第134話 短距離運送、襲撃付き
ゴウは、リュッグ達がヌァングラーを討伐してから2日後に回復した。
「なんとっ!? 私の治療費のために!?」
「足りずに待ってもらって後払いよりは、先に払ってしまえばゴウさんも気分的にいくらか楽だろうと思いまして。まぁ不足分は僅かだったんで、当面の旅費分は問題ないでしょう……はい、とりあえずコレがゴウさんの分です」
そう言ってリュッグは、貨幣の入った袋をゴウに手渡した。
中身は、ジューバから今までの諸々の報酬から治療・入院費を差し引き、ヌァングラー討伐報酬からムーとナーの取り分を除いたものを足した―――およそ7万ほどになるまとまった金貨だ。
「おお……。リュッグ殿、貴殿の気遣いとご恩に感謝するっ」
ヘッドバッドする勢いで2mオーバーの巨漢が地面に頭をつけた。
「いやそんな大袈裟な……それに病み上がりなんですから、頭をあげてください」
どうにもゴウのペースというかノリというか……ついていけないなとリュッグは苦笑する。
「そうそう。かわりにってワケでもないんですが、一仕事お手伝いしてもらえないですかね? その報酬のゴウさんの取り分を少なくするんで、それで今回の分とつり合いを取るということで、どうでしょう?」
「おお、そういう事であれば! 何でもやらせていただくぞ!」
ズッシリ
「……」
ゴウの巨体に括り付けられた大量の荷物。荷馬車に限界まで積み込むのと同等の分量は、人一人が運ぶには明らかに超過だが、ゴウの巨体であればまるで鎧のよう。
「おおー、持てるもんだねっ。それで歩けるのー、ウゴゴウー?」
「……体力馬鹿、さすが」
ムーとナーがまたもからかっているが、素直にすごい。荷物の重量をもろともせずに立っている姿は、非常に頼もしかった。
もっとも、大国ジウ=メッジーサが若き将軍、マーラゴウとしては、情けない恰好―――彼はとても部下に今の姿を見せられたものではないと、気分が沈んだ。
「いや助かりますゴウさん。荷を運ぶ仕事を請け負ったは良かったんですが、依頼者とギルドで齟齬があったようで、分量が想定の10倍もあって、この馬車だけではとても運びきれなかったんですよ」
リュッグ達の馬車にも、今ゴウが持っているのと同等はあろうかという量が詰め込まれていた。
「まぁ、これくらいであれば何とか……。それで、行き先はいずこなのか?」
さすがにこれで、相当な距離を運べと言われたらゴウとて厳しい。
だがこのレックスーラの町から大荷物を運ぶとなると、行先はある程度予想がついた。
「エッシナです。どうやら駐留している軍への物資補給のようで」
「なるほど。……ということは国境の状況はまだ芳しくはない、ということかもしれませぬな」
「まぁ我々も道中、警戒して進むとしましょう。今の馬車の重さじゃ強行策は取れないでしょうし、ヨゥイに遭遇したら、撃退必至ですからね」
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レックスーラを出立して1時間。馬車も荷物でいっぱいなので、今回はムーもナーも、そしてリュッグも歩く。馬車には御者台で手綱を取るシャルーア1人だけ。その御者台にすら荷物の箱や袋が載せられていて、積載限界ギリギリの状態だ。
「ゴウさん、平気か?」
「ああ、問題ない。たかだか数キロの道のり……と言いたいところだが、万が一の時は、さすがによろしくお願いしたい」
大量の荷物を抱えるゴウは戦闘に対応できない。なのでリュッグとムー、そしてナーは最初から荷物を自分の装備だけにしぼって、戦闘要員を務めるつもりでいる。
「……任せろ、ゴゴゴ」
「ついにウが消えちゃったよ、お姉ちゃんwww」
「フンッ、好き勝手に呼ぶがよいわっ。それにしても、解せませんな。軍の荷を傭兵に……それもこんな短い距離の運送を依頼するとは」
普通、軍の物資は軍の輸送部隊が運ぶ。傭兵とはいえ軍人でもない人間に、軍需物資を任せること自体がありえないことだ。
「! ……どうやらその理由はすぐに分かりそうだ。ムー、ナー!」
「!」「!」
状況を確認することなく、リュッグの危機感ある呼び方だけで双子は素早く銃を展開し、構える。
「お出ましだ。……ゴウさん、アレがこの依頼の元凶ですよ」
「! な、なんだあの数は!?? ……あれら全て魔物だと?!」
砂漠の街道から遠く離れた場所。陽炎の揺らめきの向こうから、ソレは向かって来た。
ザッ ザッ ザッ
規則正しく砂を踏む音。
統一された鎧姿。
だが、その頭は蜥蜴。
「アーミーリザード……少し面倒な連中です。軍の輸送隊がレックスーラにたどり着く前に襲撃され、大半が失われたとは聞いていたが……なるほど、かなりの規模だ」
それを聞いてゴウはハッとした。
確かにおよそ馬車に満タン2台分の荷は大量だ。しかし、軍の補給物資として見た場合、多いとはいえない。
そして、こちらに向かってくるアーミーリザードの群れが着用している鎧や武器の意匠は、ファルマズイ正規軍のモノと全く同じだった。
「なるほど。輸送隊を襲い、その荷を収奪して利用しているのか。世の中にはあのような魔物もいるのだな」
だが、それにしてはとゴウは思う―――大群を目の前にして、リュッグに余裕が感じられるのが不可思議だった。
「どうするのだ、この荷物の量では馬車も速度を出せないはず。あの数を相手に、3人では……私も満足に戦えぬいま、事を構えるには危険では―――」
「なーんのために私達がいると思ってんのさ、ゴゴウー。ねー、お姉ちゃん」
「ん。準備、できてる」
見ると街道脇の少し砂が盛り上がったところで、ムーが何やら仕掛けを施していた。
「よし、準備が終わったら二人は射撃に専念してくれ。シャルーアっ、降りてきて二人のサポートを頼むっ。火付けは俺がするから、ゴウさんは念のため、馬車の近くで周囲の警戒を」
「う、うむ……しかし、大丈夫なのか?」
まだどう対応する気なのか見えてこず、不安げなゴウにリュッグはニッと口元だけの笑みをかえした。
「今回はつくづくこの二人がいてくれてありがたい……まぁ見ていてください」




