Type.2 生まれ落ちたるは空虚の地
空は何処までも澄み渡るほど、青く広がっていた。
地上も見渡す限り地平線の彼方まで、全てが草原だった。
そんなあんまりにも何もない場所に、ただ俺はポツンと立っていた。
急な場面転換に戸惑いつつも、余計なことをしてくれやがったあのクソ野郎に遺憾の意を示すべく、口からなんとか言葉という意志を絞り出す。
「……しね」
たったそれだけの言葉ではあったが、少しばかり気持ちがスッキリした。
心持ちが僅かばかり軽くなると同時に、考える余裕も生まれる。
それでも尚、思い付くがままに罵詈雑言を吐き出して現実逃避したい気持ちになるが、どうにか押し殺す。
現状、生産性のない行動をとるべきではないだろう、多分。
有り余るほど残っている行き場のない怒りは横に置いておくとして、現状把握に努めよう。
まずは所持品。
・簡素な外行きの服上下(夏仕様)
・買い換えたばかりのスマホ
・コードが繋がれたままのモバイルバッテリー
・景品の飴玉3つ
持っていた所持品はトラックに轢かれる前に身に付けていたものばかりだった。
異世界行きにしてはあまりに貧相なラインナップではないだろうか。
ちょっとばかり早くも心が折れそうになる。
だがしかし、何もないよりかはマシだろうか。
「スマホは圏外か。……電源切っておくか」
そう独り言を呟きながらスマホの電源を切る。
どう使うかは全く何も考えていないが、もしかしたら必要なタイミングが出てくるかも知れないし、充電はできる限り残しておきたい。
エリクサーは最後まで残す派だ。
とは言っても、ラスボスや裏ボスにさえ使わず、どうぐぶくろの肥やしになるのはいつもの事ではあるが。
そうして歩き出した俺だったが。
「それにしても本当に何も無いな。定番の魔物すら出てきやしねー。スポーン地点は普通街付近とか、もしくは召喚魔法で王宮とかだったりじゃねぇの?」
適当に太陽がある方向へと暫く歩き続けた俺は早々に文句を垂れる。
側からしたら誰も居ないのに一人勝手に喋り出すヤバイやつなのかも知れないが、風景が変わらない中一人きりであると言う状況が地味にストレス値を上げていっている。
とりあえず対処療法として独り言を呟いてみるが、あまり目立った効果は見られない。
それでも上昇スピードが少し緩やかになっているみたいなので状況整理も兼ねて独り言を呟き続けながら歩く。
「とりあえず今現時点で死んだら地獄に行かされるんだよな。……本当何がどうしてこうなったんだ?」
ここに来るまでのやり取りを思い出すと無性に腹が立って来る。
胃がムカムカしてきた。
(いかんいかん。今あの神様に腹を立てたところで何も好転しないしない)
無意識に血が出るほどにぎゅっと握りしめていた拳に気が付いて慌てて拳を解く。
地味に血が垂れているのを見てうへーという感情がわくが処置するモノなど何一つない。
異世界なんだから回復魔法とかあれば良いのになーと考えたところでふと思い出す。
「あれ? 特典の奴はどうやって確認するんだ?」
一度足を止めてポケットを探るがそれらしきものは無く、先程の所持品しか手に当たらない。
(もう既に付与されていて目に見えないとかだろうか。使い方が分からない特典とか、使い方の知らないカッターナイフのクリッパー並みに無意味だぞ)
ちなみに使い方は刃を折る為に使う。
切れ味の悪くなった刃を手でペキペキ折ってたら、先輩に危ないと注意されて初めて知ることとなった。
歩みを再開しながら定番の言葉を発してみる。
「ステータス」
……反応なし。
「ステータスオープン」
……反応なし。
「データ、チャート、グラフ、ファイル、プロファイル、《カルテ》……なぜその言葉なんだ?」
訳がわからないと溜息をつきながら出たきたモノを半目で見る。
半透明なウィンドウ画面がそこには現れていた。
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
名前:未定 (宮下 浩一)
性別:男
Lv:1
NEXT:1000
STR:8
VIT:8
AGI:10
MND:15
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(……意味が分からん)
まず何故名前が未定なのか。
百歩譲って名前が名無しでも構わないとしても、その隣に普通に名前が表示されてるのは何故だ。
パラメータも生粋の日本人なのに何故か英語表記。
一応ゲームでそういう値を見たことはあるが、朧げにしか理解してないせいか分かりにくい。
(せめて名前と同じように隣に日本語表記しろよ)
そんな事を考えていたらグニャリとウィンドウ画面が歪んで変化する。
\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\
名前:未定 (宮下 浩一)
性別:男
Lv:1
NEXT(必要経験値):1000
STR(攻撃力):8
VIT(生命力):8
AGI(敏捷性):10
MND(精神力):15
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(なんだ……これ……)
ゾクッと背中に冷たいモノが走り、身の毛がよだつ思いに駆られる。
便利だとか使いやすいだとか思う前に、この不可解な現象に気持ちの悪いものを感じた。
誰かが俺のことを監視しているのか?
このスキルには意思があるのか?
それとも――
「ぷはぁーー」
頭を空っぽにして全力で息を吐くことに集中する。
深呼吸をゆっくりと繰り返しながら、ゆっくり呼吸を整えていく。
整えていく間、心臓の鼓動を意識すると張り裂けそうになっていた動悸が落ち着いていくところだった。
先ほどまで感じていた悪寒も直ぐに和ぎ、気持ちが少し落ち着いた。
それでもまだ気味悪く感じるが、便利だと思い込むように価値観を切り替える。
そもそもこのスキル自体、自分の意思によって反映して表示されているのかも知れないし深く考えても無駄だろう。
とりあえず手持ち無沙汰なので
次にどうしてステータスという分かりやすい言葉ではなく
この主人公、素で自分のストレス値が見えます。




