第00話 焦がれる刀のシャルーア(タイトル・ハイライト)
※本エピソードは、本作約150話までの一部抜粋です。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「さようなら、シャルーア。キミとはもう二度と会う事もないだろう」
そう言ってシャルーアは棄てられた。男の狙いは彼女を除く、彼女の全てだった。
―――――――――
赤く光るモノは全体が炎のように揺らめいている。だが熱さはない。本体の形状も、完全な固形体というよりはまるで気体の塊のような雰囲気で、ゆっくりと流れる煌めきを内包している。
その輝く様は、見る者にルビーやガーネットのような赤い宝石の美しさを感じさせた。
―――――――――
「! …し、死んでいた、と?! それは確かか?」
威厳ある初老の王は大変に慌てふためいていた。そして青ざめたのは王だけではない。
「まさかそんな……」
「あのアッシアド殿が亡くなられていた? な、なぜにっ」
「いや、今はそれよりも! それが事実ならば守りは… “ 御守り ” は今どうなっておるのだ??!」
居並ぶ大臣たちがザワつき、謁見の間は何やら大変な事が起こったといった喧騒に包まれる。
―――――――――
「と・に・か・く! 不出来な “北” と一緒にしないでって伝えなさい、わかった!?」
「は、はい、了解しました、ムシュサファ様」
ムシュサファと呼ばれた彼女は、シッシッと早く失せるようにジェスチャーを取り、兵士は這ほう這ほうの体ていで宮殿を後にした。
―――――――――
「あらあら、オッパイもこんなに傷ついちゃって。せっかくこんな巨美乳なのにもったいないわね」
包帯を外し、消毒や傷薬の塗布、止血などの処置を施されている間も、シャルーアは表情一つ変えずに平然としていた。
―――――――――
無言のままに踊り続けていた少女は、舞台の上にいつの間にか立てられていた10本の金属ポールに向かって踊りながら近づいていく。
そしてポールに自分の身体全体で絡みつくように、しかして動きを止めることなく動き続け、次のポールへ、また次のポールへと自分の踊りに巻き込むように移っていった。
―――――――――
かつて愛した男性が自分を捨てた理由。それは子供が出来ないことに失望されたからだと、シャルーアは今でも本気で思っている。
なので彼女は、相手が誰であれ平然と受け入れる態度を取り続けていた。もし他の異性との間でちゃんとデキるのであれば、そういう身体ではなかったと証明できると、無意識のうちに心のどこかで思っていた。
―――――――――
「? 御嬢さん、どうかしたかな。それとも安堵で腰が抜け、動けなくでもなったのかね?」
「………いえ……、なんでも、ありません……」
シャルーアは理解できなかった。なぜリュッグと兵士達がこの場から動いたのか?
だってアレは、アレは……――――アレは、あの魔物よりもあんなに恐ろしい雰囲気を醸しているというのに!
―――――――――
「……、お迎えの方のようです。ここでお別れですね」
シャルーアは、バツが悪そうにしている男にクスリと微笑むと彼女から1歩離れる。
気配が遠ざかったのを感じたのか、ルシュティースはシャルーアを探すように軽くキョロキョロと視線を彷徨わせた。
「え、ええと、あの……またお会いできるでしょうか??」
お別れの前に次に会う約束を―――それはルシュティースがシャルーアに強く友情を感じている証だ。
しかし、ここでハイとは言えない。心情的にも現実的にも。
―――――――――
「ナーダ、歯にはご注意を」
「分かっている、コレの鋭さだけは侮れんからな」
基本的に弱い魔物に分類される砂漠サメカヴィールクゥセだが、その歯は恐ろしく強靭で鋭く、かするだけで肉をごっそり持っていく事で知られており、一撃で致命の大怪我を負う危険がある。
ナーダはそれを留意した上で一直線に突撃した。
―――――――――
「な、なにをしとるんじゃ! 危ないからさがれ、さがらんかっ!」
懸命に魔物を抑えているスラーブも手いっぱいで、ゆっくりと近づいてくる彼女を声以外で制止することができない。
するとシャルーアは、スラーブの4~5歩ほど後で足を止め、左手に持った刀剣をゆっくりとした動作で自分の左側に掲げた。そして右手で柄を掴むと、縦にしていた剣を斜めに、そして引き抜いていくと同時に横へと傾けゆく。
―――――――――
「一人くらいよいだろ。それで手を打ってやる……よし、そこのいい身体をしている黒髪のお前、出ろ」
何やら言い合っていたかと思えば、シャルーアに牢から出るように命令する男。
見た目には結構な金持ちのようで、なかなか豪華に着飾っている。やや成金臭のする恰好ながら、本人は中肉中背で富貴に溺れただらしない身体つきではない。
ただその目はいやらしい輝きを灯しており、シャルーアの身体をねぶるように注視していた。
―――――――――
持っていた服を木にかけると両手で水をすくいあげ、顔を洗う。
次に水を汲むために置いておいた小さな木箱を手にとって、昨夜の汗と穢れを流すようにその身に水をかけた。
朝の光が、濡れたシャルーアの肢体を照らす。褐色肌に優れたボディラインが水面の輝きに負けじと煌めいた。
―――――――――
気になった方は、ぜひ第一話から読んでね!