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シーサイドへようこそ!  作者: じりゅー
第九章『大卓姉弟のお悩み相談室、開店!』
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百四話 相談しました!

何とか年内間に合った…!ここ二ヶ月忙し過ぎましたっ!

 開け広げられていた店の外扉は閉じられ、その前に敷かれた石畳に落ちていた土も綺麗に取り除かれている。

 立ち並ぶ商店街の一角にあった小さな花屋は、その面影を残しつつも別の店へと生まれ変わっていた。

 “オータク姉弟の占い相談室!”、と日本語で大きく書かれた看板はとても存在感が大きく、周囲に並ぶあらゆる店の看板よりも目を引いている。

 ちなみに、この世界の住民はほぼ全員が翻訳魔法をかけられているので言語の問題は無いに等しい。異世界人である店主だがそのおかげで言語に困らなかったらしい。


「いらっしゃいませ! お悩みですか? 占いですか?」


 店に入ると、出迎えるのは異国を思わせる顔立ちの男女。

 これは若き2人の店主の奮闘の物語。

 これは悩みを胸に秘めた相談者たちが前に進む物語。






「…ってモノローグを考えたんだけどどう?」


「センスねーな。後半すげーそれっぽさを出そうとしてる感があってなんかやだ。」


「なんかやだとは何だ! 必死に考えたんだぞ!」


「必死過ぎるから嫌なんだよなぁ…美しさが足りない。」


「売れない芸術家みたいなこと言いおってからに! この批評家!」


「はいはい。

 それより、そろそろ休憩終わる時間じゃないか?」


「おっと、お客を待たせる訳にゃいかねぇ。急げ進矢!」


「何キャラだよ…ほんとねーちゃんキャラぶれぶれだな。」


「私はキャラぶれぶれキャラだから良いの! わざとなのキャラ付けなの!」


「なんだそりゃ。」


 こんな漫才のようなやり取りも、2人からすればいつものこと。もしフォリスがこの場に居れば妙な安心感すら覚えていただろう。

 そんな彼らは今日もまた多くの人の悩みと向き合う。今日の客は…?







「マノアに女の子として見られてるか心配なの…」


 今回の客はセシカ・ノースランダー。この世界における彼女らの友人の一人である。


「…セシカさんの相談なら個人的に聞いてもいいよ?」


「水晶玉だってくれたし、無料で相談に乗っても良いくらいだ。」


「そうはいかないわ。その水晶玉は以前のお礼だから、貸し借りはもう無いものよ。

 その上で相談屋として相談に乗ってもらうんだから、並びもするしお金だって払うわ。」


「けど…」

「そう言うことなら、お代は受け取っておく。初回は半額ね?」


 言い返そうとした進矢を彩弓が制する。


「それでいいわ。

 ところで、そろそろ本題に入ってもらいたいのだけど。」


「おっといけない。脱線しすぎた。」


 3人とも佇まいを直し、大卓姉弟は本格的に相談(仕事)の態勢に、セシカは一言一句聞き逃さぬよう姿勢を正す。


「その件だけど…私が見るに異性として一番マノア君に近いのはセシカさんだと思うんだよね。」


「…どういうこと?」


 しかしセシカの不安とは裏腹に、その一声は悪いものではなかった。

 内容だけ聞けば気休めかと思った彼女だが、2人がここで気休めを吐くとも思わなかった。


「どういうことも何も、そのままの意味だよ。他の女の子の事を考えてみて?

 まず、フォリスちゃんは異性って言うより妹とか家族とかそういう感じでしょ?

 私は本当に普通の友達って感じだし…レーサさんもこの前の事があってちょっとギクシャクしてるじゃない? その前も恋人みたいな空気になったの見たこと無いしね。」


 彩弓はマノアの交遊関係を一人一人列挙し、それぞれの状況をまとめる。

 セシカもその一つ一つに納得し、無言で頷く。


「けど、セシカさんは違うのか?」


「オフコース!

 マノア君ね、セシカさんにだけは甘酸っぱい雰囲気出してくるのよ。」


「根拠は?」


「私の視力1.5の目! あと勘!」


 ここで根拠としてはフワッとした、頼りない言葉を聞いたセシカは椅子からずっこけそうになる。

 彩弓らしいといえば彩弓らしいのだが、直前まで論理的に状況を説明していただけに落差が酷い。


「根拠としては弱いな…って言いたいけど、俺も姉ちゃんと同意見だし根拠も弱いから人の事言えないか。」


「そうなの? シンヤにもそう見える?」


「まぁ俺も勘なんだけどな…少なくとも、セシカさんはレーサさんよりはそう言う関係に近いと思う。」


「2人がそう言うなら大丈夫なのかしら…?」

 

