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焦がれる刀のシャルーア  作者: ろーくん
世は非常識だらけ

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第95話 お仕事.その7 ― 砂漠のカマイタチ ―




 リュッグは久々にシャルーアを連れてジューバの町を出る。



 といっても行先は目と鼻の先、町からわずか200mほどしか離れていない地点だった。


「リュッグ様、今回のお仕事は何なのでしょうか?」

 シャルーアが不思議そうに聞く。


 その手に持たされているのは10mはあるただの細い棒……軽くてちょっと揺れるだけでも先端が大きくしなる。

 完全素人なシャルーアの目から見ても、確実に武器にはならないソレ。他に荷物はなく、リュッグは今回それだけをシャルーアに持たせた。



「今日はちょっとばかし特殊なヨゥイを相手にする。こういうヤツもいるんだと、勉強がてらに見ておくといい」

 そう言って、リュッグは何もない砂漠のど真ん中で立ち止まった。

 遠目に町が見えてる以外は何もない。周囲は砂丘の一つも見当たらないような平坦な砂地が地平線まで延々と続いている。


「……」

 辺りを油断なく伺いながら、ゆっくりと刀を鞘から抜く。しかし構えることなく楽に持ったままだ。


「……あの辺りだな。シャルーア、その棒の中心に印があるだろう? そこを持って真っすぐ横にするんだ」

「はい。……こう、でしょうか?」

 きっちり左右でバランスを取って水平になった細い棒。左右の先端が軽く吹く砂漠の熱風で大きく揺らぐ。


「よし、そのままついてこい。棒の左右の揺れ動きが大きくなったら教えてくれ。左の方が大きい時は ” 左 ” 、右の方が大きい時は ” 右 ” と素早く端的に言ってくれればいいからな」

「はい、かしこまりました」


 リュッグが歩き出す。シャル―アも、ミョンミョンと揺れ続ける棒を注視しながら、後ろをついてゆく。


 5歩、6歩、7歩……


 ゆっくりと、しかし確実に1歩1歩。その間もリュッグは決して構えを取らない。むしろ楽にして、抜いた刀を適当にくるくると手元で振り回し、今にも口笛でもふきだしそうなほど楽な態度だ。



 11歩、12歩、13……


「! 右ですっ」

 13歩目の足が砂を踏みしめようとした瞬間、細い棒の右端が明らかに、今まで以上の大きな揺れを起こした。シャルーアは即座に伝える。


「―――ッ」

 その瞬間、今までの楽な態度がウソのようにリュッグの身に力が入った。両脚を踏みしめると同時に、片手で右側の空間に刀を振るう!



 シュォッ……ザンッ!!!



「あっ!?」

 シャルーアは思わず驚いた。何もないところ―――刃が空を切る音の直後に、確かに何か物質を斬ったような音がした。


「手応えありだ、熱斬りのキツネ」




―――カーマェトアイハール・フェネック。


 砂漠の熱風に潜む、半気体の妖異。

 基本は目に見えないが、人を襲う瞬間にだけ熱風が集まってキツネの顔のようなものが見える事から、砂漠狐(フェネック)によく比喩形容される。


 獲物を見つけるとただの緩やかな風を(よそお)って近づき、必ず獲物の側面をとろうとする。さらに攻撃に移る前に熱風を集束させるため、超局所的に風が強まる。


 なので傭兵の間ではこの妖異への対処法として、棒や布を左右に出す形で持ち歩き、その揺れ動きで存在と位置を感知する事がよく知られている。


 攻撃を許してしまうと、高熱を伴って鋭く吹き抜けるために焼けた刃に斬られたようなダメージを負ってしまう。

 それを繰り返して獲物を殺害し、その亡骸を焼いて喰らうという残酷さから、正体が判明していない時代には相当に危険視されていた。


 一度好む場所を見つけると、その辺りに長期間居座る性質があるため、被害や兆候を掴めさえすれば、対処法を熟知している傭兵には駆除が楽な妖異でもある。




 ボフゥッ


 リュッグが刀を振り抜いた後、空間に風が集束していったかと思えば一気に飛散し、髪や衣服の一部をバタつかせるほどの突風を辺りに発しながら、何かが砂の上に落ちた。


「? これは……キツネさんでしょうか??」

 恐る恐る、落ちたものを覗き込むシャルーア。

 大きさは拳を二つ並べた程度。砂漠の砂よりもやや明るい色をしたキツネのような形をした何かが倒れている。


「ああ、カーマェトアイハール・フェネックというヨゥイだ。滅多に出ない奴だが、放置しておくと死人が多数出る程度には危険でな。理由は視認も足音も感知できず、ただの風と見分けがつかないからだが、こうして捉える方法を知っていれば、割と楽に倒せるヨゥイでもあるんだ。覚えておくといい」


 倒れているソレは、動物というよりは炎の集合体がそういう形を取っているような気体めいた身体をしている。

 やがて揺らめいていたその身は煙のようになりながら霧散して、空気に溶けるように消滅し、跡形もなくなった。




  ・


  ・


  ・


「ふむ、仕事か。軽装とは思ったが」

 バラギは双眼鏡をおろすと、軽く肩を左右交互に上げ下げする。平坦な砂漠では隠れられる場所がないので、距離を詰められないのがもどかしい。


 場所は町を出て20mもいかないところ―――だからこそ今回、お客さん(・・・・)を許してしまった。



「それで? あの二人を観察してみてご感想は? あからさまに怪しい誰かさん」

 左右から突きつけられた槍とシミターの切っ先。ナーダとジャスミンが、バラギを挟んでいる。


「そうだな……どうやら思っていたのとは違ったよ。奴の剣に興味があったのだが、こちらの思い違いだったようだ」

 バラギはのうのうと答える。とても接近を許し、刃物を突きつけられているとは思えないほどの余裕っぷり。


 ……ナーダは冷や汗を1滴流す。


「そのローブ……見覚えがあるね。色は違うが昔、寝室に飛び込んできたゲスが纏っていたのと同じものだ」

「ほう? これと同じローブを着用している者は、そうはいないと思ったが、意外に人気があるのかな?」

 相手のとぼけっぷりに、ナーダではなくジャスミンが焦れる。槍の穂先をさらにバラギへと近づけた。


「何者かまず名乗りなさい。そして、そのローブの下の姿を見せていただきましょう」


「フッ、なるほど。あの男はこちらが “ 観察 ” している事に気づいていたか。そして囮もかねての傭兵仕事だった、というわけだ……クックッ」

 自分としたことがまさかしてやられるとは。バラギは悔しさよりも天晴(あっぱれ)だと強く感心する。


 そして次の瞬間―――



「! ジャス、後ろに跳べ!!」


 シャシャッ!! ギィンッ!!


「……ッ!!」

 ジャスミンの槍の柄が4つに分かれる。ナーダが咄嗟に繰り出したシミターが、フォーク状の金属に阻まれた。


「何か隠しているとは思っていたが、貴様の武器は金属の爪かっ」

 長さ40cmほどの真っすぐな金属クロー。バラギは、手甲の上から伸びているタイプのグローブを両手にはめていた。

 それで左右同時に攻撃を行い、二人に対応する。


「フッ、我が一撃をよく止めた。なかなかの腕前のようだ、なっ」


 バラギ vs ナーダ&ジャスミン


 町のすぐ近くで、金属同士が激しく火花を散らしはじめた。







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