第3話「レイン=フォルリィア」
「痛ってぇ……俺なんか気に触るようなことしたかな……」
「お前は存在自体が人の心を逆撫でする……そんな男だよ」
「レーギルお前は一旦黙ってろ……あと手ー出すんじゃねぇぞ……ナギもだ」
ゆっくりと立ち上がる。ユキトはレーギルは魔法をカッコつけたが使えなかったし、ナギは使えたけど風を出した後に左手が絶望的な状態だったので、こいつらに頼るには不確定要素が多すぎると思い、頼らないことにした。
「何ボソボソ喋ってんだ?」
「うるせぇ」
「あ?」
「うるせぇっつってんだよ」
頭で理解はしていた。あいつは多分何か勘違いして自分を投げ捨てたのだと。話の内容的に風華さんの知り合いか何かだろう。湖に落ちたことも知ってるしな。だからちゃんと話せば理解しあえるはずだ。
だが……何もしてないのにこんなことをされたら頭にくるのも自然の道理だ。それにこんな状態で「話し合おう」となど言っても「ああわかった」ってことになんて、なるわけないというのもユキトはわかっていた。
「さぁ……来いよ!」
ユキトは苛立っているからか、自分でも想像し得ないことを口から吐いていた。確実に勝てるわけはない。わかっていた。だがユキトはあることを信じた。それはいい感じのところで風華さんが助けに入ってくれるということだ。他力本願である。
「はっ―」
レインはニヤリと笑みを浮かべると、床を蹴り、目にも留まらぬ速さでこっちに向かってくる。
「オラァァァ――」
「うわっ――」
勢いのまま殴りかかってきたレインの拳をユキトは体勢を崩しながら紙一重でかわす。その時ユキトは生きた心地がしなかった。その拳は地面と衝突し地面に風穴を開けた。衝撃で飛び散った石がに当たりユキトは勢いよく吹き飛ぶ。
「ぐはっ……ごほっごほっ――」
手で口を押さえながら咳をした後、手のひらを見ると血がべっとりとついていた。ユキトは拳を握りしめ決心した。あいつにワンパンぐらい入れてやろうと。
「はっ―ザコにしてはやんじゃねぇか……」
「いいから……来るなら来いよ」
ユキトは自分自身に違和感を感じていた。普通の自分なら投げ捨てられた時点で許しをこい、土下座をしているところだ。なんでこんなセリフを吐いているんだ……実力もないのに……。ユキトは自分が今までとは全く違うものになってしまうような、何かに操られているような……そんな感覚を覚えた。
「オラァァァ――」
レインは先程と同様に殴りかかる。ユキトはそれを今度は体勢を崩さずにかわすことに成功。そこでレインはそれをわかっていたかのように笑みを浮かべユキトの顔を蹴ろうとする。ユキトはそれを避けれないと悟ったのか左腕でそれをガードした。
――ミシッボキッ……
「ぐあっ――」
左耳は左腕が折れる音をしっかりと捉えて離さない。ユキトは蹴りの勢いでまた吹き飛ぶ。体のいたるところが傷だらけだ。
「もう終わりかー?」
「終わりも何も……まだ始まってすらいねんだよ」
今のところユキトが吹き飛ばされ続けてるだけである。まだ何もできてない。虚勢を張っているだけだ。ユキトは重い腰を上げ立ち上がる。
「来い!」
レインはユキトの言葉に応じるように、勢いよく殴りかかる。それをしっかりとかわしユキトはレインの顔に右の拳をきめる。
――ボキッ
「ぐぁぁぁうぁぁぁぁっ――」
しかし折れたのはユキトの拳の方だった。痛みで地面を転がる。桁違いとはこういうことをいうのだろう。最初にかわされたのにわざわざ同じように殴りかかってきたのは、自分にカウンターをさせるように誘導していたのだとユキトはここで気づいた。ユキトは心のどこかで、もしかしたら……と思っていた自分を恥じた。
「終わりだな……自分の弱さを呪いながら死ね」
レインが拳を握ると稲妻が走り、右手に雷が纏う。空気がピキピキと音を立てている。ユキトは察した、自分との戦いでは手加減しかしてなかったと……戦いとも言えないか……惨めだ。
そしてレインが今ユキトに向けてその拳を振りかぶろうとした……そんな時だった。ユキトが吹き飛ばされる前にいた部屋にフードを被った、ある少女がいた。その部屋の状態を見て少女は愕然とする。その少女はレインとユキトが開けた風穴から外を見渡し、また愕然とした。その少女は大きくため息をつき、
「『理論解除』model『斧』」
そういうと少女の持っていたバックが全く少女に似合わない禍々しい斧へと変貌を遂げる。そして少女はその斧を軽々と持ち、レインのように床を蹴りユキト達のところへ向かう。その時フードが脱げた。
そして場面は戻り、レインは拳をユキトに振りかざす。ユキトは死を確信した。その振りかざされた拳を止めたのは少女だった。レインの拳と少女の斧がぶつかり衝撃波が起こる。その時ユキトには時空が歪んだように見えた。それほど強い衝撃だった。二つの力は拮抗し、両方とも勢いがなくなると、周りを沈黙が支配する。その時ユキトは気づいた。その少女には猫のような耳が生えていると。沈黙が続く中、色々耐えかねた少女が口を開いた。
「……なーにをやってんだよバカ兄!」
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