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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第一章『シーサイドとお客さんたち!』
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三話 出掛けました!

 

「んー…とはいえどうすっかな…」


 店を出て早々、レーサさんは思案顔で歩き始めた。


「どうするって?」


「ああ、実はオレ、この町来てからほぼ宿と狩人ギルドと飯屋くらいしか行ってなくてさ…」


「…それでよく一緒に出掛けようなんて言えましたね…」


「何言ってんだ、わかんねーから楽しいんだろ?

 楽しければそれでいいし、やなトコだったらご愛敬ってことで!」


 豪快な人だなぁ…

 ここまで計画性が無いと不安になってくる。

 普通ならそのはずなんだけど……何故か今は楽しみだ。

 そんなにレーサさんと出かけるのが楽しみなのだろうか、僕は。

 こんなに晴れやかな気分になったのはいつ以来だろう。やっぱり、父さんと母さんが――


「こら。」


「いたっ…」


 頭に軽いチョップ。何かと思ってレーサさんを見ると眉をひそめていた。


「お前、今親か仕事のこと考えてただろ。」


「な、なんでそんなこと…」


「あんだけ顔に出りゃオレにもわかる。もっと今を楽しめよ。」


「…はい。」


 ――今を、楽しむ。

 さっきまでの僕には、出来なかったことだ。

 けど―――


「…行きましょう、僕が案内します。」


 ―――この人となら、きっと。

 なんとなく、そう思えた。


「……よそよそしい喋り方禁止って言っただろ。」


「あ、すいません。」








「ほー…こんなところがあったのか。」


 僕が案内したのはアクセサリーショップだ。

 職業がなんであれ、女の子ならおしゃれに目が無いはず。外れはないだろう。


「どうですか?」


「良いところだな! お前と来て良かった。」


「それ、普通品ぞろえ見た後とか買い物が終わった後に言うんじゃ…」


「細かいことは気にすんな!

 そうだな…これなんて良いんじゃないか?」


 レーサさんが手に取ったのは花をあしらった髪飾りだ。

 髪飾りを付けたレーサさんを想像してみる。


「…もう少しクールな方が良いんじゃないかな?」


「オレはこれで良いと思うけどな…ちょっと目つぶってくれ。」


 疑問には思いつつも目を閉じる。

 …数秒間モソモソと髪をいじられる感覚を覚える。嫌な予感がしてきた。


「よし。目、開けて良いぞ。」


 恐る恐る目を開く。

 髪飾りを付けた僕が居た。鏡の中に。


「やっぱ似合うな!」


「…レーサさんのを探してたんじゃないの?」


「いや? オレはマノアに合いそうなヤツを探してたぞ。」


「え?」


「オレよりマノアの方が可愛いし、こういうの似合うだろ?」


「………あの、僕男なんですけど。」


 …僕が女の子と勘違いされることはいつものことだ。

 初対面の場合はほとんどそうだったし、あらかじめ説明してもらっててもわざわざ訊かれるくらいだ。多分、初見のお客さんは何も言わなければ僕のことを女の子だと勘違いしたまま帰っているだろう。

 料理が得意、という一面ももしかしたら勘違いの一因なのかもしれないけど…皆から言わせると顔が可愛い、らしい。

 全く自覚は無いけど。自分の顔の良し悪しなんて分からない。


「あれ? そうだったのか、わりーわりー。」


「…あんまり驚かないんですね。」


「まあな。

 オレも子供の頃はしょっちゅう男と間違えられてたし、見た目完全に女だけど男って奴も見たことあるからな。」


「え…レーサさんが男扱い?」


 確かに男っぽさはあるけど。

 今のレーサさんは顔も体も女性らしいので、ちょっと想像できなかった。


「ああ。

 昔からこんな喋り方だったし、男子と同じで剣が好きだったからな。

 エレスを卒業する前からとーちゃんから鍛錬させてもらってたから、そこらの男より力は強かった。」


「……」


 ちょっとだけ羨ましいと思った。

 僕がエレスに居た頃と言えば、皆から可愛い可愛いって言われてて…

 かっこよくないから、という理由で自分の顔が好きじゃなかったというのもあって、僕は男なのに。可愛いってなんだよって、やさぐれてた時期もあった。

 その時、母さんが励ましてくれたおかげで――


『大人からすればね、子供は皆可愛いものなんだよ。クラスの皆も、エレスの子達も、もちろん、マノアだって。

 でもね、大人になれば絶対にかっこよくなれるよ。だから、今は可愛いって言われても良いんだよ―――』


 ――母さん…


「マノア、お前…」


「い、いえ、そうじゃなくて!

 僕はずっと可愛いって言われてたから、羨ましいなーって…」


「…そうか。

 でも、良い事ばっかじゃなかったぞ?

 ほぼ男としか遊んでなくて、女としてこれでいいのかなーとか考えたこともあったし、なによりとーちゃんの鍛錬が辛いのなんの…まあ、おかげで今こうして狩人ができてるんだけどな。」


「レーサさん、狩人だったの?」


 狩人は、ギルドや民間の依頼を受けて強い魔物を倒したり、危険な山とかある物を取りに行ったりして、その報酬で稼ぐ職業だ。

 僕も狩人には憧れがあったけど、それ以上に料理に打ち込んでたからその道には進まなかった。


「ああ、ガキの頃からとーちゃんの旅の話を聞いてて、オレも狩人しながら旅してー! って思ってたんだ。

 実際に出てみると辛いこともあったけど、それ以上に楽しい。夢を叶えられたって実感もあるからな。」


「……レーサさん、旅人だったんだ…じゃあ、この街からも出て行っちゃうの?」


 せっかく仲良くなれたのに、近い内に別れが来てしまう。

 そう思うと、物凄く心細く、寂しくなる。


「そうだな…ずっと居るって訳じゃない。明日か明後日辺りで出て行くつもりだ。

 でも、それまではまたマノアの店に行くし、もう一回だけでもこうやってマノアと遊びに行きたい。

 それにさ、この街を出て行ってもまたいつか来る。だから待っててくれ。達者にしてろよ?」


 まだ、お別れじゃない。

 また、いつか会える。

 そう思うと、おこがましいことかもしれないけど…レーサさんとのつながり…絆のようなものを感じた。


「お、おい、泣くなって。今すぐ出ていく訳じゃないんだ、落ち着けって。」


 泣く? 誰が?

 それが自分に掛けられた言葉だと気付いたのは、視界が大きく歪んだ時だった。


「良かった…また、会えるんだ…」


 無意識のうちに呟いていた言葉を聞いて、ようやく涙の理由が分かった。

 そうか、僕は…安心したんだ。


「そ、そうだ! 絶対戻ってくるからさ! だからちょっと落ち着いてくれよ! なあ! なんかオレが泣かせたみたいだろ!? ちょっと居心地が悪くなってきたんだ!」


「ふ、ふふっ、事実じゃないですか。

 でも、これは決して悪い涙じゃないから。大丈夫です、安心してください。」


「安心させたいなら泣き止んでくれよーーーー!!」


 涙を拭った後、僕は笑った。

 涙の先にあった必死なレーサさんは、見ていて面白かったからだ。

 その内レーサさんも一緒に笑いだして、しばらく2人で笑いあった。

 …他のお客さんや店員さんにはうるさいって迷惑かけちゃったけど。ごめんなさい…

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