第108話 勘違いと喧騒を添えて
※後半部分は脳内で
「ウィリアム・テル序曲」あたりを再生しながら想像を膨らませ、お楽しみください
アイアオネの町の大通りを、シャルーアとナーダが連れ立って歩いていた。
「何はともあれ剣の方は何とかなりそうだ、足を運んで良かったよ」
「それは何よりです」
女2人で歩くには、ジューバの町に比べるとややガラの悪いこの町。だが昼間から大通りで女性に絡むような輩はいない。
ガラが悪い=治安が悪いというわけではなく、むしろアイアオネの町はある種の町内協定が暗黙の内に結ばれており、それに反する者はワケ有りな住人コミュニティが黙っていないので、その雰囲気に反して治安はかなり良かった。
ただ、それでも馬鹿はいる。
「よー、別嬪な姉ちゃん。二人してどこへ行くんだい? 暇なら俺らと―――」
ゴスッ
「絡まれたらとりあえず殴り倒しときゃいいとは聞いてたけど、なるほどねぇ」
声をかけてきた、いかにもな野郎をぶちのめす。
するとどこからともなく見知らぬ男達が現れて、無言のまま地面に転がった野郎をボコボコに叩きのめした後、暗がりの路地へと引きずり込んでいく。
……アイアオネの町で、馬鹿をする者は全てそうなる。
町に流れてきたばかりの新参者にはクズも多く、町の流儀を知らないで問題を起こそうとするケースが多い。なのでヤキを入れられる連中がそこらかしこにいるのだ。
「あの方、大丈夫なのでしょうか?」
「なーに、平気だろう。連れていった連中がキッチリ教育してくれるだろうさ」
「先ほどはすごく暴力を振るわれていましたが、とても親切な方々なのですね」
ナーダは少しだけ頭を抱える思いがした。
成程。修理の間、リュッグが町を散策してくるといいと二人を送り出した意味が分かったと、ナーダは苦笑いする。
「(本っ当に素直な娘だね、ズレてるけど。よく今まで行きてこれたものだ……)」
世の中、どんなに安全な町や村でも少なからず危ない影というのはある。
そんな影は、いつも引きずり込む獲物を探している―――シャルーアのような世間知らずで素直な優しい少女は、彼らからすればカモ中のカモ。
リュッグが何かと社会勉強や経験を積ませようとし、彼女用の刀を作らせてるのにも頷ける。
「? どうしたんだい、急に止まって?」
歩みを止めたシャルーアにつられてナーダも足を止める。そして彼女が見てる視線の先を伺った。
「あそこにいらっしゃるのは……ミルス様とゴウ様という方々で、以前お仕事を一緒に行った事があるのですが」
それぞれ別々に出会った人達だ。それが供だっているというのがシャルーアには少し不思議な光景に思えた。
が、何せ絵面としては筋肉隆々な大男2人組である。暑苦しいことこの上ない組み合わせにナーダはてっきり、シャル―アが苦手にしている相手か何かかと勘違いした。そして気をきかせる。
「面倒なことにならない内に鍛冶場に戻ろうか」
「? はい」
シャルーアはシャルーアでよく分かってないのにナーダの提案に乗る。なので余計にナーダは、その勘違いが正しいと思ってしまう。
――――――そして騒動の準備は整った。幕をあける声がとどろく。
「! あ、あれは妖精の―――ゴホンッ、シャルーアさん、シャルーアさんではありませんかぁー!! 奇遇で―――」
ゴウが、それはもう喜びに満ちた様子でシャルーアに気付く。だがナーダがシャルーアの手を引いて去ろうとする。
「ぬ、怪しい女。貴様、シャルーアさんをいずこへと連れゆく気だっ」
距離はあるが、ゴウの視点からすればシャルーアが見知らぬ女性に連れていかれるように見えた事だろう。
当然、それを追いかけようとする。だが―――それに立ちはだかる者達がいる。
「おっと、待ちな兄ちゃん。この町で騒ぐのはご法度だ、ちょっとこっちに来てもらおうか」
そこから事態はカオスへと突入した。
ガラの悪い男達を、何かの犯罪組織の人間と勘違いし、シャルーアがそれにさらわれると思い込んだゴウが奮起。ミルスが正義の助っ人と意気込んでゴウに助力。
アイアオネの町の大通りで、大喧嘩が勃発する。
しかもミルスもゴウも一騎当千の猛者である。いくら腕っぷしに自信ある、アイアオネの治安を陰から支えてきた男達でも抑えられるわけがなく、次から次へと援軍が湧いて出る―――男達の喧嘩の規模は膨れ上がるばかり。
一方で、その場から離れたナーダとシャルーアも途中、宿の手配を終えてミルス達に合流せんとして来たラージャとフゥーラに遭遇。
こちらは和やかに再開と互いの紹介を終えたので事なきを経た……と、思いきや、ラージャが “ ミルス様の赤ちゃんできたー? ” とシャルーアに問いかけた事で事態は一変。
どういう事かナーダに詰め寄られたシャルーアが、あくせく事の次第を頑張って説明したものの上手く伝わらず、ナーダの勘違いが加速。
彼女の中では、ミルスがシャルーアを無理矢理犯したゲス男になってしまい、ますますカオスな状態へと突入する。
こうして静かだったアイアオネの町はこの日、大喧騒に包まれた。
現場の事情は知らないが、全員の身の上を知ってるリュッグがやってきて仲裁に奔走し、全員をなだめ終えるまでの間、その大混乱は続いた。




