第二十話 始まりの村へ
19話、少し文の内容を訂正させて頂きました。
翌日の朝、ぐっすりと眠って元気になったのかケンジは朝ごはんの怒れる大猪で作った肉炒めも旨そうに食べる。
「美味しい~!」
「そうかそうか」
男の子なんだから一杯喰えと言う。俺は人間となれるスキル【変身】を手に入れたので食材の調達とケンジの新しい服を買うため村に行くことにした。
「ケン、今日は始まりの村に買い物に行くぞ」
「えっ……」
明らかに不安そうな顔をするケンジ。まぁ確かに村にはあの悪ガキたちもいるから当然の反応か。
「大丈夫だって、従獣魔の俺だってついてるんだから」
「嫌だったら、別に一人で家で留守番しててもいいんだぞ?」と意地悪ぽっく笑いながら俺が言うと慌てた様子で「僕も一緒に行く!」と言うケンジ。可愛いやつだな、全く。
朝ご飯を食べ終わり直ぐに俺は人間の姿に化け、靴がないケンジを左肩に乗せ始まりの村へ向かった。
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村の中に入ると共に俺たちは村人から物凄い視線の嵐を喰らった。そりゃ、急によそ者の旅人とあの汚かった捨子の少年がこんなに綺麗になって現れたら目立つか。
というかきっとケンジは綺麗になりすぎて皆思わず見とれてる感じだな。白銀の髪にラピスラズリみたいな透き通った青眼。肌も白く、容姿が少し浮世離れしているので無理もないかと俺はひっそりと溜息をつく。
服屋の前に立ち、ケンジを肩から降ろすと服屋から「いらっしゃい」と気のよさなふくよかなおばあさんが出てきた。ケンジの姿を見た時、あの捨子だと気付いたのかはっとした顔をする。おばあさんは直ぐ何事もなかったかのように笑顔に戻るが少しぎこちない。
「この皮と交換で丈夫なマント二枚にこいつに合う服と靴を身繕いたいんだが」
俺は金を持ってないので昨日狩った怒れる大猪の皮と交換できないかと持ってきていた。その一部を差し出す。
「ハイハイ……。って、ん? こ、この皮って……まさか! あんたー! ちょっとこっちに来ておくれ!!」
「ん~? なんだ、朝っぱらから騒々しい……」
そうブツブツ言って現れたのはおばあさんとは正反対な白髪の頑固で仏頂面のおじいさんが店の奥から出てきた。おばあさんが耳元で近寄り何か囁く。すると、目をカッと見開き怒れる大猪の皮を見ると俺に物凄い勢いで俺に詰め寄ってくるおじいさん。
「兄ちゃん、こいつの皮…どうやって手に入れたんだい!」
「え、えっ!」
怒れる大猪の皮の状態を見て「こいつを傷ひとつつけず仕留めるなんて…」ありえないとおじいさんはブツブツ呟き始めてしまう。
「どうやってって……倒した?」
まさかくしゃみで倒したとも言えず、濁した感じで俺がそう言うと「あ、あんた一人で!?」と聞かれ「うん」と俺が答えると老夫婦は驚いた様子でお互いの目を合わせる。固まってしまった夫婦に俺が「で、この皮と服交換できるの?」と言うと「あ、あぁ。この店にある服や靴なら好きなの選んできな」とまだ驚き隠せない様子で言うおじいさん。おばあさんは慌てた様子でケンジに合いそうなサイズの服と靴を持ってくる。
「僕これがいい!」
ケンジが選んだのは白い動き安そうなTシャツに緑の短パン。靴は黒色の丈夫な革靴。取り合えず俺は丈夫なマント二枚におばあさんが選んでくれたケンジの替えの服と靴も幾つか貰うことにした。
「ポチ、ありがとう」
「おうよ」
嬉しいそうに自分の服と靴を腕でいっぱいに抱きしめるケンジを見た時、俺も嬉しくなった。ケンジのその笑顔にすっかりと癒されてしまった。子供の笑顔、恐るべし。
用は済んだので俺たちは服屋を後にしようとすると「おい」とあの頑固そうなおじいさんが怖そうな顔で俺を呼び止めると黙って袋を差し出してきた。袋の中を確認してみると、中に入っていたのは銀貨20枚だった。もう服や靴も交換して貰って満足していたので俺は「別にいいよ」と断ると。
「馬鹿野郎! お前の持ってきたもんはそれでもこんなに釣りが返ってくるすげぇもんなんだ! 四の五の言わず受け取っておけ!」
律儀なおじいさんは俺に袋を握らせ、さっさと店の奥に引っ込んでいってしまった。おばあさんも「受け取ってあげて」言うので俺は大人しくお金を受けとることにした。
