第7話「フーカ違い」
「着いーたっ! お兄ーお腹減った!」
「フーカの野郎んとこに行くのが先だ」
「むー」
サニーは頬を膨らませる。かわええ。町の入り口らしきところを通るとすぐ商店街につながっていて、至るところから五感を刺激するようないい臭いが漂ってきている。これはサニーが腹減るのも自然の道理だ。
「さっきいたところと違ってすごい賑やかな町だね」
「まーあそこが田舎すぎるっていうのもあるけど、ルーグはラルグの中でも5本の指に入るぐらいの都会だよ」
「そうなんだ」
話の流れ的にラルグというのは国名だと理解した。賑やかといえばだが、すれ違う人は普通の人間が大半を占めるが、ケモ耳を持つ人もちらほらいる。
「なぁなんでサニーはフードを被ってんだ?」
サニーはピクッと反応を示し立ち止まる。地雷を踏んでしまった感が強い。無意識にファイティングポーズをとる。サニーは黙ったままだ。
「お前は質問することしか脳がねえのか?」
レインはそう切り込んだ。
「ごめん」
「別にいいって……」
自分の愚かさを猛省する。まぁ好きで被っているわけはないよな……。
この兄妹は謎が多い。髪色など似ているところはあるが、レインにはネコ耳らしきものは付いていない。血の繋がりがないのではないかという結論にユキトが至るのは自然の道理だ。こんな可愛い義妹……羨ましい。ユキトの脳はゴブリンの時のことを全力で記憶喪失しようとしていた。
「ここら辺にいるはずなんだけどなフーカさん」
「どーせあいつのことだ武器屋だろ」
「確かに……あ! いた!」
サニーが指差した方を全力で見る。そこにいたのは紛れもなくずっと探していた風華さんだった。髪の長さはショートボブで銀髪であり毛先が青みがかっている。これは髪の長さ以外違和感だが染めたのだろう。とても短いスカートをはいていて、脚の柔肌があらわになっている。とても綺麗だ。
「おっそい」
「色々あったんだよゴブリンとか! 色々」
「まぁギルド長から言われたんだけど……」
風華さんがこちらを見ている。心臓がバクバクだ。
「誰?」
ん?…ん?……ユキトは想像していた反応リストの枠外を突き進む反応だったので固まる。
「え? フーカさんユキトと知り合いじゃないの?」
「ユキト?……あ」
風華は顔を見て何かを思い出したようだ。そう! あ!だよ! さすがにフッた相手ぐらい覚えてるよな。
「湖に落ちてきた人か……名前は初耳だけど」
あれ? 俺に関しての記憶完全に消されてる? 運命の出会いは? ユキトは絶望感に苛まれる。
「お兄ーユキト嘘ついてなかったよね?」
「あぁ」
「じゃあなんで?」
「えーっとあなたは天空風華……さんですよね?」
「え?」
「は?」
「ん?」
「ほ?」
ユキト以外の3人にハテナが浮かび上がる。沈黙が続いた後サニーは全てを理解したかのように、
「この方は私達のパーティーのリーダーであり世間では戦乙女と称される、フーカ=ユニヴェールさんだ!」
「なんでサニーが誇らしげに言ってんだよ……後その言い方やめてきもいから」
「そこまで言わなくてもいーじゃんあー」
サニーは涙目になる。そしてユキトは放心状態だ。
「は? ……人違い?……いやだって顔……え?」
ユキトはフーカの顔をしっかりと見る。すると顔に前にはなかった威風があると感じた。歴戦を生き抜いてきた……そんな荘厳さが感じ取れた。性格も違和感がある。きもいだなんて言う人じゃなかったはずだ。だとしても顔が同じすぎる。こんなに似ている別人が存在してもいいのだろうか。
「姉とか妹とかいます?」
「……いない」
「そっか」
まぁ苗字ならまだしも名前が同じ家族とかおかしいよな。ユキトは2人で元の世界に帰る冒険が始まる……的なことを考えていた。その期待がユキトをここまで歩かせたのである。だがそれが打ち砕かれて心を深い闇が覆う。これからどうしよう。
そんな時ユキトはあることを思い出す。ずっと風華さん風華さんと考えていて忘れていた存在があることに……。忘れるというより存在を認識できなかったというのが正しい。
「なんだよフーカ違いかよ! 会ったらまた告白しようと思ってたのに!」
「は?」
「お! 操れた!」
こう言い放ったのはユキトの口だがレーギルである。
読んでいただきありがとうございます。
次話は今日の深夜です。