第三十三話 砂の町、カフェエラ
俺は朝早くに起きて家の事を済ませ、バイクへと股がる。本当はケンジも一緒に行きたがっていたが、どうやらケンジはなんと悪ガキ三人組だったティプとトムとダラムとケンジのあの天使の笑顔に悩殺されていたララと呼ばれていた女の子と五人で村で遊ぶ予定が入っていたらしい。
俺は折角出来た人間の友達との付き合いも大切にしなさいとそっちを優先させ、ケンジに夕方までには戻ることと今度カフェエラに行く時は必ず連れていくと約束して出掛けていった。朝方のせいかまだ風は肌寒く、荒野を吹き荒れる。
ふぅ、良かった。やっぱ、マント羽織っといて正解だったな。
備えよ常に、だな。俺がバイクを走らせること2時間、カフェエラに着いた頃にはお日様は高い位置に上がっており、ポカポカと暖かくなってきて過ごしやすい気温となっていた。俺はバイクは人目がつかない場所に隠すと、カフェエラに入っていった。
『うぉー!』
町に入ると、そこの道は商店街ようにズラッと色んな出店が並んでおり、至るところが人で大にぎわいしている。俺は取り合えずぶらぶらと店を回って見ることにした。家具、食器、食べ物、衣服等々……確かにはじまりの村よりも店の種類や規模は大きそうだな。俺はまず食器屋の出店を見た。
数多くの色と形をした食器たちが綺麗に整頓され店に並んでいた。店の店員の一人であろう女性が愛想のいい笑顔で話しかけてくる。
「いらっしゃいませ~! うちの店の食器は全てカフェエラ名産のカフェエラの泥から職人たちが1つ1つ丁寧に焼き上げた自慢の一品ばかりで、耐熱にも優れていて色落ちもしにくいですよぉ~」
うむ、俺は1つ試しに平皿を持ち上げる。陶器のような質感に、指で縁を沿うように撫でると僅かに土のぬくもりを感じ、そして熟練の技だからこそ出せる見事な器の形。色もそんな派手すぎることもなく焼かれ、綺麗な発色をした渋みのある深い紺の色がまたいい。
「じぁ、これでお願いします」
「わぁっ?! こんなにお買い上げ頂いてありがとうごさいまーす!!合計で銀貨50枚になりまーす!」
俺は一目でそこの皿が気に入ったので同じ平皿と後はコップやポット、お茶碗、深皿など複数枚買った。
一枚辺り約銀貨5枚ぐらいの値だったので此方の世界からしたら、決して安いほうではないらしいのだが、今日の俺はじゃーん! 金貨2枚を持ってきていた。
懐に忍ばせていた袋をから金貨1枚だけ取り出して会計を済ませる。次は珍しい食べ物を取り扱っていた店に立ち寄ってみるとある物に目が止まった。
「ん? これは……」
「おぉ、そこのお客さん! お目が高い!! それはクリコの粉と言って料理に入れるとあら不思議! 料理がとろとろになるんだよ! どうやらある商人が植物から作ったらしくてね。今、北の国の方で流行ってるんだよ!」
そう自慢の商品を説明する商人のおっちゃんだったが、悪いが俺はあっちの世界でこれと同じものを見たことがある。
『これ、完全に片栗粉やん……』
まぁ、片栗粉は料理にとろみをつけたり、から揚げを作ったりするのにと色々と使うから俺は買っておくことにした。それに幾つかの珍しいスパイスや出汁をとる時に使えそうだと思い、南にある海の国で採れたという海藻を乾燥させたメルト海藻に堅鮪で作ったという鰹節に似た薫りがする食材も購入。合わせて銀貨30枚分買った。
「ありがとうございましたー!」と沢山買っていってくれた俺をほくほく顔で見送る商品のおっちゃん。
『さて、次はどこを回ろっかな~』
俺はまたぶらぶらと町中を歩いていると女の子に声をかけられた。
「そこのマントのお兄ちゃん! ちょっと私の店を見ていっておくれよ」
「えっ? お兄ちゃん?」
そんなこと言われたの何十年振りだったので、ちょっと嬉しくて立ち止まる。冷静になればそんなの直ぐに営業トークの1つだとわかるのだが、ついつい俺は浮かれてしまっていた。
だが、その店に並んでいたのは見たことのない道具ばかりが揃った不思議な雰囲気をした店だった。
「ここ一体何屋なの?」
「えっ? お兄ちゃん魔法道具屋知らないの?」
「魔法道具屋?」
「魔法道具屋っていうのはダンジョンとか冒険に役立つアイテムを売っているお店のことだよ。っで! 私は各地で自己開発したそんな魔法道具を売り捌く謎の天才美少女マーリンだ! 宜しくね、赤い瞳のお兄ちゃん!」
いや、自分で謎の天才美少女って……(笑)しかも、謎なのに自分で名のってたら謎じゃなくない?
