第99話 焔之華神ノ御伽噺
ナーダの話に、リュッグは年甲斐もなく目をパチクリさせた。
「 “ ホムラノケシン ” ……? 初めて聞く言葉だな」
「だろうね。ワダン王家に伝わる伝承の一つなんだけどね、思うにシャルーアはソレなんじゃあないかと思ったのさ」
「ふぁ~……」
ナーダの不可思議なお話に、当のシャルーアは何とも言い難い様子で感嘆していた。
――――――ホムラノケシン。それは王家に伝わる御伽噺のような一節。
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砂漠から湧きたつは黒い煙。人や動物を毒せしそれは、深淵なる地の底の獄より立ち上り続ける忌まわしきモノ。
世界を蝕むソレは、やがて異なるモノを呼びよせ、生者の命を吹き消し、懸命なる生遺の結晶を破壊しつくす。
そんな邪悪なるモノたち蔓延る暗黒に閉ざされた世に、光は降臨した。
太陽の小供。
異聞のヒトに連れられ、やがて灼らかに輝きて絶望を振りまくモノたちを次々と照らし、祓い征く。
それを魅し人々は異聞のヒトに問うた。かの聖女様は何処の何たるお方か? と。
しかして異聞のヒトはとぼける。そして笑いながらこう答えて去ったという。
" はてさてあの子が聖女か何か? あるいはホムラノケシンやもしれませぬぞ "
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「伝えやすいよう、おとぎ話のごとき調を取ってはいるが、関連した伝承と照らし合わせると、ホムラノケシンとやらは “ 異聞のヒト ” の子であり、特別な血筋の者らしい事はほぼ間違いないと思われる」
「ふむ……そのおとぎ話が現実に照らし合わせての物語だとしたら、おそらく遥か昔に何か大規模な―――それこそこの世が壊滅するレベルでの魔物の発生なりが起こり、それに対抗しうるような救世主だか力を持った者だかが現れた、といったところか?」
ありえない話ではない。リュッグ達も、最近の魔物の活性化や凶悪な個体による事件を実際に体験している。
それがもっと悪化してゆく懸念も常にある。
「また、そのホムラノケシンは、魔なる物に対して敏感であり、これらに対する際は激しい光や熱を用いたのではないかというのが、歴代のワダン王家御用学者たちの解釈だ」
それがシャルーアにも当てはまるのであれば、あの不思議な高熱にも説明がつく。
「あのローブを着た怪しい輩が、我が過去に遭遇した化け物の仲間である可能性が高い。……シャルーアがホムラノケシンの子孫か何かで、その力の一部なりとも受け継いでいる故に奴の流した血だまりだけを見、先祖譲りの力が発現した―――我はそう解する。……もっとも、本人にはその身に高熱を纏うた自覚はなかったようだがな」
そういって、ぽけーっと話を聞いていたシャルーアの頭をワシワシと撫でるナーダ。
同じ褐色肌でもナーダの方が遥かに色濃い黒褐色で姿形もまるで似ていないが、それでもどこか姉妹めいた雰囲気を感じる。
あるいはナーダも、こんな妹が欲しかったなどと感傷的になっているのかもしれない。
「(しかし “ 異聞のヒト ” か……まるで伝説の異邦人のような、既視感を覚える話だ。あるいは同一人物か、仲間や友人の可能性もあるかもしれない)」
伝説の異邦人については直接的な痕跡こそ少ないが、今日においても様々な影響を世の中に及ぼしているので、それなりに知られている。
リュッグ達傭兵の界隈で、魔物のことをヨゥイ、またはヨーイなどと呼ぶのもその一つだ。
「これまでの話と症状からして人体発火現象のような心配はなかろう。実際本人は平然としておるし、身体のどこにも火傷のあとなどは見られん。自分のチカラに傷つくという心配は不要と見てよい。だが……」
ナーダが言わんとしていることをリュッグも理解し、頷き返してから口を開いた。
「特異な力があるなら、それを自分の意志で制御、使いこなせるようにならなきゃならない」
かつてミルス王の “ コトダマ ” の話を聞いた時のことを思い出す。
(※「第29話 非常識なるも不可思議な術」参照)
由来が何にせよ、そういった特別な力というのは便利なだけでは済まない。
ミルスにしても、コトダマを用いた際の反動負荷に耐えるため、豪傑と言えるほどにその身体を鍛えていたのだ。
仮にシャルーアがその謎の力を使いこなせるようになったとしても、何のリスクもデメリットもないとは言い切れない。何より―――
「討つべき敵じゃあなく、誰かを……それこそ守るべきモノを傷つけるような事になってはいかんし、最低でも暴発させぬだけの訓練は必要―――と言いたいところなのだがな」
そういってナーダは肩をすくめ、あらためてシャルーアを見た。
「……本人が自覚すら出来てないようでは、訓練も何もあったもんじゃあないってのが現状だろうね。ま、仕方あるまいよ」
あるいは彼女の両親なり祖父母なりが何か知っていたり、それこそ伝えられていた可能性はあるだろう。
残念ながら、シャルーアの家族はもうこの世には1人もいない。
確認のしようも、より詳しい情報も、どうすればいいのかも現時点では知りようもなかった。
「少なくとも自傷の可能性は低いというだけでも十分だ。しばらくは力が暴走しないように気を付け―――……やはり酒は厳禁だな」
「? そこでなぜ酒が出てくる?」
ナーダにしては察しが悪い。
「酔ったシャルーアが辺りに高熱を振りまくのを想像してみるといい。……文字通り、焼け野原になるのが目に見えているだろう、物理的にも状況的にも」
言われてナーダは血の気が引いた。
少女が超卑猥ワードを吐露しまくりながら暴走し、辺り一面を高熱で焼き払ってゆく光景―――それは一体、何という地獄であろうか?
「……そうだな、はっきり言って見たくもなければ居合わせたくもない」
シャルーアと行動を共にしている内は自分も酒は控え目にしようと、ナーダは強く誓った。




