四話 約束しました!
「…なあ、贈っておいて言うのもなんだけど…無理につけてなくて良いんだぞ?」
あの後僕は一つレーサさんにブローチを見繕い、お互いに選んだものを購入してそれを相手に贈った。
僕が今付けてるのはさっきレーサさんが選んでくれた髪飾りだ。レーサさんも僕が選んだブローチを早速つけてくれている。
「無理なんてしてないから、大丈夫です。
貰えたのが嬉しくて、使いたいと思ってるから使ってるんです。
ずっとしまってるのなんてもったいないですし、使ったらレーサさんも、この髪飾りも嬉しいんじゃないかなって。」
「…まあ、オレは嬉しいけどな。お前、女扱いされるの嫌そうだったし…」
「確かに、複雑な気持ちにはなりますけどね…でも、今回はレーサさんの勝ちです。」
母さんのおかげで大分緩和されたとはいえ、女の子扱いに不快な気持ちが無いわけじゃない。
けど、今回は髪飾りが打ち勝った。それだけの話だ。
「それは良いけどさ…結局、喋り方元に戻っちまったな…」
「あぁ…レーサさん僕より年上っぽいですし、こっちの方が自然に喋れるんですよね。
年上相手に砕けた口調、というのも落ち着かないですから。」
「あー、気持ちは分かる。先輩にタメってのは気が引けるからな。
まあ、お前の好きにしてくれ。オレは喋り方なんてどっちでも良いから。」
でも、最初にタメ強制してきたのって…
…別にいいけどね。
「…いっけね、明日仕事するんだった。
準備があるから、オレはもう帰るぞ。今日は楽しかったか?」
「はい!
…でも、どうしてここまで…夕食までおごらせてしまって。」
現在夕刻。少し前まで僕たちは夕食をすぐそこの飲食店で済ませていた。
女性に奢らせるというのは気が引けて、最初は僕が払おうとしたけど…結局押し切られてレーサさんに払わせてしまった。
「気にすんな、オレがしたいと思ったからしただけだ。
そんな申し訳なさそうな顔するなよ、どうせならありがとうとかご馳走様とか、良い笑顔で言ってくれ。」
「…それもそうですね。
ご馳走様でした!」
そうだ、こういうのは謝られるより感謝してもらった方が嬉しいに決まってる。
そう思った僕はとびっきりの笑顔でお礼を言った。
「お、おう…」
「自分で言ったくせに照れないでくださいよ。」
「いや、それとこれとは別問題って言うか…
…可愛すぎかよ。」
「何か言いました?」
もにょもにょして聞き取りづらかった。
「いや!? 別になにもないぞ!?
あ、それよりそうだな! どうしてお前を今日連れて来たかって話だったよな!」
「あ、はい。そうですね。
どうしてですか? 脅してまで休みを取らせて…心配だったとはいえ、一度二度会っただけの相手にそこまで…」
「…オレにはわかるんだよ。
お前みたいな奴は、誰かが止めないと取り返しがつかないことになるってな。
一回倒れるくらいならまだ良い。でかい失敗やらかして、人生真っ逆さまってことになってもおかしくないんだ。
知った風な口きくなって思ったかもしんねーけどさ。分かるんだよ。
オレも、そうだったから。」
「…え?」
僕と、同じ?
「オレも、何年か前にとーちゃんが死んでな。
もっと前にかーちゃんが死んでたから、所謂天涯孤独って奴になっちまった。
さっきまでのお前、多分狩人の先輩が見たらその直後のオレと全く同じだって言うんだろうな。」
「……!」
「その時はスゲーショックでさ。しばらく狩人としての活動も休んでた。
けど、習慣の鍛錬は止められなくてな…しばらく、そうしてた時に思ったんだ。
とーちゃんを追い越さなきゃ駄目だって。
それまでとーちゃんみたいになりたいって思ってたから、そう思った時は自分でも驚いた。
けど、悪い感じはしなかった。
新しい世界が開けたって言うか、世界が広がったみたいだった。
今まで見上げてたものより、もっと上にあるものを見なきゃ駄目だって思った。
それからは、馬鹿みたいに依頼を受けまくった。
今まで戦ってなかった魔物を倒しに行った。今まで行ってなかった場所に行ったりした。
けど、ある時…それを止められたんだ。
その時のオレはさっぱりそれに気付かなくて、反発した。
でも、帰ってから見直してみてやっと気付いたんだ。無茶な依頼を受けようとしてたことに。
それを受けてたら、オレは死んでたかもしれない。そうでなくても、大怪我して狩人を辞めてたかもしれない。
そう思った時は…ゾッとした。
なんてことをしようとしてたんだって、自分で自分を責めたりもした。
それで、やっと冷静になれたんだ。それまではずっと熱くなって、何も見えなくなってた。
お前もそんな状態になってるんじゃないかって思ったらさ…ほっとけなくなったんだよ。
それを見捨てたら、まるで昔のオレを見捨てる見たいな感じもするし…」
……そう、だったんだ。
やっと心の底から納得できた。
「…レーサさん。」
「なんだ?」
「また、店に来てくださいね。美味しい料理作るので。」
「約束したからな、当たり前だ。」
「ふふっ、ですよね!」
そして、こう思った。
彼女は絶対に、また僕の店に来てくれるって。