第153話 きらめく都市は陰を伴う
マサウラームからおよそ3日と少々。リュッグ達はサーナスヴァルに到着した。
「おぉー、なかなか大きな町だねー、お姉ちゃん」
「ここは、初体験……ワクワク」
傭兵を始めてから短くない年月が過ぎている双子だが、普段アイアオネからあまり動かないこともあって、ファルマズィ王国内でも立ち寄ったことのない町や村がいくつかある。
このサーナスヴァルも、その一つ。なのでムーとナーは、修学旅行の学生のように楽しそうだった。
「ここサーナスヴァルは、王国北部の中でも発展している町の一つですわ。東西国境からも遠く離れ、周辺各所に向けて街道も整備されておりますから、人口も結構なものですのよ」
ルイファーンの言う通り、町中にはかなりの数の住居が見える。中には8階建てほどの集合住宅と思われる、漆喰の眩しい建物もちらほら見えていた。
「ここは小高くなっていて町全体がよく見渡せるな。いい景観だ」
リュッグは安堵してその景観に見入る。町の入り口まで50mもない―――旅の疲労がどっと押し寄せるのを堪えながら、一行はサーナスヴァルの入り口に向かった。
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「ほう、ルァシュラムロンの肉か。それはいい、退屈な夜番の酒の肴になる……コホン、いや遠慮なくいただいておこう。よし、行っていいぞ」
馬車が町の門をくぐり、10mほど進んだところでゴウは荷台から後ろを見ながら眉をしかめた。
「……発展した地には腐敗あり、といったところか。嘆かわしいものだな」
町の出入り口の門番は、リュッグ達を素直に通してはくれなかった。別に問題はなかったのに、彼らは奥歯に物が詰まったようなハッキリとしない態度で―――つまりは通行料という名の賄賂を求めてきたのだ。
「サーナスヴァルは大きな町の分、町の管理組合も組織として大規模化してしまっているんです。残念なことですが最近は、下っ端のお役人はああいった事を平然とするようになってしまってるんですよ」
護衛私兵の一人で、一番若いコーヴェスが残念そうに説明する。それに同意するように同僚のジョイルもため息をついた。
「旦那様のお使いで我らもちょくちょくこの町には来てましたが、来るたびにああいう手合いが増えてる感じですね。ったく、こんなご時世だってのに欲張りやがって」
「こんなご時世だから、というのもあるだろうな。魔物の危険から街道を行き交うのも一苦労となれば、町全体の商業力にも大きな影響があるはず。なれば彼らにしても給料は絞られているのだろう……世知辛いものだ」
ゴウの説明に、コーヴェスとジョイルが成程と得心いったように頷いた。
「……まだ、お肉500gで済む、だけマシ。全然、楽園……」
「ねー。トイレいくにも一発とか、一口お肉もらうだけでも十発とかに比べたら、超お得だよー」
「? 一発十発というのは、何のことなのでしょうか??」
「あのねー、聞いてよシャルーアちゃん。聞くも涙、語るも涙の地獄の兵産院の物語―――わわっと!?」
ナーが大仰な仕草でシャルーアに語りだそうとした瞬間、揺れの少なくなったはずの馬車が、ここに来て大きく跳ねた。
「ルイファーンお嬢様、リュッグ殿、大丈夫ですか!?」
ハヌラトムが怪我をおして御者台に寄る。あたりをパッと見るに特に問題はなさそうだが、リュッグは難しい顔をしていた。
「リーファさん、荷台へ移ってください。ゴウさん、代わりにこっちへ。ハヌラトムさん達は後方を……シャルーア、ムー、ナーはリーファさんを守って荷台中央にかたまるんだ……どうやらイタズラに引っかかったらしい」
発展した町ゆえ大通りは広々としていて、馬車の数台は余裕で行き来できる。
だが、本日の宿を探すために端に寄って走行していたのが災いした。
大通りから脇へと抜ける、一つの路地の前を通りかかった瞬間に地面が陥没―――リュッグが手綱を取って馬たちを制御して馬車全体の態勢を崩さずにはいられたものの、二つ目の罠のロープに馬の足がからめとられた。
当然、馬は気持ち悪くて足元をもぞもぞさせ、前に進むどころじゃない。
「おやおやおやおやおや~ぁ、トラブルですかぁ~? 大変ですねぇ~、お手伝いしましょうか~ぁ? へっへっへぇ」
路地からいかにもな男が出てくる。すると近隣の建物の影からも、ゾロゾロと風体の悪い男達がニタニタした笑みを浮かべながら姿を現し、馬車を取り囲んだ。
「町中でも堂々と、……か。ゴロツキ風情がこのような往来でオイタなど、なんとも似合わんな」
ゴウが、やれやれと面倒そうに拳を組み合わせて音を鳴らす。
荷台ではハヌラトムの目配せで、ジョイル、コーヴェス、ハクラの3人が頷きながら剣を抜いていた。
「(1…2…3…………12人、か。たいした数じゃないが……)」
構えや身体の動かし方にしても特別強そうな者はいない。だがリュッグは、連中に妙な気持ち悪さを覚える。
「フン、雑魚め。白昼堂々、我らに絡んできたことを後悔するがいい!」
「我々は後ろの奴らだ、ルイファーンお嬢様達を御守りするぞっ!」
「「「はいっ」」」
ゴウとハヌラトムが手分けしてゴロツキ達にかかる―――だがリュッグはハッとして、急いで叫んだ。
「! いかん、ゴウさん、ハヌラトム殿! これも罠だっ!!」
しかし既に遅い。
リュッグの声が耳に届くころには、ゴウは一瞬で3人を殴り飛ばし、ハヌラトム達は4~5人に手傷を負わせていた。




