第121話 砂道のデッドヒート
アイアオネ鉱山の件が片付き、リュッグ達はジューバへと戻ることになった。
「しかしお三方とも、本当に我々と行動を共にしてもよろしいので?」
リュッグは出発前にと、今一度問う。
本来ならリュッグは、現在シャルーアとナーダの3人旅。アイアオネでの目的も仕事も終えたので、療養中のナーダの従者であるジャスミンとも合流しなければならないので、当然ジューバへ向かう。
ところが何故かそこに、ミルス達3人にマーラグゥ、そしてアイアオネの町に常駐する傭兵姉妹のムーとナーまでついてくるという話になった。
「今のところ当面のアテはないのでな。せっかくの機会ゆえ、同行させてもらおう!」
「ミルス様、そんな行き当たりばったりな……。今に始まった話ではありませんが」
「……旅の、行き当たりばったりは、醍醐味」
「ソレ、ずっとアイアオネに留まってる私達が言っても説得力ないよ、お姉ちゃん」
「シャルーアさんが行くところ、このゴウがしかとお供し―――ぬ、なんだその目は? 貴様、ラクダの分際で私に何か思う所でもあるというのか?」
適当なミルス達、旅行を前にしてはしゃぐ中学生ようなムーとナー、何故かラクダとケンカ寸前に睨み合うゴウ。
「はは、帰りは随分と賑やかになりそうだ。まぁこれなら道中の危険もないんじゃないかい?」
確かにこれだけ戦闘経験に覚えあるメンツが揃っていれば、いかなる妖異も怖れるに足らず。
ナーダはお気楽に言ってのけるが、真面目な性格のリュッグとしては騒がしい多人数パーティというのは、どうしても気苦労を感じてしまい、何となく苦手だった。
「リュッグ様。車輪の確認が終わりました」
シャルーアがラクダ車の荷台の下からひょこっと出てくる、立ち上がりついでに背中についた砂を軽く払った。
「軸までちゃんと確認したか?」
「はい。ヒビや損傷は見当たりませんでした、大丈夫だと思います」
「よし、なら出発するか。行きと違って人が多く、徒歩の者もいる。今度はそれなりに時間もかかるだろう……夜に野宿をする事になるかもしれない。もう一度、忘れ物がないか、念入りに荷物を確認しておこう。皆が落ち着くまで今しばらくかかりそうだしな」
「はい、リュッグ様」
そのやり取りを見て、既に荷台でくつろいでるナーダは、クックックと面白そうに笑う。
リュッグとシャルーアはまさしく先生と生徒そのものだ。
シャルーアの成長を考え、細々としたことまでしっかり経験させるリュッグは、本人の意はともかく、本当に良い教え手だと評価できる。
「(平和な時代なら我が国にも欲しい人材だったな。良質な育成者はなかなかに得難い……しかし)」
現状にはそぐわない。
リュッグの教えはゆっくりと丁寧だ。世界が乱れてゆく気配が強く感じられる今の時勢では、厳しさが足りない。
ナーダは惜しいと感じながら、荷台の幌を見上げてあくびを一つかいた。
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ドドドドドドドドドドドッ!!!
「ぬぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」
「ふんぬぅうううぅううううっ!!!!」
『ンゴォォォオォォオオォォォ!!!!』
猛烈な砂塵を巻き上げながら並走する3本の筋が、一直線にジューバの町へと向かっていた。
「おかしいなっ、道中は慎重に行くつもりだったんだがッ」
「ははっ、まぁいいんじゃないか? 諦めなよリュッグ、こうなったら暑苦しい連中は白黒つけるまで止まらないもんだからねっ」
砂塵を上げるのはゴウ、ミルス、そしてラクダだ。
当初はのんびりとした速度で進んでいた。ラクダ車にはナーダ、ミルス、ラージャが乗り、御者台にシャルーアとリュッグ、徒歩はムーとナーにフゥーラ、そしてゴウだった。
ローテーションで徒歩と搭乗者を変えていたのだがある時、徒歩だったゴウがやたら御者台のシャルーアに話しかけるのが気に食わなかったのか。ラクダが彼を引き離すかのように徐々に速度をあげ始めたのだ。
それにゴウが歩くスピードを上げて合わせてくれば、またラクダも足を早める。競争状態へと突入するまでさほどの時間もかからなかった。
しかも途中、ムーとナー、そしてラージャが茶々を入れて燃料を投下してしまったものだから、完全にラクダとゴウは火が点いてしまった。
結果、御者台にシャルーア、ムー、ラージャが。
荷台にはナーダ、リュッグ、フゥーラが。
そして何故か参戦したミルスにゴウ、ラクダが砂漠を疾走する状態で一路、ジューバを目指していた。
「うわー、すっごい。全力のラクダに並んでるとか、ミルス様はともかくあのデッカイのもなかなかやるねー」
「……面白い。焚きつけた甲斐、あった」
ラージャとムーはこの状況にご満悦だ。3人(?)の競争を完全に楽しんでいる。
しかし手綱を取るシャルーアは首をかしげて、何やら思案していた。
「やれやれ、暑苦しい連中だねぇ、ますますヒートアップしてさ。面白いけど、もう少し優雅に走れないものかね」
苦言を言いながらも楽し気なナーダ。風でウィッグが取れないよう自分の髪を抑えながら、後方で盛大に巻き上がった砂が落ちる様を眺める。
その横で、フゥーラが少し恥ずかしそうに小さくなっていた。
「申し訳ありません、ウチのミルス様が……」
「いや、まぁ……何というか、すごいものを見せてもらえたし、結果的にジューバには早く着けそうだからありがたいよ、ハハ……」
リュッグはただただ唖然とするしかなかった。何せ時速60km超えで走る人間というものを見るなど、普通は一生ない珍事だ。
「ナーも足には自信ある方だけど、さすがにアレは人間離れしすぎー、でも面白ーい。アハハッ、いけいけー、もっとスピードアップしろー♪」
煽るナーに影響されてかされないでか、ミルスが一段速度をあげる。当然、こういう状況になった以上、誰か1人が抜け出そうとすれば、させるかとばかりに残り1人と1体もスピードを上げる。
ジューバの町の外壁が見えてきた。ゴールは目前―――となると、さらに3者の加速は必至だ。
そこでシャルーアはハタと何かに気付いた。
風で乱れるのを防ぐため、自身の髪の側頭部を抑えていた片手を手綱の方へと移して、両手で強く引っぱった。
「ラクダさん、止まってくださいっ!!」
そこでラクダもハタと気付いたらしい。全力で疾走していたのが徐々に減速し、二人から遅れだす。
「フハハハハッ、体力の限界かラクダよ!? 情けない、これしきの距離でっ」
ゴウが勝ち誇ったように首だけ振り返りながら、遅れていくラクダを嘲る。
だが、その横でミルスもふと気づいた。
「……ぬ、これは!? しまったっ!!」
ド……ボォンッ!!!
まるで地中で何かが爆発したかのように砂が吹き上がる。
高速走行中にミルスが盛大につまづいた―――のではなく、意図して地面に踏ん張り、転がり倒れた。
気づくのに遅れたせいで、減速するには距離が足りないことを一瞬で理解し、急ブレーキの最適解として、そうする事を選んだのだ。
そしてライバルのいなくなったゴウは――――
「ゴウさんっ、前!!!」
咄嗟にあがったリュッグの掛け声もむなしく
ドガァアンッ!!
全力でジューバの町の外壁へと突っ込んでしまった。