そう馴れ馴れしく俺に話しかけてきたのはショートカットの水色の髪に魔女のような三角帽子を被った少女だった。年はまだ高校生ぐらいの年頃の子と言ったところか。マーリンはコバルトブルーの瞳で俺を見つめてくる。
「でも、お兄ちゃん魔法道具屋を知らないなんてかなりの田舎から出てきたんだなー?」
田舎で悪かったな、田舎で!そう思いながらも、俺は並んでいる魔法道具を手に取る。俺が手に取ったのは発煙筒みたいな形をした赤い物だった。
「これは?」
「それはモンスターグッパイ☆発煙筒!モンスターが嫌う苦苦草と涙が止まらなくなる涙腺草で作ったやつで煙が出ると暫くモンスターがその場に近寄らなくなるの」
この子、俺とケンジよりネーミングセンスないなぁー。でも、確かに役立ちそうな便利アイテムだな。
「他にも何か役立ちそうなアイテムはあるの?」
「えーっと!後はね……」
俺はマーリンの魔法道具を見た後、俺は取り合えずマーリンからさっきの発煙筒とインク要らずの無敵羽根ペンと臭い消し玉というどうみても胡散臭い感じしかしない魔法道具を合計銀貨20枚分買ってみることにした。
「毎度あり! 赤目のお兄ちゃん! またねー!」とマーリンはご機嫌に俺に手を振る。俺がそろそろ荷物が重たくなってきたなぁー、っとすっかり重たくなってしまった荷物を背負いながら思っていると、ある家具屋さんの硝子ケースにあった絨毯の前で足が止まる。
「綺麗だ……」
白の基調にした絨毯であったが細かい赤と茶色の刺繍で鳥の絵柄が施されており見たこともない模様が画かれていた。俺がつい見とれているとカランッとドアのベルが鳴る。
「おや? お客様かな?」
店の中から出てきたのは白髪と白髭を生やしたふくよかな体型をした50代ぐらいのおじさんだった。大きな顔に小さな丸渕メガネが不釣合な気もしたが、優しそうな感じのおじさんだ。
「あっ、すいません。邪魔でしたか?」
「いやいや、お客様を邪魔だなんて滅相もない。是非、お店の中に入ってゆっくりと見ていって下さい」
俺はお言葉に甘え、店に入ってじっくりあの絨毯を見ることにした。
「この絨毯、凄く綺麗ッスね。思わず見とれちゃいましたよ」
「あははは! きっとそれを聞いたら妻が大喜びますなぁ」
「えっ!? じゃあこれ、奥さんが縫ったんですか?」
「はい、この店にある絨毯は全て妻が趣味で縫ったものです。残念ながら今は留守にしてますが」
この絨毯以外にも店の奥に巻いてある十数枚の絨毯の姿が見えた。きっと、あの絨毯たちも素晴らしい作品なのだろう。
「その絨毯に使っている模様はカフェエラ伝統の模様で不知火編みと言うんですよ。この鳥はこのカフェエラの守り神として祀っている、伝説の神獣不死鳥様をイメージしているんです」
「へぇー!」
本当はこの絨毯も欲しがったが、これ以上買ってしまうとバイクで持ち運び出来なってしまうので俺は渋々諦め、おじさんに絨毯を見せてくれたことに礼を言い店を後にする。
そろそろ、帰ろうかな?と来た道を戻ると何やら騒がしい声が聞こえた。
「なんだなんだ?」
俺は気になりその場に集まってる野次馬に混じることにした。
「や、やめてください!」
そう声を上げているのは20代ぐらいの茶髪と焦げ茶の瞳をしたエルフの女性であった。
