグも、すぐに反応することができなかった。


 その魔物はまるで、この町の住人であるかのようにゆっくりとした動きで路地から歩き出てきたのだ。


 しかし姿は異形も異形。その見た目と動きの奇妙なアンバランスさが一瞬、見る者すべての思考を鈍らせ、反射的な反応すら遅らせた。


「…ま、まま、魔物だぁぁぁぁーーー!!!!」

 町の人間の誰かがそう叫んだ瞬間、辺りは一気に動きだした。その状況の変化を受けて、リュッグもすぐにシャルーアの手を掴む。


「混乱に飲まれるな!! こういう時にはぐれるのは一番危ないっ」

「は、はいっ!!」

 シャルーアもリュッグの手首を掴み返し、はぐれないよう集中した。


 混乱した雑踏が四方八方へと逃げ惑い、リュッグとシャルーアにぶつかっても意に関せずに流れ去っていく。


 まるで人の雪崩。その中を二人は耐え、ようやく周囲が静かになる。



 しかしその時には眼前に、何人かの町人を惨殺して返り血を浴びた妖異(ヨゥイ)が対峙していた。








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