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焦がれる刀のシャルーア  作者: ろーくん
愛の終わり、世界の始まり
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第02話 救い手と迎える朝



 チュンチュンッ、チュン…チュチュンッ……


 朝鳥(すずめ)の鳴き声が聞こえる。



「…ん? ふぁ~ぁ、もう朝か……」

 俺は頭を掻きむしりながら身を起こした。まだ意識は朦朧として眠気が再び横になろうと誘ってくる。


 視界には使い古したボロテントの内側と、隙間から差す微かな朝の光。

 俺自身は何も着ていない。この時期は暑いから夜でも全裸で寝ていられるのがありがたい。


「……」

 ボーっとしたまま左を向く。枕元に剣やベルトをはじめ、自分の衣服がキチンと整頓されて置かれているのが見えた。


「(あれ、俺……昨日こんな綺麗に畳んでおいたっけかな……)」

 40過ぎのオッサンの一人野宿―――――自分で言うのもなんだがかなりズボラな人間だ。いつもはもっと脱ぎ散らかしてその辺にばら撒いている。

 不思議に思って何気なくアゴに触れ、自分の濃い(ひげ)を撫でながら思い出そうとする―――が、まだ意識は睡魔を振り切れてないらしく何も考えられない。


「ふぁ~、昨日は飲み過ぎたか?? 今朝はやけに気怠い……―――ぁ?」

 大あくびをつきながら今度は右を向いた。同時に右手を上体の支えにせんと床に付こうとしたのだが……


 ムニュン


「なんだ、この柔っこいのは………。………、……―――~~~??!?!?」

 辛うじて声を上げるのを(こら)える。


 しかし俺の右手が、褐色美少女の乳房を思いっきり掴んでいるという現実。驚愕と手にかえってくる素晴らしい感触で脳は一気に覚醒した。


「んな、ななっ?? な、……ぁ、あぇ…??」

 軽く混乱してつい奇怪な声をもらしてしまう。だが手は離れない。

 それどころか大きな自分の手ですら掴みきれないほどの胸の片房を、なおムニュムニュと無意識に揉んでしまう始末。


 さすがに起こしてしまったらしく、褐色美少女は目をパチリと開けた。


「……おはようございます、リュッグ様。朝のお勤め(・・・)をご所望でしょうか?」

「へ? な、なんで俺の名前……ってお勤め? ……い、いやいやえーと、そうじゃあなくってだな……アレ?」

 ようやくボケた頭が完全に目覚める――――そうだよ、俺は馬鹿か?!



「(そうだ彼女はシャルーア嬢。5日前に拾った(・・・)()じゃないか……まだボケが始まる歳じゃないだろ、俺は!)」

 彼女―――シャルーアは俺が5日前に行き倒れていたのを助けた娘だ。


 見つけた時、髪は力任せに引っ張られてグシャグシャ。露出の多い高級そうな薄生地のシルクドレスはボロボロ。全身に明らかな乱暴狼藉されたような跡があって、見るも無残な姿で人気のないあぜ道の路傍に転がっていた。


 可哀想だと思って近くの川まで連れていき、適当に洗ってやったら驚き。


 宝石のような美しさの黒髪に黒曜石に照り返す光のような輝きを宿した褐色肌。まとっていた高そうなドレスが(かす)んで見えるほどの、まごう事なき美姫だった。

 確実にどこかのお姫様に違いない。だがそれが道すがらでただ一人、乱暴されて打ち捨てられていたのはどういう事なのか?




 そして詳しく話を聞くに怒りがこみあげた。


 彼女は酷い男にすべてを奪われた挙句に生家を追われ、行くアテもないままに彷徨い歩いた。そしてその器量を世の現実が放っておくはずもなく、悪質な酔っ払い達に絡まれた後、行き倒れていたという。



「(悲惨過ぎて可哀想で……行くアテもないというからとりあえず連れだってたんだった)」

 そして昨日。久しぶりに酒を入れ、ついハメを外し過ぎて―――――


「や―――――……っちまった……俺?!」

 俺は顔が青ざめさせた。

 確か、彼女がお酌を進めるもんだから、断るのも悪いと思って注がれるままに飲んで―――酔った勢いで彼女を押し倒した!?

 これじゃあ彼女に乱暴働いた酔っ払い共と何も変わらないじゃない。



「あー、あのなシャルーア……その、昨晩は……あー…すまん!!」

 

 Let’s 土・下・座。

 言い訳など無意味。やってしまった事にかわりはないのだから、ひたすら謝るしかない。


「? ……なぜお謝りになるのでしょうか。私の方こそお世話になりながらその礼も何もできずに無礼者でした。昨日はようやく少しばかりの恩を返せてとても良かったと思っています、リュッグ様」

 丁寧で流麗な動き。両手3本指を前について綺麗に頭を下げる彼女の所作は、やはり上流階級の品格ある者を感じさせる。


「(俺より30近くは年下なのに……)」

 しっかりしている。

 これが16の娘? 俺が知ってる16歳の子女(しじょ)とは全然違う。完全に大人の風格だ。俺なんかよりも。


 だが、その瞳は変わらず絶望の色に染まったまま。あるいは彼女は自分の事を拾った俺の、所有物とすら思っていそうで若干怖ろしくすらある。


 だとするとすごく複雑だった――――――


 40数年を生きてきてついぞ初めての夜が明けたというのに俺はなんだかしんみりとした気持ちになった。



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