第十六話 まず、風呂に入れ①
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俺たちは無事自宅へ到着した。自宅に着くなり「わぁ……」と呟き煉瓦と木の家の立派な一軒家を小さな青眼で見上げるケンジ。それ以上の感動の言葉が出ないのかその様子が続く。
俺が『おい、そんなに見上げ続けてると首を痛めるぞぉ』と声をかけて漸く、我にかえったのか「う、うん」と少し緊張した面持ちで俺に案内されイギリスのアンティーク扉をイメージした木彫を施したお洒落な玄関の扉を開けて入るケンジ。
ちなみにこの扉の木彫は俺が彫った。昔少しだけ近所のおっさんから教わったことがあり、趣味が高じて今回試しに彫ってみた。中々の力作である。
『さてと……まずは』
それにしても、こいつ改めて見ると体も服も土埃で凄いことになってるな……。
ケンジは成長に必要な栄養が足りておらず、あの悪ガキたちと同い年位だというのに明らかに身長も体重も足りていない。とにかく、俺の知ってる5歳の姿とは何もかも違う。
そんな衰弱しきった体なのでケンジをご飯を食べさせすぐ休ませてやりたかったのだが家の中で生活する以上、まずこの汚い体と服も綺麗に洗って清潔にしてあげたかった。
『おい、ケン。飯の前に風呂入るぞ』
そう言うと俺はケンジを風呂に入れるため、一番最初に風呂場へと案内する。俺もついでに外に出かけたことで少し土を被ったのでケンジの服も洗うついでに一緒に風呂に入ることにした。
「えっ、お風呂あるの? この家?」
『? 普通の家にはないものなのか?』
「んー、僕も普通のお家のことは分からないけど……。少なくとも村の人たちとかのお家にはないはずだよ?お風呂はお水をいっぱい使うし特別なお家にしかないんだって」
ということはこの世界では風呂は貴重なもので、貴族とか王族しか持ってないってことか?
ここの文明はもしかしたら俺の元いた世界より遥かに文明が遅れているか、それとも違う文明を辿ったせいでただ単に発達の仕方が変わっただけか。まだ俺は異世界の人間の生活を知らないので詳しくは分からない。
ケンジは脱衣所で裸になり風呂の引き戸を横に引くと、そこには白を基調にした10畳位の大浴場が広がる。もくもくと浴槽から湯気がたちこめる。
「すっごいー!! ポチ! 僕ん家より大きいよ、ここのお風呂!」
『こらこら。まずその汚い頭と臭い体をなんとかしてやるからこっちにおいで』
はしゃぐケンジを嗜め、ケンジを俺が風魔法で木を削り作った木製風呂椅子に座らせる。
まぁ、ケンジの気持ちも分からないでもなかった。実際俺もここが完成した時はかなりはしゃいで1日中湯船に浸り、のぼせた所をキーちゃんに助けられたことは記憶に新しい。
まずお湯でケンジの髪をシャーワーヘッドで流す。『温かーい!』と子供らしく元気にはしゃぐケンジ。
これらの水はどこから引いてきてるかというと水の力が宿っている魔石を使っている。
この世界のありとあらゆる場所に魔石というものが存在するが、受けられる恩恵はその魔石に宿っている力のみ。しかも、水や火や雷など生活に必要なこの三大要素の魔石は需要があり特に希少価値が高いらしい。
けど、俺はこの三つを既に手に入れていた。何故そんな貴重な魔石を所持しているかというと近くに棲む泉の精にお近づきの印として花冠をあげたのが全てのきっかけだった。
泉の精が帰った後、直ぐに花冠を仲間の精たちに見せびらかし自慢したらしい。仲間の精たちは羨み、泉の精も仲間から褒められてつい調子に乗ってしまったのか俺のことを話してしまったらしい。
その後はご想像の通り、あれよあれよと荒れ狂う海のごとく俺んとこに精たちが押し寄せてきて『私たちにも花冠、頂戴!!』と可愛い子たちの頼みに俺は断れず結局、手が筋肉痛になるまで俺は花冠製造マシーンとなり、とてつもない量の花冠を作り続けるはめとなった。
精たちもそんな俺を最後に見て流石に申し訳ないと思ったのか、火と水と雷の力を宿した三つの魔石を花冠のお礼としてくれたのであった。