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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第四章 『魔法少女(?)爆誕!』
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四十一話 遅れました!

 

「や、止めろ…止めてくれ! 来るな!」


「へへへ…悪いが、俺達も仕事でな。その荷を渡してもらおうか、馬車ごとな。」


 町の外れに、その光景はあった。

 一人の男と、その男が持っている馬車を大勢の男たちが囲んでいる。

 囲んでいる男達は武装し、囲まれている男は完全に丸腰。戦力差は圧倒的だった。


「ふ、ふざけるな…! 渡す訳がないだろ!」


 男は商人だった。

 商人には大きな正義感と、今もなお背負っている、今後を左右する程の重大な商売(責務)がある。

 よりにもよって、そんな時に。

 荷物を渡さなければ殺される。渡しても死ぬ。

 男は、自棄になっていた。


「渡さないなら奪い取るまでだ! お前ら、やっちまいな!」


 男達の中でひときわ大きな、鎧を着た男が鬨の声を上げる。

 響いた号令が盗賊達を動かし、商人に襲い掛かる瞬間。


 ビッシャアアアアアアアアン!!


 雷鳴が全てを制止した。

 雨も雷雲も無く突如走ったソレに、男たちは全ての動きを止めた。


「私は許さない…」


 静寂に包まれた世界で発せられた()はただ一つ。

 さっきまでは景色に無かった華やかな一人。


「全ての人の悪を、貴方達の悪を!」


 何も無かった場所から現れたのは妖精だろうか。

 誰かが感じた疑問はその瞳に否定される。

 戦意に満ちた、言わば戦士の目に。


「私は正義の味方! 魔法少女、プラズマ☆マノカ!」


 降り立った戦士はフリフリの衣装を着て、ポーズを決めながら商人の前に降り立った。


「「……………」」


 あまりにも珍妙な名乗りに沈黙…というか再び停止する男達。

 自称魔法少女はそんな彼らの反応を無視して続ける。


「覚悟しなさい悪党たち! そこの商人さんは絶対に守るんだから!」


 ここで全員が忘れかけていた自分たちの状況を思い出す。


「へっ! 小娘一人に何ができるってんだ! こっちは多勢、そっちは一人」

「ショットー!」


 食い気味に叫び、手に持つ桜色のステッキを振るマノカ。

 瞬間、ステッキの軌跡から雷をまとった球が拡散されて盗賊達に降り注いだ。


「ぐあっ…!」


「うあ…」


「ぐ…」


 狙ったのか、そうでないのかは定かではないが、雷が降りやんだ頃には盗賊は頭を残して全員地面に倒れ伏していた。

 一瞬で数の優位を消され、呆気にとられる頭。


「これで一対一、対等だね。」


『おおっと、私も居るのでニ対一では?』


「誰だ!?」


 それは頭に直接響く声だった。

 どこからか、なんて見回しても声の主を探ることは出来ない。魔法によるテレパシーだからだ。


『私ですか? 私はマノカさん…いえ、マイマスターの素敵なステッキです!』


 マノカの右手にある桜色の杖に注目が集まる。

 指揮棒の様に真っ直ぐな短杖、その先端にはハートの上に雷を模したマークがついている。


「杖が喋った!?」


「自我がある杖なんて聞いたことねえぞ…!?」


 これには両者ともに驚いた。


「そうだったね、ニ対一でゴメンね?」


「じょ、冗談じゃねぇ…あんな、バケモンどうすりゃいいんだ…!」


 もう一度忘れかけていた状況を思い出し、逃走する頭。


「がっ…!?」


 そんな頭に容赦なく雷が襲い掛かった。


「盗賊って時点でそうだけど、部下を見捨てて自分だけ逃げるのは感心しないかな。」


 マノカはゆっくり歩き、頭の前にしゃがみ込んだ。


「部下をこうもあっさり見捨てるのは酷いんじゃない? 曲がりなりにも付いて来てくれた人たちでしょ?」


「う…ぐ…」


 立ち上がって逃げようとしても、体が痺れて動けない。

 次は何をされるのか、恐怖に怯えて言葉も何も聞えなかった。


「…よし、無力化完了。

 商人さん、もう大丈夫だよ。

 今から近くの狩人を呼んでくるから、事情説明お願い。」


「あ、ああ…ありがとう、プラズマ、マノカちゃん?」


「マノカで良いよ。じゃ、私は忙しいからこの辺で!」


 マノカは商人に手を振ると、現れた時と同じようにその姿を忽然と消した。







「ただいま、ゴメン遅れちゃって!」


「遅いよ先輩!」


 フォリスが言った通り、かなり遅れてしまった。

 営業中にも関わらず、うっかり調味料を切らしてしまったと言って買い出しに行ってからどれだけかかっただろうか。

 その時にあったオーダーは何とかこなせたものの、注文のメモが数枚溜まっていた。あんまりお待たせしないよう、手早く作らなくては。


「これ、買ってきた調味料! 余分に買っておいたからそれをしまったらお客さん見てきて!」


「うん、わかった!

 …それにしても珍しいね。三日連続で在庫切れで買い足しに行くだなんて…」


 …そうなのだ。

 昨日、一昨日も食材や調味料の在庫を切らしてしまっていた。

 その度に僕が買い出しに行き、今日のようにフォリスに残ってもらって注文だけ訊いてもらってメモを残してもらってる。


「そう言う時もあるよ、僕だって失敗くらいするよ。」


「でも、なんか仕事に厳しいマノア先輩らしくないね…」


「そ、そう言う時もあるって! ちょっと調子が悪いのかも…」


「……もしかして、ウチのせいで無理させちゃってる?」


「そんなことは無いよ! むしろ、フォリスが来てから一人だった時よりもずっと楽になったから!」


 これは事実だ。フォリスを雇ってからは負担が減るどころか仕事への楽しみも増えた。

 正直かなり助かっている。


「でも、調子が悪いのは事実なんだよね?」


「そうだけど…」


「だったら、明日お休みでもとらない? 臨時休業ってことで。」


「………」


 仕事の手を止め、思案する。


「…そうだね。

 どうせなら明日と明後日、二日間休もうか。お休みを挟んで仕事っていうのもなんだか嫌だし。」


「え……?」


「え…何? どうしたの?」


「え、えっと、まさか本当にお休みを取るとは思ってなくて。

 てっきり、先輩の事だからあと二日だしまだやるよって言うんだろうなって…」


「確かに、いつもの僕ならそう言うかもしれないけど…でも、今はこの調子だし。

 不調のまま仕事をしたんじゃかえってお客さんに迷惑をかけかねないでしょ?

 いつまでも今日みたいに待たせられないし。」


 それに、今は()()もあるし――

 と、心の中で付け加える。


「う、うん…先輩が良いなら良いんだけど…

 じゃあ、明日と明後日は臨時休業って張り紙を貼った方が良いね。合間を縫って貼っておくね。」


「お願い。じゃあ、まずは買ってきたやつよろしく。」


「………うん。」


 フォリスは、どことなく釈然としない様子だった。

 でも、仕方ないよね――


 ――この世界の悪を滅ぼすためなら。

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