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焦がれる刀のシャルーア  作者: ろーくん
剣の舞い

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第103話 黒く手繰られる鎧




 ソレに、シャルーアと彼女の隊の者、そして手当を受けていた傭兵だけが気づいた。


 浮いている――――――腕が。




「みなさんっ! 腕が、浮いていますっ」

「死角だ! 回り込まれてるぞ!」

 シャルーアと傭兵の一人が叫ぶ。


 ほとんどの者が意味が分からないとこちらを見たが、同時にリュッグとナーダ、そして2、3人の傭兵は自分の死角になる空間を即座に確認した。


「! 鎧の腕っ、後ろだっ、避けろ!!!」

「!!!」

 今度はリュッグが敵本来に向けて構えたまま、手にしている刀で指し示す。

 指された傭兵が後ろを振り返った瞬間、ソレは斬りかかってきた。


 ドシュッ!!


「ぬぐっ!? コイツっ」

 寸前のところで身をひねって深手は避ける。肩裏を浅く斬られた傭兵は、持っていた槍を振るって反撃しつつも、態勢を崩して背中からその場に倒れた。


「分離だと? 一体いつの間に……」

 ナーダは無論、これだけの人数に注視されている状況で、いつ全身鎧(フルプレート)の腕部分が外れたのか?

 改めて本体を観察すると、左腕部のガントレットと背負っていたショートソード1本がなくなっていた。

 本体から離れて攻撃してきた事よりも、分離したと誰も気づけなかった事に恐怖を感じる。


「(まさか……繋ぎ止めている部分を破壊されても、コイツは行動できるのか?)」

 認識が間違っていた。

 鎧がコイツの動きを支える身体のようなものという認識が抜けていない。


 実際はそうではなく、仮に鎧のパーツごとにバラバラにされたとしても、敵はそれぞれ独立して動き続けられる可能性がある。


「ちっ、マズイかもね。コイツは予想以上のヤバさだよ」

 ナーダが危惧したことを他の傭兵達も思っていたのか、誰の表情もこわばっていた。




「(鎧そのものの金属にくまなく何かが宿っている? ……いや)」

 リュッグはチラリと、これまでの攻撃でそこらに散らばった鎧の破片を見る。


「(砕けて離れた破片は、ただの金属片で動き出しそうにない。だとすると、目の前の鎧は操り人形で、本体は別にある?)」

 そう考えれば、どれだけ目の前の中身のない鎧を攻撃しても怯みすらしないのも納得がいく。鎧を操る本体が別にいるならそちらは無傷……当然、痛くも痒くもないのだから、怯むわけがない。


「(だが、辺りは見通しいい。こちらに見つからないよう、本体が隠れていられる場所はない。それに隠れて操っているにしては動きが良すぎる)」

 一流とまでは行かずとも、振るわれる剣さばきは中々のものだ。実際、その立ち回りは、複数人を相手どることが出来ている。




「(……待てよ、たとえばあの時の黒い煙のような?)」

 不意にリュッグはクサ・イルムでの事を思い出した。

 あの時、リュッグ達には見えなかったが、黒い煙が兵士の一人に入ったことで、妖異化した。もしそれが生物ではなく無機物に対しても起こったら?



「シャルーア! あの鎧をよく観察してみてくれ!!」

「!? はいっ、かしこまりましたリュッグ様!」

 こういう時、シャルーアの素直な性格は良い。

 何ですか、どういう事ですか、といちいち聞き返さずに従ってくれる。一瞬で戦況が変化する戦いの場ではとても重要なことだ。


「(シャルーアが見たという黒い煙のようなもの―――仮に、ソレが宿ることで生物だけでなく、無機物までもヨゥイ化するとしたら……)」

 倒すのが困難なのも道理だ。


 何せクサ・イルムでの時は、その黒い煙を見る事ができた(・・・・・・・)シャルーアだからこそ、断ち切れて解決したのだから。

 (※「第66話 断ち切れるもの」参照)


「………」

 シャルーアは真剣にリビングアーマーを見る。だが何か気付く事はないようで、しばらく沈黙を続けた。その様子を見て、リュッグは当てが外れたかと思い、考えをあらためようとした刹那。


「あっ!? ……リュッグ様、見えました。あの時の煙と同じ、黒い何かが、あの鎧の中……頭の辺りから糸のように細くなって、飛んでいる腕に繋がって見えます」

「! でかした。やはりそうかっ」

 シャルーアの言葉から考えると、頭の辺り―――つまりフルフェイスのヘルメットの内部に黒い煙の本体があって、そこから鎧の各パーツに煙を伸ばして操作してる可能性が高いと、リュッグは解した。


「ナーダ殿、頭だ! ヘルメットの中に敵の本体か、それに準じるような何かがある可能性が高い!」

「! よしっ」

 こういう状況下でいちいち理由は聞かない。

 手詰まり感の強かった戦闘だ、シャルーアでなくとも誰かが出した案は素直に受け入れ、試す。



「側面を打つ! 反対側に合わせてくれ!」

「よし、まかせろ!」

「飛んでる腕は上手く引き付けておく、そっちは頼んだぜ!」

「背後から一撃加える、タイミングを捉えてくれ!」

 他の傭兵達も自分の現在位置と状況から、最適な役割を自己分析して担っていく。この辺りは普段から戦い慣れている経験者の強みだ。


 ガガンッ! ガツッ、ギシィッン!!


 鎧のあちこちにさらに凹みや傷が出来ていく。攻勢を強めてきた傭兵達に、さすがのリビングアーマーも押され、返す攻撃が小ぶりになる。


「……ここだっ」

 リュッグが叫んで真正面から刀を振るった。瞬間、取りついていた傭兵達が素早く敵から離れる。


 ザギャァンッ!!


 鎧の胴体部分が大きく切り裂かれる。だが大振りの攻撃を繰り出したせいでリュッグの身体は硬直。それを見逃すことなくリビングアーマーが右手のシミターを振り上げた。


「かかったねっ、ハァァアッ!」

 敵を(ほふ)ろうとしての一撃を放つために大きく動いたリビングアーマー。隙の少なかった敵は、リュッグを倒さんとして初めて大きな隙を見せた。


 それを捉えたナーダが、振り下ろしで上体を屈折させた体勢のリュッグの背をワンステップし、高く跳びあがる。



 サンッ!!


 そして、フルフェイスのバイザーの隙間に刃先を通し貫いた。






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