第147話 襲撃の波は続く
賊の撃退後、2台の馬車は合流して怪我人の手当をしていた。
「ぬう……まさか味方に撃たれようとはな」
「大丈夫大丈夫、ゴンゴーンは体力 " だけ " はあるから死なないってぇ。……ほいっと、これでおしまい!」
ナーが包帯の戦端を止めるテープを、ペチンと叩いて応急処置を終える。
そもそも急所でもなければ臓器の近くでもない。あと1cm横にズレていれば外という浅い位置だ。
応急どころか弾丸を取り出して消毒と止血で治療はこと足りた。
「問題はあちらの容態か……」
リュッグ達の安馬車の荷台に布団代わりの布を敷き、その上にゆっくりと寝かせられたのは重傷のハヌラトム。
鎧を外され、楽な恰好になっても荒い息が止まらない。
「シャルーア、そっちのバッグの薬草を頼む」
「はい、こちらですね?」
心なしか応急処置に当たっているリュッグのサポートをするシャルーアの声が、いつもよりも少し強い。
ハヌラトムは亡き父の知り合いという事なので、その心配は当然だろう。普段のゴウならばジェラシーを感じるところだが、さすがに生死の境にある者に嫉妬するなどという醜い真似はしない。
「こちらは軽傷だ。リュッグ殿、何か手伝おう」
「軽傷といっても傷が開くといけない、ゴウさん。……そうだな、じゃあ一つ頼まれてもらえるかな?」
ゴウの真剣な表情に、リュッグは少し考えてから手伝いを要請。
人の命がかかってるのだから、できることは全部やらなくてはいけない。
「リーファさん、確かそちらの馬車馬はアーレル種ですよね?」
「ええ、左様ですわ。気性よく人に馴染み、それでいて優れた足と砂漠の環境にも耐えるタフネスが売りのコ達です」
「ムー、ナー。数本でいいから向こうの馬の毛を取ってきてくれ。その際に、ゴウさんは馬たちを抑えていて欲しい。気性が優しいといっても毛を抜く際には暴れるかもしれないですから」
・
・
・
全ての処理を終えた後、2台の馬車は再び街道を進み始めた。
ただし今度は前後逆。
リュッグ達の安馬車はケガ人を乗せているので後方に。ルイファーンが仕方なく戻った彼女の馬車は、前方を走っていた。
ただそれでも、リュッグを同乗させるのは忘れてない。
「初めて知りましたわ、あのコ達の毛が治療に役立つだなんて」
「正確には少し違いますね。アーレル種の馬毛に含まれてる油脂が重要なんです。コレを湯にくぐらせ、油脂分を溶かし入れることで今回使用した薬草の効能を高め、同時に一定の粘り気を持たせられるんです」
同じく同乗しているシャルーアが、リュッグの説明を頭の中でよく咀嚼する。
「それでまず薬液を飲ませたのですね。残りは塗り薬にしてしまうので」
「そうだ。さすがに粘り気の出たモノは飲用できない。まず油脂を混ぜる前の薬液を身体の内に、そして傷口にも塗布することでより薬効を得られる」
ふむふむとシャルーアがコクコク頷くのを、ルイファーンが不思議で面白いと言わんばかりに眺める。
「本当にお師と弟子のよう……ですが、シャルーア様がお楽しそうで何よりです」
「? そういえばリーファさんは何故シャルーアを敬称付けでお呼―――伏せろっっ!!」
ヒュッ……バリンッ!!
咄嗟にリュッグがルイファーンを庇うように覆いかぶさる。シャルーアも椅子に寝そべる形で身を低くした。
「矢? 敵は……ちっ、ヨゥイか!」
割れた窓の端から外を覗く。砂の中に隠れていたようで、頭から砂をこぼしながら駆けてくる亜人の姿が見えた。
「シャルーアはここでリーファさんを守れ。俺は外でこの馬車を守る……俺と反対位置からの襲撃と、遠距離からの攻撃には特に注意するんだ」
「はいっ、かしこまりました」
リュッグから注意事項を受けると同時に、シャルーアは自分の刀の鞘を握りしめる。それなりに長いので狭い馬車の中では振り回せないが、馬車に迫った敵を中から突いて攻撃するには有効。
「剣は扱いに注意しろ、攻撃は1回1回慎重かつ丁寧にだ。いいなっ」
最後の注意を強めに言うと、今度は返事を待たずに馬車の外へ飛び出すリュッグ。
マルサマから借りている新しい刀を抜くと、かなり距離を詰めてきていた1匹の亜人を、地面への着地と同時に斬りつけた。
『ギャッ!』
小さな断末魔の声をあげて亜人は沈む。そこで改めて、リュッグは亜人のヨゥイを確認しなおし、驚愕した。
「サークォウコじゃない……馬鹿な、メロークだと??」
――――――メローク。
白灰色で、形状はサークォウコに似ている亜人。体表から肌と同じ色の体液を出して水源地を白く濁らせることで知られる。
だが砂漠などの乾燥地に極めて弱く、沼地などを好むこともあってこのファルマズィ=ヴァ=ハール王国はもちろん、乾燥した同じ気候の周辺各国にも生息していない。
エウロパ圏のかなり北方の湿地の多い地域では有名だが、この辺りでは完璧に無縁なはずの妖異である。
『ギャギャギャッ』
知能がそこそこあり、弓矢程度なら扱うことくらいはできる。実際、リュッグ達を襲撃してきたメローク達は全部で20匹はいるがどこで手に入れたのか、その半数以上が簡素な短弓を持っていた。
「リュッグ殿っ」
「護衛の皆さん、慌てないでください! この辺りでは見かけないとはいえ、さほど強いヨゥイではありません。落ち着いて、矢に注意さえしていれば大丈夫っ」
前の馬車にはムーとナ、そしてゴウがいる。
今度は二台同時に攻撃されているが、相手は考えなしで適当に戦力を分散させているので、落ち着いて状況を見ればさほどの危機ではない。しかし……
「(ただでさえ乾燥に弱いヨゥイが、砂の中で長時間待ち伏せ? おかしい、おかしすぎるだろう……)」
脅威ではない。だが、この妖異との遭遇は異常だ。
リュッグは薄ら寒いものを感じながらも、近づいてきたメロークを丁寧に斬り払っていった。




