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吸血秘書と探偵事務所   作者: かみこっぷ
9/90

1話 妖怪と妖怪③

「はぁああああああああああああああああ!!」


「ッがぁぁあああああああああああああああ!!」


咆哮と共に二人の怪物が激突する。鬼が拳を振り上げ目の前の少女を叩き潰さんと頭目掛けて振り下ろす。璃亜はそれに対し、避けるでも防ぐでも無く、拳に拳をぶつけて応戦する。


ゴッガァアアアアアアアアア!!!! と、二トントラックが正面衝突でもしたかのような衝撃が廊下に響く。


と、同時に鬼の腕が大きく弾かれる。力比べは璃亜の勝ち、……だが相手には炎がある吸血鬼の肌すら焼き焦がす灼熱の壁が。


「はは、さすがに腕力で吸血鬼には勝てないか! だが、君が僕の身体に触れるたび皮は焼け肉は焦げるぞ! そちらは肉弾戦しかなさそうだから、僕は防御に徹して君が燃え尽きるのを待てばいい!!」


確かに、鬼の言うとおり璃亜は奴に触れるだけでダメージを負う。状況は圧倒的に不利なように見える。

だが、そんな些細な問題は今の璃亜にとってはハンデにすらならいないと言う事を……奴は知らない。


「防御に徹して私が燃え尽きるのを待つ、ですか。なるほどいい作戦じゃあないですか、是非試してみてください――出来るものなら」


璃亜は軽く腕を引くと、なんの躊躇いもなく鬼の岩の様な腹部へと思い切り突き込んだ。


「ごぶッ!? がばごほっ、な、なんッ!?」


今度は油断などしていなかった、防御を怠ったわけでも無かった。ただただ璃亜の一撃が鬼の想像を遥かに上回っていた、それだけの事だ。床に両膝をつき、目線の高さが同じになった鬼へ言葉を投げる。


「おや、私の攻撃を全て防御するのでは? 今からそんな調子ではどちらが先に力尽きるかは一目瞭然ですね」


その時、鬼の両腕が左右それぞれ璃亜の腕を捕えた。


「は、ははははぁ! 油断したな吸血鬼!! この手は絶対に離さないこのまま両腕を焼き切ってやる!!」


「…………」


腕を捕まれ、微動だにしない璃亜。肉の焼ける音が匂いがボロボロの廊下に充満する。


「なんで――なぜ焼き切れない!? まさか、僕の火力を上回る速度で再生を繰り返しているとでも!?」


先に動いたのは鬼の方だった。


不死身の吸血鬼を相手にするよりただの人間である俺を殺す方が楽だと判断したのだろう。璃亜に背を向け逃げ出すようにこちらに向かって走りだす。それが、この場で最もしてはいけない事だと知らずに。


「僕の仕事は元々君を殺すだけ! あんな化け物とやりあう必要無い君さえ殺せば――」


「私の……、私の目の前で誰を殺すつもりなんですか?」


「は?」


鬼の疑問は当然だ。なぜなら今しがた自分が背を向け逃げ出した相手が、突然目の前に現れたのだから。

瞬間移動、ではない。璃亜がしたことはもっとシンプルで分かりやすい。自分に背を向け走りだした鬼を、後ろから追い抜き、その眼前に立ちふさがった、それだけである。


「あなたには聞きたいことがたくさんあるので命まで奪うつもりはありません。しかし……」


そこで一旦言葉を区切る。そうすることで次の一言がより残酷に突き刺さるよう。


「加減はできる気がしないので、あしからず」


璃亜はその長くしなやかな脚を高く振り上げる。鬼が慌てて引き返そうとするが、もう遅い。今度こそ、吸血鬼の本気の一撃が赤熱する巨体へと襲いかかる。鬼は、最初は避けようとした。が、すぐに不可能だと判断した。ならばと、少しでもでダメージを軽減しようと両腕を合わせ頭部を庇う。


ズッドォォォオオオオオオオオンン!!!!


学校全体を揺るがすような衝撃が走る。


言ってしまえばただの踵落とし。だが、それを吸血鬼の膂力と速度を持って行えば必殺と呼べる程の威力を生み出す。もはやほとんど爆心地の様になってしまった廊下の真ん中で立っているのは、璃亜だけだった。うつ伏せに倒れる鬼の両腕は多関節のおもちゃの様に所々で折れ曲がっている。


まあ、真っ二つじゃないだけマシな方だろう。本人はああ言っていたが、これで結構加減できた方だな。

本気であって、全力ではない。俺自身、璃亜の全力というものを未だかつて見たことはないが、この惨状を見る限り彼女が全力を出す機会が巡って来ない事を祈るばかりだ。そんな事を考えている内に璃亜がこちらまで戻ってきていた。


「お待たせしました所長」


その表情は明るくない。何が言いたいのか大体予想はつく。


「…………申し訳ありません、今回もまた所長を危険な目に」


「だぁあー! 言うと思ったよ! 絶対に言うと思ったよ!!」


大声を上げて璃亜の言葉を遮る。


「今回は、というよりほぼ毎回だけど、大体俺が一人で突っ走って勝手にピンチなった所をお前に助けられてるんだ。感謝すれどもお前を責めたりするわけ無いだろ」


「で、でも私が傷つく度に所長の血を……」


「俺を助けるために負ってくれた傷だろう。俺なんかの血でよければいくらでもくれてやるさ」


「所長、あの……えっと、一つ聞いてもいいですか?」


璃亜らしくない歯切れの悪さだ。普段俺にナイフより鋭い言葉を投げつけてくる姿からは想像もできない。


「なんだよ、急に改まって……」


「所長は私の事を、どう思っていますか?」


ずい、と顔を近づけてくる璃亜。その表情にどきりとする。何かに怯えるような、それでいて何かに期待しているような。今にも泣き出してしまいそうにも、明るく笑い出しそうにも見える顔。そんな彼女の質問に、俺はなんと答えるのだろう。いや、そんなこと考えるまでもない。


だって璃亜は俺にとってかけがえの無い――。

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