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焦がれる刀のシャルーア  作者: ろーくん
怪しき視線

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第31話 警戒する暗衣



――――――某国某所。



「北の “ 御守り ” は失われた。そうであったはずだな?」

 黒灰色のローブで全身を包んだ者が問う。


 問われたのは暗い焦げ茶色のローブで、やはり全身を包んでいる者。


「その通り……間違いはない。今をもってしてもかの地の “ 御守り ” は、効力を発揮してはおらん。確実に失われていること、相違ない」

 すると、深海の青のような色のローブの者が口を挟んだ。


「ならば先の力の波動……どう説明するつもりか? よもやアレを感じなかったわけではあるまい、あの忌々しくも不快な波動を」

「無論。だが今一度かの地に(おもむ)き、念入りに再確認してみてもやはり、“ 御守り ” が損なわれている事実に変わりはなかった」

 一瞬のことだが “ 御守り ” の波動が広がったことを、彼らは感じていた。それは、強い不快感と警戒心を全員にもたらすほどの出来事であった。


「なればファルマズィが “ 御守り ” の喪失に気付き、代替を立てた……などといった可能性はないと?」

 やや赤みのある暗い灰色のローブの者が問う。

 どちらの言い分も真実であるなら、何か別の新しい要因によるものではと、暗に提起する。


「可能性は低い。国家の力をもってしても、アレはそうそう代わりを成す方策などないはず。しかも “ 御守り ” の地に何ら変化はない。……念のため、そのような動きがないかを調べている最中である」

 暗い焦げ茶色のローブの者も、自分の担当だっただけに淡々と語りつつも、どこか焦りを滲ませていた。


一時(いっとき)の事とはいえ、かの波動を全員が感じたのは事実。あるいはファルマズィが代替となる何かを見つけ、試したのやもしれん。あらゆる可能性を考慮しながら警戒すべきだ」

 黄色じみた暗いローブの者が一段深く落ち着いた口調で語ると、浮足立ちかけていた全員に落ち着きと平静さが戻った。


「よもやの事態に、我々もいささか焦れてしまったな。―――そもそも “ 御守り ” が健在であった頃も慎重にことを運んでいたのだ、仮にその効力が復活することあったとしても慌てる必要はなかろう。皆、冷静にな」

 黒灰色のローブの者がそう言うと全員がコクリと頷いた。

 それを待って、さらに言葉が続く。



「加えて現状、問題はそれだけではない。……各地での妖異(ヨゥイ)の動きはどうなっている?」

「“ 御守り ” が失われたファルマズィ北方を中心に活性化している。それに呼応して、諸国の軍や傭兵が対処に当たってる……すべて事前の想定通り」

 やや赤みのある暗い灰色のローブの者がそう述べると、全員がさらに頷きを見せた。

 今度は肯定の意ではなく、上手く事が運んでいることへの安堵がそこに含まれていた。


「もう一つ、南方の “ 御守り ” の件はどうか?」

「かなり難しい。北の時のように間接的にアプローチすることもままならぬ状態だ。我らが手を下してどうにかすることは恐らくは出来まい」

 暗い焦げ茶色のローブの者がそう断言する。

 すると深海の青のような色のローブの者が、なればと意見を述べた。


「他国の介入のドサクサに紛れることは?」

「可能ではある……が、その他国を動かす事が現状では容易でない。野心的な国家は複数あれど、いずれも慎重さを堅持している。それこそ南の “ 御守り ” までも喪失されたならば、堰を切ってファルマズィへとなだれ込みはするだろうが……」

「 “ 鶏が早いか卵が先か ” ―――ならば現時点では事を急かず、一度置くべきだ」

 黄色じみた暗いローブの者が静かに発言すると、全員が黙してその意見に同意を示した。


「だが、機があったならば仕掛ける事、忘れぬようにな。この状況下ではいつその好機が訪れるやもしれぬ……全員、ゆめゆめ緩まぬよう留意せよ」


 ・


 ・


 ・



――――――スルナ・フィ・アイアの町。


「―――……ふう、好機…か」

 ローブの男は意識を戻して(・・・)開口一番にため息をついた。

 そして空を軽く見上げる。変わらない雰囲気に安堵した。


「アレは一体なんだったのか……?」

 あの熱、あの不快感、あの波動。


 紛れもなく “ 御守り ” が有効であった時の、この辺りを覆っていた時と同じ感覚。だが今はそんなもの微塵も感じない。


 しかし野に潜む魔物たちは警戒してか、あれから息をひそめる事が多くなってしまった。せっかく活発になってきていたところに水を差された形で、ローブの男は苦虫を噛み潰す。



「まあよい。焦りは禁物……調べを進め、事を確実にしてゆくとしよう」

 ()のノルマは既に半分を終えている。他の仲間達に比べれば1歩抜きんでて成果をあげているといってもいい。

 しかし、もしそれが無意味に帰するとしたら? 不愉快極まりない話だ。


「(懸念は “ 御守り ” の正体(・・)が今をもってしても掴めていないことにある……しかし、長年にわたって調べ尽くしたというのについぞ分からなかった。その効力を成さぬ法を突き止めたがゆえに、無力化できたはずなのだが……)」

 やはりそれだけでは不十分―――目標の全容を明らかにしなければ安心できないと、彼は認識をあらたにした。


「……とりあえずは、あの愚者を適当におだてておくとしよう。既に用無しと考えていたが、始末せず放っておいたは結果、良かったやもしれん」

 そうつぶやくとローブを深く被り直し、町の中心地に向けて歩いてゆく。


 その道はかつて、生家を追い出されたシャルールが町を去る時に辿った道だ。

 ローブの男は彼女が辿った道をさかのぼるようにして目的の宮殿へと向かった。







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