 先の根拠はともかく、その前の分析に関しては信用できるものだった。

 それに、セシカは2人のことを知っている。残念だったりよく分からなかったりする言動こそあるが、頼もしくもあるのだと。


「一緒にいる時間をしっかりとって、アピールを続けてればきっとマノア君もセシカさんに振り向いてくれるよ。」


「そう…! 助かったわ、ありがとう!」


 最後のアドバイスを聞いて抱えていた不安が無くなったセシカを見た姉弟は、心からの笑顔で彼女を見送る。

 客の姿が見えなくなると、2人は次の相談の準備を始めた。まだまだ悩みを抱えた客は待っているのだ。







「マノア君は男らしさの相談かな?」


「違いますよ! いや、悩んではいますけど…」


 次の相談者は2人の可愛らしい友人マノア。よく誤解されがちだが性別は男である。


「やっぱりじゃん。別件みたいだけどそっちも相談に乗るよ?」


「いえ、良いです…そのままでも良いとか言われそうなので…」


「それはそう。」


「ちょっと!?」


 余談だが、彼は大抵の友人に同様の相談をしている。

 そしてほぼ全員から現状維持を勧められている。彼曰く真面目なアドバイスの方が少ないらしい。


「俺は要所要所で男らしいかっこよさを出せれば良いと思うけどな。いつも男全開にする必要は無いと思うぞ。」


「普段とのギャップでより男らしさやかっこよさを強調するってことね。そうすれば全体的にかっこいいとか男らしいとかってイメージが付くと。」


「なるほど…!」


 想定外だったが本気で的確なアドバイスに目を輝かせるマノア。


「流石プロですね…お悩み相談だけであんな行列を作った理由が良く分かりました。」


「それほどでもある。」


「謙遜しろ姉ちゃん。

 けど、これくらいじゃ相談料は取れないな。個人的にマノアを知ってるから出来たアドバイスだし、具体案を何も示してないからな。」


「僕、ここから先は別料金だよ?」


「怪しい商売みたいだからその言い回し止めろ。」


「えっと…じゃあこの話はここまでにして本題で。

 僕、お店を一人で立ち上げてからいろんな人にお世話になったので…恩返ししていきたいんです。

 常連さんもそうですし、レーサさんにセシカさん、フォリスにウォンリー島の方々…それに、シンヤさんやアユミさんも。」


「私達も?」


「はい。」


 真剣な眼差しを受け止め、大卓姉弟は真剣に考える。


「ん~…焦る必要は無いんじゃないかな。恩はゆっくり返して良いと思う。」


「悠長って思うかもしれないけど、恩っていうのは見えない物だからなサッと返せるものかどうかっていうのは場合によると思う。

 即物的な物ならお店の割引券とか、誕生日を調べてプレゼントするとか…そういう感じにするとか?」


「逆に、気持ちで返したいなら態度で返した方が良いな。注文が決まったみたいなら出来るだけ早く訊きに行くとか、なるべく早く料理を作るとか…」


「けどそれで初見のお客さんを待たせちゃまずいんじゃない? 水が無くなったらすぐ注ぎに行くとか、お客さんの為にレイアウトを継続的に改修していくとかの方が良いかも。」


「難しいな…すまんマノア、中々良いアドバイスが出来なくて。」


「いえ、そう言った話を聞かせてもらうのも参考になって良いですよ。特に誕生日については目から鱗でした。」


「目から鱗…?」


「そういう感じの慣用句がこっちにもあるんじゃない? もしくは翻訳魔法がそう翻訳したとか。」


「?」


 マノアはとりあえず聞き流し、続きを聞くことにする。


「常連さんにカードを配って、見せてもらったら割引する? ついでにカードを配る時に誕生日を教えてもらって、誕生日だったら食後に限定スイーツを提供するとか。」


「会員制か…けど、入会条件によっては客を差別するって感じにならないか?」


「今回は恩返し目当てだから、会費を貰うのは微妙かもね。」


「そんな手法もあるんですね。」


「素直に納得してもらってどうかと思うけど、没案だからあんまり気にしないでくれ…」


 若干の罪悪感をにじませる進矢。ちょっと気まずくなってしまったらしい。


「恩返しの仕方にも人柄は出るからねぇ…まあ私達の話は参考程度に聞いて、どう恩返しをするかは自分で決めるって言うのが一番かな。相談のプロとしてはもっとしっかりアドバイスしたいけど…今回はタダで良いから。お金は返すよ。」


「そう言う訳には行きませんよ。他の相談も聞いてくれましたから。」


「簡単にだけどな。」


「じゃあ、常連さんの誕生日をそれとなく聞いておいてその日になったら何かおまけとかしましょうかね…?」


「それでいいんじゃないか?」


「そうだね、変に凝ろうとして考えすぎるよりは良いかも。」


「そう言ってもらえて安心しました! 今日はありがとうございました!」


 頭を下げて去っていく彼を見て、2人は思った。


((良い子だなぁ…))


皆さん良いお年をー!

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