第5話「狂気」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ほらお兄も!」
サニーがすごい勢いで大家さんに謝っている。そしてサニーはレインの頭を無理やり手で下げる。ユキトもつられて頭を下げた。大家さんがこちらを睨む。
「あの……これ……銀貨です……これで直してください……それでは!」
サニーが思いっきり走って逃げ出したので、それにレインとユキトはついていき、今いる町からでた。ユキトはいつもより足が速い気がした。
「――はぁはぁはぁ……逃げてよかったのかよ?」
「逃げなきゃ怒られるでしょ……あそこの大家さん怒ると怖いの! 壁を直せる以上の銀貨渡したからいーの」
「そっか……」
「お兄! 最近カツカツなんだからもう変なことしないでよね!」
「あ」
「ちゃんと返事して!」
「あのー今更だけど風華さんは?」
「あーフーカさんはギルド長に呼び出されてこの先のルーグって町に一足先に行っちゃってるんだよね」
「呼び出された?」
「そう!」
「そ……そうか」
ユキトはこう考えていた。「同じタイミングで転移した」と。だがサニーが話す感じだと、それはおかしい。まだ来たばっかなはずなのに偉い人そうな名前の人に呼ばれたり、こんな強いやつらと仲間だったり……転移した時間にタイムラグがあるのかもしれいない……そういう考えに落ち着いた。3人はルーグに向かって歩き始めた。歩く道の左右には森が広がっているが、道自体は整っていて人の力が加わっている。
「それにしてもフーカさんの知り合いなんてめずらしいね」
「そうなの?」
「うん! 初めてかも! しかもそれが男だなんて!」
「そ、そうか……」
サニーは話す時とにかく近い。ユキトは顔を赤面させる。ユキトは女性と話すのが苦手だが年下には耐性があったので可愛くてもサニーとギリギリ話すことができた。
「ねぇサニー……レインさ、レインく、レインの嘘の能力? っていうのはなんなの?」
「あーお兄はその人が嘘をついてるかわかっちゃうんだよ」
「嘘を見抜く能力ってこと?」
「そう……まぁ能力っていうかお兄が元から持っている特性っていうのが正しいんだけどね」
「おいサニー……軽々と他人に喋るな」
「頑固だなお兄は……もうユキトは悪い人じゃないってなったでしょ?」
「こいつの弱さに嘘がないとわかっただけだ」
「むー」
サニーはむくれ顔をする。サニーはフードを脱ぐ。
「おい! 人前で脱ぐな!」
「お兄は黙ってて……ねぇユキト私をみてどう思う?」
「え……いや、特になんとも……」
「嘘」
「ねぇユキト本当のこといって」
「え……」
ユキトは赤面する。言うのが恥ずかしいからだ。嘘を見抜く能力……なんて厄介なんだ。
「か……」
「か?」
「か…か…可愛い……というかお綺麗だな……というようなことを考えてしまいました!」
ユキトは真実を言ったわ言ったでお兄様に殺されるんじゃないかと不安だった。
「お兄……やっぱユキトはいい人だよ」
サニーはグッドポーズをしながらそう言い放った。
「お前は人を信じすぎだ」
「お兄が頑固なんだよ……あームカムカする」
ユキトにとってとても気まずい状況だ。そんな時だった。右に広がる森からガサガサっと音が聞こえたかと思ったら、円を描くように周りを緑の生物に囲まれてしまった。30匹はいるだろうか。あれはゴブリンだ。
「ケヒィ――グヒィケヒ……」
鳴き声から下品さが伝わってくる。1匹1匹が小汚い短剣を所持している。ユキトはさっとレインに近づいた。ユキトは恐怖に怯えた表情をしているが2人はいつも通りの顔だ。
「お兄……ムカムカするし私1人でやっていいよね」
「んーあぁ」
「じゃあ2人離れてて」
「え……どゆこと? うわっ―」
―ダンッ
レインはユキトを担ぎ上げ高く高くジャンプした。
「レレレインどうなってんの?」
「黙って見てろ」
下にはサニーとゴブリン達がいる。ゴブリン達は様子をうかがっているという感じだった。
「『理論解除』model『機関銃』」
サニーがそういうと機械音とともに持っていたリュクがゴツい機関銃へと早変わり。ゴブリン達はヤバイと感じたのか、サニーに突っ込んでいく。だが完全に遅かった。
――ダダダダダダダダダダダダダダダダ
銃弾の雨が降る。これは一方的な虐殺である。ゴブリンを可哀想だと思ってしまうほどだ。しかしサニーは満面の笑みだ。生きているゴブリンは逃げようとする。
「キャッハッハ! 逃げられるとでも思ってんのか? 皆殺しだ! 皆殺し!」
そこに可愛いサニーはいなかった。全員殺し終わった後ユキト達は地面についた。
「人は見た目で判断しない……お前も心に留めておけ」
「了解ですレインさん」
ユキトはこの時一生サニーにたてつかないと心に誓ったという。
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