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焦がれる刀のシャルーア  作者: ろーくん
世は非常識だらけ

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第97話 血の存在感




「その特徴、バラギ殿に似ているな。……といっても同じなのはそのローブの色だけだが」

「バラギ?」

 ナーダとジャスミンに合流して話を聞いたリュッグは、傷の手当てをしながら彼女らが戦った者について話を聞いていた。




「ああ、少し前にムカウーファという町で出会った御仁で、相当な魔術の使い手だ。魔術の研究をしながら旅しているらしい」

 (※「第60話 運命の邂逅ニアミス」参照)


「魔術師か……ならば別人だな。わらわ―――我らが対峙した者は金属のクローを使い、異常なまでの身体能力をしていた。アレは魔術師に出来る動きではない」

 言いながらもナーダは、あの化け物の一味ならあるいは可能かもしれないとも思う。

 しかしながら一致する特徴がローブの意匠と色だけでは、同一人物と断定する事もできない。


「(何よりそのバラギとやらは町に現れた凶悪な魔物を退治したという。あの化け物どもが、人助けをするとも思えんしな)」

 やはり別人だろうと今は結論付けておくことにする。

 分からない事をいつまでも憶測だけ深めたところで、判断を誤る材料にしかならない。ナーダは一国の女王としての経験からこれ以上の推測は打ち切った。





「大丈夫ですか、ジャスミンさん」

「は…い、なんとか……ありがとうございます、シャルーア様」

 リュッグがナーダの足を看ている間、シャルーアはジャスミンの怪我を診る。


 町の外壁に打ち付けられた時の打ち身に加え、右わき腹も蹴られている。服を脱がないと手当できないので、同性であるシャルーアが彼女の介抱を任された。


「背中と腰の一部に打撲痕が……脇は痛みますか?」

 薬草をすり潰し、少量の水で溶いたモノを打撲部分に薄く塗ると、上から湿布を張る。それで打撲の応急処置は完了。


 問題は脇腹の方だった。


「はい、少し。ですが問題なく動けますので、折れてまではいないかと思います」

 痛みが継続している以上、内部に何らかのダメージがあると見るべきだ。



「リュッグ様、こちらは終わりました。ジャスミンさんは一応動けるそうですが、右わき腹に痛みが残っておられるようです」

「そうか、念のためしっかり診てもらった方が良さそうだな、治療院へ行こう」

 そう言ってリュッグはナーダに肩を貸して立ち上がる。それに(なら)ってシャルーアも、ジャスミンの立ち上がりを支えた。


 その時、何気なく視界にソレ(・・)が映る。





 ――――――トクン


「? シャルーア様?」

 ジャスミンの声が遠い。シャルーアの意識が、何かから距離を置こうとするかのように遠くなる―――しかし喪失はしない。ソレに焦点が定まったまま視線も動かない。


「どうした、シャルーア。……シャルーア?」

 ナーダと共にすぐ近くまで寄ってきたリュッグだが、彼の声も遠い。聞こえてはいるのに意識がそちらに向かない。いや、視線を逸らせない。


 この感覚には覚えがあった―――初めてバラギと名乗るあのローブの男を見た時と同じだ。



 シュゥゥウ………


「熱っ!? ……シャルーア様!?」

 ジャスミンは思わずシャルーアから離れる。焼けるような熱さを感じたからだ。


 しかし自分にくっついていた質量が失せたことで、シャルーアはハッとした。


「……、……私……?」

「どうしたシャルーア、大丈夫か? 何かあったのか??」

 呆けている彼女の肩を、リュッグが掴んで揺らす。ジャスミンが感じた熱さは既に失せていた。


「は、い……リュッグ様。たぶん、もう大丈夫…です」




  ・


  ・


  ・


 ジューバの町の治療院に移動し、ジャスミンが本格的な検査を受けているのを待つ間、リュッグとナーダはシャルーアから話を聞いていた。




「……血?」

「はい、地面に落ちていた血を見た瞬間でした。意識が少しだけ遠くなって……強く拒絶したくなるような、嫌な感じがしたんです」

 そう、シャルーアが反応したのはバラギの血だった。僅か数滴の血だけで、かつてあのバラギを直接見た時と同じ感覚を、彼女は味わった。

 しかしまさかその血が、他でもないローブの男(バラギ)のものだとは思いもしていない。



「奴が、我がかつて見た者の仲間ならば、その正体は異形の化け物だ。その血に嫌悪感を抱くは誰であろうと当然だが……奴を見たわけでも、その正体を認識しているわけでもなく、血だけを見てそうなるとはな」

 ナーダは知っているからこそ……母を殺されているからこそ怒りを抱き、あの化け物の姿や強さも知っているからこそ、強い嫌悪感と緊張感を抱く。


 だがシャルーアはその血の主について何も知らない。にも関わらず、血だけを見て意識が遠のくほどの感覚に襲われたというのだからただ事ではない。


「それとだ。ジャスミンがあの時、確かに熱い(・・)と言って身を離した……だがその直後、リュッグが触れた時は何ともなかったのだろう?」

「ああ、まったく熱くはなかったな。だがその熱さ(・・)には心当たりがある、といっても何故かはいまだに分らない事なんだが―――」

 リュッグはかつてアズドゥッハと戦った時に、シャルーアの身に起きた異変についてナーダに話した。

 (※「第28話 灼熱」参照)


「……」

 話を聞いたナーダは至極真剣な表情のまま、リュッグに向けていた視線をそのままシャルーアへと向け直す。


「(……まさか?)」

 ナーダとてワダンの女王だ。かつて母が用いた王家ゆかりの宝剣をはじめ、王家に伝わる摩訶不思議な伝承の数々は熟知している。

 その中には特別な血筋の者の話や、人体がいきなり燃えだすような不可解な現象など、ピンキリながら思い当たるような話もあった。


「その辺り、後で詳しく聞きたいものだな。もしかすると我に何か分かるやもしれぬ―――が、まずはジャスミンの怪我の容態が先のようだ」

 気配を察していたのだろう。ナーダの発言の直後に検査室の扉が開いた。





「検査が終わりました。……お連れ様のお怪我ですが、肋骨に僅かですがヒビが入っております。それと内臓の一部が少し痛んでいるようですが、とりあえず大きな問題はございません。詳しく説明いたしますので、どうぞ中へお入りください」






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