第9話「魔適性BABY」
『冒険家』とは好んで冒険をする人のことである。
『冒険』とは危険になることを承知の上で、あえて行うことである。
普通に考えて、こんなものになりたいなんて言う人は、ごく少数だろう。だが異世界となれば話は変わる。基本的にこの世界の人々はまず冒険家を目指す。そして適性がないとわかれば諦め、違う職につくのである。なので上位の冒険家ともなると世間からはアイドルのような扱いをうけ、さらに二つ名が与えられる。
「戦乙女って言ってたけどよー……この世界にもジャンヌダルクって存在すんのか?」
素朴な疑問を思わず口に出す。
「知らねぇ」
(知らない)
「まぁー今考えても仕方ねぇか……つか冒険家か……」
ユキトは冒険家になると決めた。しかしそこには幾分かの躊躇がある。それはユキトが「この世界は俺に厳しい」と理解していたためである。転移してからすでに2回も死にかけている。命があれば御の字と言われたらそれまでだが、かなり心はスレスレだ。今は束の間の休息というやつだ。あっという間にこの幻想は壊されてしまうことだろう。ユキトが前に足を踏み出せば踏み出すほど頸烈な向かい風がユキトを襲う。この世界はそういう世界である。
「冒険家になる」というのはその頸烈な向かい風の中を走り抜けることに他ならない。だがそれを乗り越えねば帰るという未来を切り開くことはできない。確固たる覚悟を決めた。
「俺が冒険家か……よしっそうと決まればギルドに行こう」
「まずなんでまだこんな明るいのに部屋にこもってたんだよ」
「フーカさんにここは安全だからここにいてって言われたんだよ……やっぱ部屋にいよう」
「おい! 男に二言はねーだろう」
「ここは安全=外は危険ってことじゃねぇか! 俺は男のプライドなんかより身の安全をとるそういう男だ」
「いやー外っつったってよーお前さっきいたじゃねぇか」
「1人は危険なんだろ」
「いざとなれば俺がなんとかするって」
「あ! お前ら絶対魔法使うなよな」
「なんでだよ」
「ワニを倒すために風を放ったじゃん……その後の左手の惨状思い出すだけで吐きそうになんだよ……ボロボロで血だらけで……あれ魔法の反動だろ」
「あれは魔法じゃないけどな……まぁそうだ」
「なんであんな惨状になるんだ?」
「簡単な話だ。お前の体が魔を扱うことに慣れていないからだ」
「どーゆーことだ」
「お前は今、言葉をなんの不自由もなく話せている。しかしそれは練習したか? 生きていたらいつのまにか体に染み付いていただろう。魔の扱いもそんな感じだよ。生まれた瞬間から日常的に魔を体に取り入れてきたやつなら普通に扱えるが、お前みたいな最近魔始めましたってやつは扱えない。お前の今の魔への適性は赤ちゃんレベルってことだ」
「Baby……まぁとにかく使うなよな」
「はいはい」
「ナギもな」
「うん……あ……ごめん操っちゃった」
「ついに無意識に操るとかいう怪奇現象が起き始めたか」
「魔があるしな……お前の世界よりお前を簡単に操れるよ」
「くそったれ……はー……さすがに今度こそ独り言は終わりにして外に出よう」
久しぶりに外に出るニートかな……ユキトはベッドから出て、部屋の入り口の方に歩いていく。だがその途中の鏡の前で立ち止まる。学ランだ。さすがに異世界っぽい服が着たい。ポケットを確認すると転移時と同じくちゃんと左にスマホとイヤホンが入っていた。ユキトはあることを思いつく。
「スマホでも売って服を買うか」
「たしかに結構珍しいと思うよその機械」
「高く売れてくれ」
そう言いながら部屋のドアを開けた。
――ドンッ
するとドアが何かに衝突した。ユキトは恐る恐る何に衝突してしまったのか確認をすると、そこには直立不動のレインが立っていた。鋭い眼光でこちらを見ている。
「内開きにしろよ! この宿の建築士出てこい!」ユキトはそう心の中で叫んだ。
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