「だから、あんたがぶつかってせいで俺の服が汚れちまったからちょっとぐらい俺たちに付き合えよって言ってるだけだろ?」
そう言ってるのはいかにもガラが悪そうな3人組の男たち。どうやら、エルフの女性が持っている籠に入っている葡萄のような実がぶつかり服が汚れたと因縁をつけているようだった。
野次馬たちも皆遠くから見ているだけで誰も動こうとしない。その間にも三人の中の一人が嫌がるエルフの女性の手を無理やり掴み上げる。
「そ、それは私が着けた汚れではありません! 本当です! 信じて下さい!」
「うるせぇな」
男に無理やり腕を引かれた痛みで「きゃ!」とエルフの女性が短い悲鳴をあげる。その様子は見た俺はカチンときたので「やめろよ」と男たちに声をかける。
何にも罪のない女の人に乱暴するやつなんてまったく!男の風上にもおけねぇ奴等だ!
俺はエルフの女性に乱暴を働く男たちを猫のようにつり上がった目付きの悪い瞳でキッと睨み付ける。
お前らみたいのがいるから、世の中の男性のイメージがダウンするのだ。
「あぁ~? なんだ、ごぁら? 兄ちゃん、なんか俺たちのしてることに文句あるって言うのか?」
俺に最初につかかってきたのは三人の中でも一番ガタイのいい感じの奴だった。だが、俺は引き下がらない。
「そこのお姉ちゃんやってないって言ってんだろ。ちゃんと確認したのかよ」
「うっせんだよ! 俺たちは見たんだよ! そのエルフの女が服にブルドノ実をぶつけて服が汚れたのをよ!」
そう頭ごなしに怒鳴る男に対し、エルフの女性はついに恐怖のあまり焦げ茶色の瞳に涙を浮かべ始めてしまった。あまりのクズ男たちの言動に俺は「女の人を泣かせるなんて最低だな……」と呟く。
「そんなの証言、1mmも証拠になるか。ったく! お前ら、さっき俺があった自称謎の天才美少女より胡散臭いぞ!」
びしっと俺は男たちに人差指を差す。すると「ぐちぐちとうるせぇんだよ!」と怒りのままに俺に拳を振り翳す。俺は軽く風の魔法でどっかに飛ばしてやろうかとしたその時。拳は俺の前で止まった。
「止めろ」
凜とした佇まいの青年が自分の何十倍もの太さの腕を軽々と止める。「な、なんだ……お前!」と男は驚いている。俺も驚いていた、全然誰かの気配を感じていなかったからである。
「クンクン……」
「うわぁ、なんだお前!?」
犬耳を生やした獣人の女の子が男の服の臭いを嗅ぐ。
「お兄さん、これブルドノの実じゃなくてラブモモの実でしょ~?」
そうサーモンピンクの髪と犬耳の生やした少女がにっこりと笑顔で言う。
「いっけないなぁ~…。エルフの姉さんを騙して連れていくのは」
「な、何をなんの証拠があって……!」
「僕もラブモモの実好きなんだぉね~! だから、絶対にこの匂い間違えるはずないだぉ……。大体、君たち人間の方が僕達『獣人族』の鼻の良さは知ってるはずじゃない?」
キラリと少女は挑戦的に口から長く伸びた犬歯を見せる。男はそれに怯んだのかエルフの手を離す。
「こ、この野郎!!」
一人余っていた男が青年に殴りかかろうとするがそれはすぐに失敗する。
「ギル副隊長に何をする」
そう言って殴りかかってきた男を鷲掴みにしたのは身長約2m以上ある強靭な肉体をした黒髪の大男であった。三人の格好を見てみると同じ鎧を着ている。
「げっ、その鎧はっ……!」
「……その様子だと言われずとも知ってるようだな。……我らはアルニカ帝国の『アルニカ聖騎士団』である!!」
