第130話 朝の酔っ払い反省会
「いいか、シャルーア? 今後はお酒は厳禁、ヘンな味のジュースもダメだ。勧められても飲まない」
「はい、かしこまりましたリュッグ様」
背筋よく正座してるシャルーアはしかと返事する。
その隣にはムーとナー、そして二日酔いで気分が最悪そうなゴウが、並んで正座していた。
「ぬう……頭が、痛い……。? 双子の銃使いよ、お前達は随分と元気そうだな―――いや、むしろやたら溌剌としているように見えるは気のせいか?」
「……ニヤリ」
「そりゃあもー、昨日はリュッグとあんなことやこんな事をー」
「二人とも、苦しそうな人間をからかう目的で、適当なウソをつくのはやめてくれ」
しかし咎めるリュッグに、ムーとナーはニマァと嫌な笑みを返してきた。
「あんなこと言ってるよー、お姉ちゃん?」
「兵産院の、獣たち……も、真っ青の野獣……。ごちそうさま」
「! ちょっと待て、お前達まで昨日何をしたっ!?」
朝、起きた時はちゃんと二人とも別のテントで寝てたはず。なのにやたら含みのある表情と言い草に、リュッグはまさかと冷や汗が流れた。
「シャルーアちゃんがバグった後ー、猛獣が私たちも連れ込んでぇ……、きゃー♪」
「……さすが、リュッグ。私たち、見込んだオトコ……グー」
リュッグは血の気が引く思いがした。
完全にやらかした―――真面目な彼は気絶しそうなほどの衝撃を覚えて、その場で卒倒しそうになる。
「リュッグ様、大丈夫ですか? やはり昨晩は御無理をなされたのでしょうか?」
「? ……シャルーア、無理をって、俺は昨日何をしたんだ?」
一縷の望みにすがる。
もしかしたら酔った勢いでした事は、考えてる事とはまったく別のことかもしれない。ムーとナーが好き放題言って、からかってるだけかもしれない。いや、そうだ、そうに決まっている。
本当は一晩中腕立て伏せをしてたとか、そんなことなんだろう? そうだと言って欲しいというリュッグの望みに対して、しかし素直で憚らないシャルーアが、その期待に応えられるはずもなかった。
「私達3人まとめてお相手を―――ふむぐ?」
リュッグは真っ赤な顔で、もういいとシャルーアの口を封じた。
そして自分以上に真面目そうな性格のゴウがいる事をハタと思い出し、慌てて様子をうかがう。
ところが、当の本人はそれどころではなかった。
「……ぉかしぃ……、何やら寒気が……、話がまるで聞こえん……、ふ……ふぁっ、ふぁっ……くしょぉおおおおーーーんんんッ!!!」
テントの中に突風が吹いた。
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「それにしてもゴゴウってば、あんな図体してて風邪ひくとか、びっくり」
「……見た目、無縁そう。……バカ、違った……残念」
「ゴウ様、ご病気は大丈夫でしょうか?」
元気溌剌で、なんだか肌までいつもより艶めいて見える3人。馬車の御者台に並んで座って手綱を取る様は、仲良しな女の子グループのようだ。
「いやまぁ、ゴウさんは体力あるから心配いらないだろう……というか、彼が風邪を引いたのはムーとナーのせいだろうに」
荷台のリュッグがそう言うと、ナーとムーは揃って振り向き、テヘっと悪びれない表情を見せた。
ゴウが風邪を引いた理由―――それは昨晩、リュッグが戻ってくるまでの間、ムーとナーが煽って、差し入れの酒で飲み比べを始めた事に起因する。
どうやらゴウは、飲めはするもののそこまで強くはないらしく、双子に酔い潰されてしまった。
そこまではまだよかったが、あろうことかこの双子、酔いつぶれたゴウを介抱もせずにそのまま放置。
すぐに興味はシャルーアがどれくらい飲めるのかにうつって、言葉巧みに飲み比べに引き込んだ。
そのあとリュッグが戻ってきたのだが、ここでもムーとナーが二人を泥酔させた結果、4人がそれぞれテントの中で夜を明かしたのに対し、ゴウはテントの外で朝を迎えるハメになった。
「シャルーアも覚えておくんだ。何があっても絶対に砂漠の夜を、暖のないところで過ごしちゃいけないからな?」
ああなるぞと、リュッグは隣の馬車の荷台に乗せ運ばれてるゴウを指す。
彼には申し訳ないが分かりやすい悪例として、シャルーアに示した。
「はい、風邪をひかないように気を付けます」
「んー……ねーねー、お姉ちゃん。ちょっとゴルゴルに悪いことしちゃったかな?」
「……、大丈夫。あの人、たぶん、ああいう役回り。遠慮、無用」
ゴウがシャルーアに気があるのは分かり切っている。ムーとナーは、うーんうーんと唸ってる隣の馬車を向くと、綺麗に二人揃って合掌した。
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「ありがとうございます、わざわざ運んでいただいて」
「いえ構いませんとも。病人の……それもあの体躯を運ぶのは大変でしょーし」
アルマンディンは馬車から降りると、同乗させていた部下の兵士に命じて、ゴウを運ばせる。曰く、これも病人運搬や大質量の荷を協力して運ぶ訓練になるとのこと。
「しかし大丈夫なんですか、レックスーラは?」
他に運び先がないとはいえ、この町の治安状況を考えると、どうしても心配になる。
だがアルマンディンは、ニヤリとリュッグに自信ありげな笑みを返した。
『ちくしょう、はなせ、はなしやがれやコラァ!!』
『テメェ、ざけんな! あとでおぼえてやがれやぁ!!』
『なんだってんだ? 急に手ぇだしてくるなんざ……チッ、イテェだろーがよぉ!』
町に入ると、以前好き勝手してた連中が次々としょっ引かれていく光景が目に入った。
「これは―――」
「今度の件を受けて、すぐにエッシナの軍の一部はレックスーラの対処に入ったんですよ。魔物の群れはあの状態……国境を越えてこないって分かってりゃ、エッシナに兵全部張り付けとく必要はないってワケです」
アルマンディンの説明はなるほどと思えるものだ。しかしムーがすかさず手をあげる。
「……それだけ、違う。ケイルの、わざとやりたい放題、させた……最初から、でしょ」
「何? つまり前のあの町の状態は、織り込み済みだったと?」
「ご名答~。連中が戦端開く前提で無茶やってるのは分かり切ってたし。言い換えれば、戦端開かれなきゃ、むしろバカやらせといてその罪で捕まえりゃ、ファルマズィとしちゃあ、あちらさんを避難する材料になるって、レイトラン先輩の指示だったんだ」
そうすれば下手にレックスーラの治安に兵力を割かなくて済むし、町の人間には申し訳ないが、ファルマズィにとってはケイル側を口撃する材料を得られる。
もちろん魔物の群れが国境を越え、ケイル側の思惑通りになっていたら全てアウトだったが。
「もう半日もすりゃあ、元の静かな町に戻るだろーさ。お仲間に病人もいるんだし、ゆっくりしていくといいんじゃないかな」
そう言ってアルマンディンは、兵士達にゴウを治療院まで運ばせる命令を下すと、自分も仕事だと言って手を振りながら町の奥へ走り去った。




