第十九話 怒れる大猪のロースト
少し文の内容を訂正しました。
俺はこう見えて料理は好きだ。食べることは好きな方なので寂しい独り身だが、そこら辺の人よりかは美味しいものは作れる自信はある。まぁ、本当の理由は『あの人』の施設にいた時の事。
……料理だけが驚くほど激マズだったのである。作る料理は全て壊滅的は破壊力を持った味になり暗黒物質と言っても過言ではない。
そう完璧であるかのように見えた『あの人』は実は飯マズ女性だったのであった。このままではあの暗黒物質に殺されると本能的に俺は生命の危機、いや確実な死を悟った。なので俺は幼いながらも必死に図書館に通いつめ、読めない文字に苦労しつつ根性と経験で料理を覚えていった。
俺があの施設に入って料理を作るようになって以来、二度とあの暗黒物質は出なくなりご飯が美味しくなったと俺と一緒に入っていた施設の子たちも感謝していた。
彼等も俺と同じ被害者だったのである。
「さて、いっちょ作りますか」
怒れる大猪の肉は赤身の部分が多くさっぱりとした料理が合いそうだったので俺はシンプルで簡単に作れる怒れる大猪の肉塊を使った猪のローストを作ろうと決めた。まず肉塊はよく叩いて柔らかくしたら黒実の粒という黒胡椒に似たスパイシーな味のする実と拾った岩塩を使いよくすり合わせる。その次はガーリーの根というニンニクに似た味がする根を卸したものをたっぷりと怒れる大猪の肉塊に馴染ませる。
そしたら、いらない鉄屑を集めてスキル【鍛冶】を利用し作った普通の鍋に怒れる大猪の肉塊を入れ、火のグレールを使った焜炉に置く。肉の周りにある程度火が通ったら、火を止め後は余熱で20分置く。
その間に次は池面鯉を使った香草焼きを作ってしまおう。下処理が済んだ池面魚に先程の黒実の粒と岩塩をたっぷりと振りかける。それが済んだら今度はお腹の中にオルンガとセルフィーという香りの強い香草を入れる。香草を入れることで魚の生臭が消えて香草のいい香りも残るからである。
準備ができたら、焜炉の下に共に作った魚用グリルで焼き上げる。空いた時間は付け合わせのスープとサラダと完成させる。果物も食べやすいよう切り分けて、片付けもさっさと済ませておく。あまりの俺の手際の良さにケンジは驚いたようすで俺の背中をただ見つめてる。
「出来たぞー」
今日のメニューは怒れる大猪のローストビーフにレモンのように酸っぱいレンジュの果実を絞って垂らした池面鯉の香草焼き。それと、付け合わせの木の実のサラダとびっくり鶏の卵を使ったスープ。デザートは可愛く兎のように切ったポヘルの実。コップには俺特製のフルーツジュースを注いだ。
ケンジは目の前のご馳走に目を輝かせて涎を垂らしながら「これ、僕も食べていいの?」と聞いてくる。俺は「お前のために作ったんだから一杯食べな」と言うと「うん!!」と元気よく返事をし、ガツガツと男らしく食べ始める。
「美味しい~! このお肉柔らかいくて臭みがまったくない!」
ケンジが一番絶賛したのはメインの怒れる大猪のローストだった。肉の赤身はいい感じに火が通っており新鮮なので獣の臭みは全くせず上品な肉汁が口に広がる。そして、その肉をガーリーの根が風味が食欲を掻き立てる。黒実の粒と岩塩の濃さも丁度いい。
「お魚も香草の風味が効いてて、酸っぱいのも美味しい~!」
うん、確かに香草の風味と黒実の粒のスパイシーさが合わさり池面鯉の白身の淡白な味わいと合う。これは思わず片手にビールを持って飲みたくなる味だ。ありがとう、親分。
「お野菜も新鮮でシャキシャキしてるし、スープに入ってる卵も美味しい!!」
うん、流石バニーちゃんたちが森から採ってきた野菜だ。新鮮で旨い。卵のスープも温かくて体に染みる。
結構な勢いで食べるケンジ。あんまりがっつき過ぎると喉に詰まらせるぞと言った側から「うっ!!」とケンジは喉に詰まらせる。
「ほらほら言わんこっちゃない」と俺はケンジに飲み物を渡す。
慌てて食べ物を飲み物で流し込み、「ふぅ」と落ち着くケンジ。だが、物を食べる手は止まらない。暫くその様子が続き、ようやく少し落ち着いてきた頃にケンジがある質問をしてくる。
「ポチ、そういえばこの肉どうやって解体したの?解体屋さんにでも頼んだの?」
「解体屋?なんだそりゃ?」
「仕留めたモンスターを解体してくれるお店だよ」
「へぇー。俺は昔近所にいた猟師のじいちゃんにさ、教えて貰ったんだよ」
俺が施設いてまだ悪ガキ世代の頃、悪戯を通じて仲良くなった猟師のじいちゃんがいた。年上のじいさんと言うより悪友みたいな感じだった。よく獲物を捕まえる罠も一緒に考え、作ったものだ。俺はその人の仕留めた獲物を解体する後姿を見て教えて貰っていたので自然に身に付いた。怒れる大猪の解体も風属性魔法(小)の風精で切り分けていたのだが……。
俺は気になり、自身の【ステータス】のスキルを確認してみる。すると、やはりスキル【解体】という文字が増えていた。どうやら俺は解体に夢中でスキルを覚えていたことに気づかなかったらしい。
デザートの兎ちゃんに剥いたポヘルの実も喜んで食べるとお腹が一杯になり満足したのか今度は眠くなったらしいケンジ。俺はうとうとし始めたケンジをベットに運んでやった。