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焦がれる刀のシャルーア  作者: ろーくん
先んじる色は囲う手段

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第181話 王座よりも可愛い子ちゃんを所望する




 シャルーアが通されたのは、非常に広くて豪華な貴賓室だった。



 普通ならそんなところに通されると部屋の調度品や造りに圧倒され、あちこちつい見回してしまうものだが、彼女は平然としたまま。エウロパ圏から手に入れた高級ソファへの腰の掛け方も堂々としている。




「先ほどはグラヴァース王子(・・)がご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません」

 とても真摯な態度で綺麗なお辞儀をする女性―――アーシェーンに、シャルーアはソファに座ったまま、右手を軽くあげた。


「こちらが困っていたところを助けていただきました。どうか頭をあげてください」

 普通、単なる市井の者なら慌てて立ち上がって、ペコペコと頭を下げ返す。だがそれは作法としては間違いだ。


 この場合、グラヴァースがシャルーアに失礼な行動を取ったことを、部下が代わりに謝罪しているので、頭を下げられた側はその謝罪を否定したり受け取らないような事を言ったり、行動を取ったりしてはいけない。


 シャルーアが座ったままで、一見傲慢な客に見られかねないような上から面な態度や物言いをするのも、実は正しい。

 もっともそれを嫌味なく自然にこなせるのは、ハイソサエティな教育を受けていることの証であり、アーシェーンを怪訝にさせる。



「(座り姿もそうだが、応対の所作からして間違いなく育ちが良い。ですが……)」

 彼女が乗ってきた馬車は、アーシェーンも既に見ている。外での仕事より帰ってきた際、外門のすぐ外にある来訪者の馬車止めスペースにあった。


 明らかに使い込まれた風な、さほど大きいとは言えないありふれた荷馬車。それから考えると目の前の少女が昨日今日、旅を始めたばかりとは思えない。

 しかし、こうして豪奢な部屋にあっても様になるほどマナーと品格を感じさせてもいる。それは根無し草の旅人とは特徴が真逆すぎる。


 その奇妙なミスマッチさが、アーシェーンにシャルーアへの興味を抱かせた。




  ・


  ・


  ・


 その頃、グラヴァースは同宮殿の別室でぶーたれていた。


「くっそー、今回こそいける(・・・)と思ったのになー。どんだけ隙がねぇんだ、アーシェーンのやつ」

「残念でございましたね、王子(・・)。彼女の目を盗むは国を復興することよりも難しいやもしれませんよ、フフ」

「お前までまだそんなこと言ってるのか、ヒュクロ。俺は国の復興とか興味ねーって言ってるだろ?」

 ヒュクロと呼ばれた男は軽く微笑みながら、レンズを軽く拭っていた眼鏡をかけなおす。

 サラッと流れるような銀長髪に、流し目一つで女性を倒れさせてしまいそうなほどの白肌な美男子―――いかにも事務方のエリート官僚っぽい、見た目からしてデキる男であり、事実この宮殿でグラヴァース直属の側近としてその手腕を振るっていた。



「俺がガキの頃死んだ親父だって先祖や国にゃまったくこだわっちゃいなかった、民が幸せなのが一番だっつってな。俺も同意見だ」

「ええ、聞き及んでおります。ですから貴方はファルマズィ王国に忠誠をたて、“ 東西護将 ” にまで登り詰め、このエル・ゲジャレーヴァに赴任なさる形で帰って来られた」

 実はこのエル・ゲジャレーヴァ近辺は遥か昔、とても小さな独立した国家だった。

 ワダン=スード=メニダが、ファルマズィ=ヴァ=ハールに対して強い侵攻意欲を見せていた時代、その手始めにと目をつけられた地。


 戦火に見舞われた結果、小国の非力ゆえの悲哀もあってファルマズィに庇護してもらう事を、時の国王は決意。

 以後この地はファルマズィ=ヴァ=ハール王国領になったという経緯がある。



「しかしだ、そりゃあもう十何代も前の話だぞ? いくら血を引いてるっつっても、ご先祖の国を今更俺が復興とかありえないんだよ」

 そもそもからして、すでに消えた小国の民は、もうファルマズィの国民としてそれぞれの人生をしかと歩んでいる。それどころかファルマズィ=ヴァ=ハールは長らく平穏平和な国だ、元の小国家であった頃よりも多くの人々は幸せな人生を送っている。

 それこそ当代、あるいは次代の世代ならばともかく、すっかり根付ききっている十代以上を重ねっている今、独立だとか国家樹立など支持する元民など1人としていない。


 何よりそんな事をすれば混迷が生じて、それこそ民の平穏な生活を壊してしまう。それこそ民の幸せを何よりも願って決定を下した優しさと覚悟のあった最後の国王たるご先祖様の意に反することだ。



「ええ。もちろん分かっておりますよ。最後の王は、ファルマズィなれば民も安泰でいられると信じて降った。その最たる理由は、この国に “ 御守り ” の恩恵があるがゆえです」

 ヒュクロの言葉に、グラヴァースは耳をピクリと揺らす。


「……何が言いたいんだ、ヒュクロ?」

「ご存知の通り今、ファルマズィの ” 御守り ” には異常が生じています。王や中央の大臣、官僚たちは口を閉ざしてはおりますが、野の魔物の活発化をはじめとして、現実にこの国の治安は急速に悪化している……王子もご理解しているはずです」

「だから王子はやめろっての。……ファルマズィが危険になってきたから、もっかい国として独立しろ―――なんてフザけたセリフを聞く気はないから、言葉は慎重に選べよ?」

 グラヴァースの表情に真剣さが灯り、声には凄みが宿る。


 言われてヒュクロはハッとした。自分の頭のすぐ横、壁にナイフが刺さっている事に気づく。

 投擲の仕草も見えなければ、壁に刺さった音も聞こえなかった―――冷や汗が流れると同時に、ゾクゾクとした高揚感を感じる。



「……相変わらずの見事な腕前、感動すら致します」


「テメェの言いたいことは分かる。だがな、ファルマズィが平和ボケしていてだ、いよいよ滅びるってぇ事に万が一なったとしても俺のやる事は変わらない。そこだけは間違えるなよ? もし俺の意に沿えねぇっていうんなら……次はお前のその綺麗なツラを貫く、分かったな?」


「ハッ! 言葉が過ぎました、申し訳ございません王子―――いえ、グラヴァース閣下」

 容姿に似つかわしくない、キラキラした少年の目で見てくるヒュクロに、グラヴァースはため息を吐きながら机の上に突っ伏した。




「(ったく、アーシェーンのやつもそうだが、優秀でやたら忠誠心があるってーのも困りもんだ。俺を持ち上げようとヘンなこと考えてさえなきゃあ最高の部下なんだろーが……。はぁ~、俺はカワイ子ちゃんとイチャイチャしながら毎日呑気に暮らしたいだけだってのに)」


 ナンパして連れ込んだシャルーアもアーシェーンに取られた。


 東西護将の椅子に座るまで出世したというのに、それでも望む生活を手に入れることも、なかなかどうして出来ないものだと嘆く。

 グラヴァースはそのまま机に溶け込む勢いで再度ため息をついた。





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