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今度は食材を買うため、村の市場へ向かった。見たこともない野菜や肉などの食材が売っており俺が品定めをしていると声を突然かけてきたのは八百屋のおっさんだった。
「へぇー旅人かい」
「はい、自分で採ったものや狩った獲物で路銀を稼ぎ、町から町へと」
「じゃ、その子のことは知ってんのかい?」
そう八百屋のおっさんが怪訝そうな目をし、指を差した先にいたのはケンジだった。ケンジは黙って俺のマントの裾を強く握り締める。俺は念話で『大丈夫だ』とケンジに言って側に寄せ、手を握ってやる。
「はい。俺が拾いました、賢そうな子だったので旅のお供として」
「悪いことは言わない、その子は止めときな」
そう俺に言ってくる八百屋のおっさん。
「……何故です?」
俺は知ってるがわざと惚けてやることにした。
「村の噂じゃそいつが来て以来、村の中でもたちの悪いモンスターが村の農作物を食べたり怪我人が出たり悪いことしか起きない」
悪いことが起きれば完全に人のせいか、こいつらは。俺は人間の脆さに呆れてしまう。
「そうなんですかー」
「だろ、このままじゃあんたにもきっと悪いことが…」
親切心で忠告をするおっさんであったが、俺にとってはそれは起爆剤にしかならなかった。
「――で、旦那。その噂にはどれくらい信憑性があるわけで?」
「はぁ…?」
突然の俺の質問に目を点にする八百屋のおっさん。
「いや、だって当たり前でしょ?その噂を信じるってことはちゃんとした根拠と確信があって、旦那はご自身のちゃんと目と耳で確めたわけですよね? 100%こいつ自身が原因だと」
「いや、そういうわけじゃないんだが…」
「えっ! まさか調べてもないのに村の方たちはそんな無責任な噂流して勝手に信じてを仰っているのですかぁ…!?」
わざとらしく俺は信じられないという感じで言う。すると、バツの悪そうな顔をする八百屋のおっさん。だが、静かにキレていた俺は言うのを止めてやらない。
「駄目じゃないですか~旦那、野菜を取り扱ってるお店なら野菜を目利きをするように情報もちゃんと目利き、耳利きぐらいしなきゃ~」
俺は怖いほどのニコニコと笑顔と自慢の滑舌の良さで八百屋のおっさんをまくし立てやる。長年のサラリーマン家業と数多くのバイトで授かった営業スマイルを見せつけてやろう。
「ご忠告悪いけど、俺は自分の目で見たものしか信じないたちなんでねぇ…。俺は自分でちゃんとこいつの目を見て話して相棒にすることに決めたんだ」
俺ははっきりとした声で他の村人たちにも聞こえるよう言う。
「まあ、安心してくださいよ旦那…。俺は自分で拾ったものくらい最後まで背負う自信あるんで――どこかの連れて帰るだけ連れて帰って見捨てた無責任な大人たちとは違ってね」
因みに、最後のは完全に村人と全員に対しての盛大な嫌味である。その店では何も買わず俺たちは店を後にする。それから俺は勿論、村の人連中からは厳しい目線を喰らったさ。
買い物の途中、さっきの話しを聞いていた村の若者が俺に絡んでこようとしてきたが、俺が紅い瞳で一睨するとびびったのかすぐ引っ込んで逃げていった。
睨んだわけじゃなかったのだが、まさか俺の目つきの悪さがこんなところで役に立つとは。
でもそれも覚悟の上で言ったことである。俺はそんな視線をものともせず違う店で幾つか気になった野菜とパンと必要な調味料を買い、用をさっさと済ませて始まりの村を立ち去って行った。
「いいの? ポチ、あんなこと言って……。次買い物行く時、行きづらいでしょ?僕なら別に気にしてないから大丈夫だよ?」
「いいんだよ、あれぐらい言ってやっても。それにもし、あそこで買い物できないんだったら隣村まで行ってやればいいだけの話しだ」
「だから、子供がそんな気使ってんじゃねぇ」と俺が言うと、色々とやはり我慢していたのかケンジは下を向き、声を押し殺すように静かに涙を溢した。俺は家に着くまでその小さな手を決して離してやらなかった。
俺たちは主と従獣魔の関係だが、もうたった二人きりの家族でもあるのだから。




