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焦がれる刀のシャルーア  作者: ろーくん
世は非常識だらけ

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第93話 シャルーアちゃんのお稽古





 3日前に知り合った旅の方―――ナーディアさんとジャスミンさんは、ちょっぴり不思議な人達でした。





「あー……その、大丈夫だったのか、昨日は?」

 宿の1階に朝食をいただいた席で、そう聞かれました。


 昨日? ……昨日は何かあったでしょうか? 私には思い当たることがありません。


「?? はい、大丈夫だと思います。お気遣いありがとうございます、ナーディアさん」

「……彼女もしや、覚えていらっしゃらないのでは?」

「の、ようだ。……まぁ、それならそれでいい、本人が何事もなかったと言うのならば、良しとするより他あるまい」

 ジャスミンさんも何かご心配しておられる様子。よくわかりませんが、お気をつかわせてしまったようで申し訳ないです。






「……にしても、本当に良く食べるね。見ていて清々(すがすが)しいよ」

「? そうでしょうか?? リュッグ様も “ 食べられるときに食べるのは良い事だ ” とよくおっしゃられます」

「健啖家、というものですね。それであのスタイルの良さですか……」

 ジャスミンさんが、少し機嫌悪そうに私の腰の辺りを見ています。食べる姿に嫌悪感を抱かせてしまったのかもしれません。


「ハッハッハ、ジャスミンは動き足りないのだ。運動しなきゃ痩せはしないだろう」

「……これでも毎日の鍛錬も欠かしてはいないのですが、神様は不公平なのでしょうか?」

「??????」

「ああ、シャルーアは気にしないでいいんだよ。これはジャスミン自身の問題だ」

 よく分かりませんが、そのジャスミンさんは何故か自分のお腹の左右あたりを撫でて、難しい顔をしておられます。


 何かお悩みがあるのでしょうか? 私でご協力できる事があると良いのですが……



「そういえばナーダ。昨日、頼まれた事はいかがなさるのです?」

「? ……。ああ! あの事か。まぁ多少の面倒を見るくらいはする。それが取引の条件なのだからな」



  ・


  ・


  ・


 朝食の後、軽く食後の運動をしようとナーダさんに誘われて、宿屋の裏にやって来ました。


「リュッグの傭兵仕事の手伝いをしてるんだって言ってたが、武器は扱えるのか?」

「いえ……お恥ずかしながら、持ち上げるのが精一杯です」

 謙遜ではありません。私は本当に何とか上げられるだけで、上手く振るうことができません。


「ハハッ、そうかそうか。まぁ思っていた通りだ、問題ないよ」

 そう言って、ナーディアさんはモップを渡してきました。


「それくらいなら持てるだろう? 構えてごらん……何、難しく考えないでいいからね」

「はい」

 そう言われましても、どうすればいいのか分かりません。

 とりあえずリュッグ様が武器を構えた時のお姿を思い出して、真似てみます。


「(……へぇ、記憶力はいいようだ、それに心根が素直だね。どんなに頻繁に間近で観察していたとしても、そう簡単に真似ることは出来ないものだが。……ふむ)」

「こうでよろしいのでしょうか?」


「悪くない。けどそれじゃあダメだ、いいかい?」

 ナーディア様は、私の構えを細かく直してくれました。リュッグ様の構えとは少し違いますが、何だか態勢が楽になった気が致します。


「……よし、とりあえずはそんなところだ。万全というわけではないが、まずその構え方を覚えておくといい」

「はい、わかりました」

 すごいです。ほんの僅かずつ、腰や腕の位置、太ももの角度、背筋などを手づから矯正していただいたのですが、驚くほど感覚が違います。


 これが剣の構えなのですね。



「じゃあ、そのままモップを振ってごらん。遠慮はいらない、まずは好きにやってみるんだ」

「はい。……、……」

 何度かモップを振ってみました。

 そして再び驚きです。何故なのか理由はわかりません。ですが、とても振りやすいように思います。


「予想通りですね、ナーダ」

「ああ。まごう事なき素人だ……よし、そこで()めるんだ」

 私はモップを振るのを止めます。ですが体勢はそのまま維持しました。

 ナーダさんの教え方は、とにかく自由にやらせていただいて、私の姿を見た上で手直しを入れてくれるものだと分かったからです。


「いいかい? モップに限らず、これが剣でも槍でも同じだよ。こうして振るう動きをする場合、手首を伸ばしちゃいけない。振り上げた状態から振り切ってしまうまで、90度の直角を維持したままにするんだ」

「こう……でしょうか?」

「そうそう、それでいい。縦だろうと横だろうと斜めだろうと、振るって斬るっていう動きをする時は、武器持つ手と手首は90度直角をずっと維持する、これが重要なんだよ」

 ですがその教えに、私は少々の疑問を覚えます。


「これでは攻撃が短くなってしまう気がするのですが、よろしいのですか??」

「いい質問だ。確かに素人は、つい手首を伸ばして振るいたがる。理由は単純だ、その方が武器のリーチを長く取れるし、実際の戦闘じゃそういった振るい方をした方が有効な場合もあるからね。だけど……」

 そう言ってナーディアさんは、モップの傍にあった洗い立ての片手お鍋を取りました。

 それと同時に、ジャスミンさんが私の手首を伸ばした状態でキープするようにと促します。そして―――


 カァンッ! ……カランカラン


「っ! ………っ」

 私は、モップを落としました。ナーディアさんがお鍋の底を、私が構えていたモップの柄に当てたのです。


「どうだ、なかなか痛いものだろ? 武器が何かに当たれば、相手にだけじゃなく衝撃が自分にも帰ってくる。そして手首っていう細い部分に負担がかかるんだ。想像してごらん、手首を伸ばして振り下ろして、金属の盾や鎧に当たった時、今よりもっと衝撃が返ってくる―――それに耐えるために、手首は伸ばしちゃいけないわけだ」

「……り、理解……致し、ました……」

 とてもビリビリして、ジンジンします。それがいつまでもなくなりません。


 もしヨーイと戦う事になったら、何度も何度も武器を振ることになるでしょう。きちんと振るわないと、これではすぐに武器を持っていられなくなってします。



 今までリュッグ様からも、合間を見てご指導いただいておりましたが、こうして体感で苦痛を感じるようなことはありませんでした。


 この時の教えは、特にとても身に染みて理解できた気が致しました。






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