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焦がれる刀のシャルーア  作者: ろーくん
地に逞しき傭兵たち

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第131話 出費を取り返す傭兵




 ゴウが風邪で治療院に入ったので、リュッグ達はしばらくレックスーラに滞在することになった。



「―――でも……、あとで、大きな事件、起こる。このとき、誰も……思って、なかった」

「? ムー、誰に何を言ってるんだ??」

「気にしないでいいから、お姉ちゃんの趣味みたいなもんってことでー」

 どうにもムーとナーの姉妹は時々よくわからない。

 深く掘り下げると面倒そうなのでとりあえずスルーし、リュッグは大通りをぐるっと見回した。



「昨日の今日で、随分と静かになったもんだ。ケイルから来た連中は本当に騒ぎを起こす目的でこの町にいたんだな」

「開戦の危機だったんだね、割とホントに。……そうすると阻止した私達、救国の英雄かも。ねっ、お姉ちゃんっ」

「いえー……い」

 なぜかハイタッチする双子はおいといて、リュッグは目的の建物を探す。

 飲食店の並んだ辺りから少し先に、その店はあった。



「あそこだな。……よし、荷物は忘れていないかシャルーア?」

「はい、ちゃんと持ってきてます。こちらでよろしいんですよね?」

「ああ、少し重いから気を付けて運ぶんだぞ」

「かしこまりました、がんばります」


「……ねーねー、お姉ちゃん。あの二人、全然照れ合ったりしないよね、昨日の今日なのに」

「さすが、リュッグ……慣れてる……経験、豊富」

 好き勝手なこと言われているがリュッグは気にしないことにする。あの二人の茶々に付き合っていたら用事が終わらない。





 ガランガラン……


「いらっしぇー」

 あまり綺麗でない、来客を告げる鐘の音。暗くて薄汚れた店内、やる気があるんだかないんだか分らない老店主の声。


 いかにも古くてこの地に長年馴染みきってる古びた雰囲気は、来客にある種の居心地の良さを覚えさせた。


「買い取りはやってるかい」

 リュッグの掛けた声に店主がピクリと反応する。面倒そうな態度をやめて椅子に座り直した。


「……モノは?」

「ヨゥイ由来の素材だ、まずは見てくれ」


 ・

 ・

 ・


「コイツは24万。コッチは18万……ソイツは色つけても7万だ」

 色気のない乾いた声で店主が淡々と提示した値を聞いて、リュッグは少し考えた。


「コッチは出物が少ないだろう、もう少し何とかならないか?」

 相手の示した額で納得するのは、あまりいい手ではない。

 特にこういう老舗な雰囲気の店は、商売に長年のキャリアがある。儲け方を知っている商人は素直な取引をしないことが多いので、値段交渉に食い下がったほうがいい事をリュッグは知っている。


「……そうだな、じゃあそっちの嬢ちゃんがキスの一つでもしてくれりゃあ、もう5万は色つけてやってもいいぜ、ヘッ」

 要するに譲る気はない。何せ店主は70は越えている老齢、若い女性から近寄られる類の容姿でもない。

 相手が出来ない事を要求するのは、“ 色つける気はない ” という意味に他ならない。


 だがあいにくと、今回の客の中にはそれを容易くやってしまう者がいた。


「それで構いませんのでしたら。―――」

「は? ……―――ふぐっ!??」

 シャルーアが何の躊躇もなく、しわくちゃな顔に自分の顔を重ねる。


 普通、こういう時のキスとは頬などへのソフトなものを指している。だがシャルーアは、思いっきりマウストゥマウスで店主の要望に応じた。




「……お、おい、シャルーア? もういいから、店主が青ざめてるぞっ!」

「―――あ、これは申し訳ありません。大丈夫ですか??」

 予想外の楽園から一転し、店主はあの世を垣間見てしまった。

 老齢の彼はあまり肺が強くない。塞がれた呼吸は10秒ほどの口付けで酸欠一歩手前に追い込まれてしまった。


「はーはーっ、……くそっ、ワシの負けだ……10万つけてやる。色々と(・・・)いいモン押し付けてくれた礼だ、持っていきな」

 まさかの口付け行為は必然、その至近距離からシャルーアの豊かな2つの果実も相手に押し付ける。

 店主はまさしく ” いい思い ” をさせてもらったのだ、しかも相手は躊躇もしなかった。


 それに対して出すべきを出さなければ男がすたるというもの。


 カウンターの上に、10万分の貨幣が詰まった袋が6つ、ドサリと置かれた。






 ジューバからここのところ、リュッグにとって出費がかさんでいたが、ヨゥイの素材を売り払えたおかげで、かなりまとまった額が懐に帰ってきた。


「ふぅ、なんとかいい感じに売れたな。シャルーアのおかげだよ」

「そうなのですか? あちらからの取引条件に応えただけだと思うのですが……」

 本当なら、女の子が軽々しくそういうことをしちゃいけませんと説教するべきところだが、おかげで実入りがあったことは事実だ。

 今回は大目に見るかと、懐が温かくなったリュッグは、特に叱りつけはしなかった。


「うんうん、シャルーアちゃんのキッスのおかげだねー」

「私達も、取り分、増えた……ぐっじょぶ」

 ちなみにムーとナーも、ああいう時は金のためならキスの1つや2つしそうなタイプに思えるが、実は意外とこの二人は身持ちが堅い。


「(……というより、選り好みが激しい感じだな)」

 もしシャルーアとリュッグがいない状態で、同じようにこの双子姉妹が売りに行っていたら、おそらく冗談でもキスを求められた瞬間、銃口を店主の口につけていた。




「―――さて、あとはゴウさんの取り分だが……うーん、ちゃんと残るだろうか」

 シャルーアはリュッグと財布が共有なので実質取り分はない。なので今回の収入の内訳としては、リュッグが15万、ムーが15万、ナーが15万、ゴウが15万ときっかり四等分だ。


 しかしゴウは風邪を引いて治療院に入ったので、その治療費と入院費が必要になる。

 早いところ治ればまだいいが入院が長引くと残らない……いや、下手するとマイナスになる可能性すらある。


「んー、そこはウゴウゴの自己責任じゃないー? ね、お姉ちゃん」

「傭兵の世界、お金、甘く、ない……ウゴウゴ、頑張るべき……自分で」

 もとはと言えば誰と誰のせいだ、とリュッグは思ったが、それを口にするのはやめた。


 より大元をたどれば、ゴウ自身がジューバで外壁を破壊し、お金を稼ぐ必要性を作ってしまったからこそ、今回ナーダ達を送る仕事に同行したのだ。その仕事の報酬が、破壊したジューバの壁の修理費に充てられている。


「……まぁ、壁代はパン支部長の計らいで工面済みだし、何とかなるだろう」

 最悪、また何かしら仕事をして稼げばいいだけの話だ。


 とはいえ、ここまで共に旅した仲間。自己責任と突き放すのは心苦しいものがある。


 リュッグは念のため、あとでレックスーラの傭兵ギルドに仕事を探しに行こうと考えながら、自分の取り分を懐に仕舞った。






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