ギルと呼ばれた青年がそう言うと野次馬がまたざわつき始める。アルニカ帝国? 聖騎士団?? なんのこっちゃがな?と俺は思っている間に話しは先へ進む。
「騒ぎを聞いて駆けつけてみたら、嫌がる女性を無理やり連れ去ろうとは、随分とたちの悪いナンパだな……」
白銀に輝く鎧に鷹のようなマークが印されており、男たちを牽制する。
「そのエルフの女性に2度と近付かないことと、もう2度とこんな下らないことはやらないと俺の前で誓え!」
金髪と緑色の瞳をした青年が厳しい口調で男たちを責め立てる。男たちは真っ青な顔をしながらコクコクと青年の誓いに誓うと急いでその場から逃げかえっていった。
「あ、あの騎士様! どうもありがとうございました……」
「いえ、騎士として当然のことをしたまでですよ」
そうにっこりと王子様スマイルで笑うギル。エルフの女性もぽっと頬を赤く染める。
『』くそぅ……! なんで俺の近くは皆イケメンばかりなんだ! 蓄妾!! どうせなら、美女を出してくれ! 美女を!!』
俺は悔しくて心の中で血の涙を流す。
「貴方も怪我はありませんでしたか?」
「いや、俺は別に大丈夫ダヨ……」
流石、イケメン……。若いのに男の俺にも気遣いができるとはっ……! 醜い嫉妬心を抱いてしまったことに俺は罪悪感で打ちひしがれる。体にはかすり傷1つもつかなかったが、俺の心は重症だった。
――それにきっと、俺が手を下してたらもっと酷いことになってたしな。
まぁ、青年がやっかいごとを片付けてくれてラッキーと考えることとにする。
「そうですか。それでは俺たちは任務があるのでこれで失礼します」
律儀に頭を下げるとギルは仲間と共に任務へと戻っていった。すると、仲間の内の犬耳の少女は彼にぴったりとくっつく。
「さっすが、僕達のギル副隊長! 格好いいんだお!!」
「あぁ、流石だ」
巨大な体格をしている男もギルのことを尊敬しているのか一歩引いて歩いている。
「ラブリー、ローガンやめてくれ……。恥ずかしい」
ギルはそう小声で呟くと恥ずかしそうに足早に去っていった。蓄妾、自らの功績に傲ることもしないとは何から何まで完璧なイケメンだな! おい!!
ぶつぶつとまだ呟く俺に先程絡まれていたエルフの女性が声をかけてきた。
「あ、あのどうもありがとうございました……!」
「いや、俺は何も今回はしてないし……」
「そんなことありません!貴方様が声をかけてくださらなかったら私は騎士様に助けてもらう前にあの者たちに連れ去られていましたわ!」
うるうるとまた焦げ茶の瞳を涙で濡らす。
「あぁ~……! 泣かないでくれよ」
俺がおろおろと困っているとまた野次馬が騒ぎ始める。次はなんだ!と俺が野次馬の方を見ると、鬼のような形相をしてとてつもない速さで此方に走ってくるおっさんがいた。
「あ、あれっ!? 絨毯のおじさん!?」
そこにはさっきの慈愛に満ちた顔はなく、まるで般若のように恐ろしい顔をした只の男の顔となっていた。
「私の嫁を何泣かせてるんじゃ! われぇええ!!!」
「ぶっ!」
見事に俺の顔面におじさんの拳がヒットし、俺は突然のことで避けることができずそのまま俺の体は綺麗に放物線を描き、宙を舞う。
「きぁぁあああ!」
エルフの女性の悲鳴を最後に俺の意識は飛んだ。




