第151話 南への旅路は強化馬車と共に
ルイファーンから王都へ行く事を進められたシャルーア。
その話を聞いたリュッグは、マサウラームの町で簡単な仕事を受けつつ、とりあえず様子を見ながら南へ行く、という方針を固めた。
マサウラームから街道を南東へ移動する馬車―――メンツはこれまで通り、リュッグ、シャルーア、ゴウ、ムー、ナーの5人。
……だけでなく、なぜかルイファーンと傷の癒えたハヌラトムに、ジョイル、コーヴェス、ハクラという護衛の私兵3人を加えた、計10人の大所帯での移動となっていた。
「しかし……いくらリュッグ殿を慕っているとはいえ、我々と一緒に参ってもよろしいのか??」
ゴウが、さすがに大丈夫なのかと不安げにルイファーンを見る。
何せ世の中は、魔物が活発になって久しい。
リュッグ達傭兵ですら慎重に期を伺い、情報を集め、準備に準備を重ねて行動するというのに、護衛付きとはいえ町長というイチ権力者の娘が、軽々しく遠く見知らぬ地へと出かけるというのはどうなのか?
「ええ、問題ないですわ。王都に父の手紙をお届けするのをはじめ、何かと用向きがありますから。むしろ傭兵の皆さんに同行させていただけて、ありがたいことです」
ニッコリ微笑むルイファーンは、かなりわきまえてる女性だ。
前回こそ、自分を守り送り届けるという依頼ゆえ、リュッグ達に一切の遠慮はなかった。しかし今回は逆で、やや無理をいってついていく形なので、リュッグに抱き着こうともせず、大人しく馬車の荷台で礼儀正しいく座っている。
その座り姿だけ見ればなるほど、器量は大変良く、どこに嫁に出しても恥ずかしくないであろう素晴らしい御令嬢そのもの。
だが時折リュッグに向ける視線は相変わらずで、大人しくしてるとはいえ決してブレない。それが色々台無しにしてる感がすごかった。
「とりあえず……遺書、用意」
「うんうん、今回は護衛仕事じゃないし、何かあっても守れるかわかんないから、一緒に行くなら遺書は用意しとかないとねー」
「なるほど……それは確かに言えてますわね。えーと ” お父様、お元気ですか――」
はいとムーに紙とペンを渡され、ルイファーンも書き始める。半ば冗談のようなやり取りだが、半分は割と本気だ。
道中の危険が大きい今、身分の上下に関係なく、死は無慈悲かつ平等にやってくるもの。
実際、どれだけ多人数でパーティーを組んでも全滅している傭兵達はいるし、日々訓練を積んでいるはずの王国の正規軍ですら、魔物に全滅させられる例はある。リュッグ達とて例外ではない。
「まったく、緊張感があるんだかないんだか……」
「まぁまぁ、そう言いなさるなゴウ殿。緊張しすぎるのもよくはないし、かといって抜きすぎるのもよろしくない。適度なバランスというものですよ」
傷がいえたとはいっても、やはりまだ本調子でなさそうなハヌラトムが、苦笑しながら等分した果物を手渡してきた。
今回、ルイファーンの父であるジマルディー氏のおかげで、リュッグ達の安馬車は大幅にグレードアップした。
荷台が、車輪4つのものから8つのものへと新調されて広くなり、より砂地に適した高品質な車輪になった。
さらに荷台を囲う基本の壁部分が高くなり、シャルーアやルイファーン、ムー、ナーあたりは完全に背中を預けられる。
その上に取り付けられた幌も、これまでは木製の骨組みだったものが、頑丈な細鉄骨になった上、嵐が来ても大丈夫だというとても丈夫な皮革合成布で荷台を覆っている。天井までも高く、荷台の上の空間は広々だ。
加えて揺れを軽減する最先端サスペンション付きで、荷台の床面自体も二重構造になっており、衝撃緩和素材が詰められている。
なので有力者が使うような客車には劣るとはいえ、それでも格段に快適な荷台空間へと変貌を遂げていた。
結果として巨漢のゴウを含め、全員が同時に搭乗可能になり、これまでのように馬車に乗る者と外を歩く者を決めなくて済んだ。
「リュッグ様、これから移動するルートは……」
御者台にはまずリュッグとシャルーア。これはさすがにローテーションを組んで、今まで通りに道中で交代する。
「ああ、マサウラームから南東、地図上だとワル・ジューアから丁度真南に直線で50kmほどのところにあるサーナスヴァルという町にまずは向かう。そこでまた、街道の治安状況なんかを確認して、徐々に南下する形で行こうと思っている。何せ王都までは300km以上の道のりがあるからな」
本音を言えば、リュッグはあまり長距離移動はしたくはない。もう少し安全になってからでなければ、このご時世では命がいくつあっても足りない。
だがゴウやムーナー姉妹がいる今なら、戦力的にたいていのヨゥイにも対応できるだろうとリュッグは判断。
多少危険とはいえ、シャルーアが初めて行先として興味を示し、相談してきたのだ。できるかぎりは応じてやりたい。もっとも―――
「道中、危険過ぎる場合は、引き返すことも視野に入れて置く。なので、地図上の道はしっかりと頭に入れて置くんだ。緊急時には迷わず経路を決めて馬車を走らせられることも重要な要素だからな」
「はい。かしこまりました、リュッグ様」
本当に無理はしない。
シャルーアも、危険を避けることを一番に考えることが重要だと理解している。
「(それに、あまり王都行きにこだわっているわけではなさそうだ。リーファ御嬢さんがついてきたのは意外だったが……まぁ死なない程度には何とかなるだろう)」
大きくなった荷台を引っ張るため2頭に増えた白と茶の馬の背を眺めながら、リュッグは軽く手綱を波打たせ、少しだけ馬車のスピードをあげた。




