第十二話 だから、俺はこいつの従獣魔になってやることにした
『よっ!』
俺はいつものように変わらない様子で少年に声をかける。
「あっ、スライムのおじちゃん」
最近、少しだけ心を開いてくれたのか少年の表情は若干明るい。俺は早速だが本題に入ることにした。
『少年、俺はもうここに来ない。木の実や果物も、もうここに届けに来ない。今回が最後だ』
「……どっか行くの?」
『いや、そういうわけじゃない』
「……そっか」
明らかに淋しそうな顔を見せた少年。だが、俺の話はまだ終わりじゃない。
『だから、俺と従獣魔の契約を交わして俺と一緒に来い』
「えっ?」
突然の俺の申し出に青い目を見開く少年。
『俺がお前の従獣魔になれば野良モンスターの俺でもお前と一緒にいれる大義名分が立つ』
「……でも、僕お母さんをここで待ってなきゃ」
さて、ここからが正念場だな。俺は気持ちを引き締める。
『お前はいつまでこの木にしがみついているつもりだ?』
「…………」
『少年、お前のお母さんはここには帰ってこない。お前を捨てるつもりでお前を置いていったんだ』
「――違う!!」
初めて俺がここに来て少年が牙を剥き、怒りを露にした。
「ママは僕を捨ててなんかない! ちゃんと約束したんだ!!」
少年は土石によつん這いになり、乾いた地面に爪が食い込むほど精一杯礫土を握りしめる。
『あぁ、そうかい!! お前がそういうのは勝手だが、じゃあなんでそのお母さんとやらはいつまで経っても現れないっ!』
俺の大声にビクリと体を震わす少年。
『お前がこんなに…腕も小枝のよう細くして、律儀に言い付けも守って待っているのになんで迎えにこない? 実の息子が死にかけてるというのに…なんでだ?』
俺は自分で言ってどうしてもやるせない気持ちで一杯になる。
『お前はお母さんに捨てられたんだ。……本当はお前が一番分かってるんじゃないか?』
「――そんな……そんなこと」
『……いいか? 少年。この間々ここいればお前は確実に死ぬ。だが、俺と一緒に来て生きていればお前のお母さんにまた会えるかもしれないぞ?』
「…………」
少年の瞳が確かに揺らいだ。たたみかけるなら今だ――!
『だから、お前が今ここで選択しろ! 此のまま何もせず大地の海の藻屑となって消え去るか、生きて生きて! 生き抜いてやってお前のお父さんとお母さんを見返してやるか!』
なんて格好いいこと言ってみるが『じぁ、ここで死ぬ』とか言われたら格好がつかない。俺は裏腹にどうしようかと少年の返答にハラハラしていた。だが、俺はどうしても確かめたかったのである。こいつの生きる覚悟というやつを。
『お前……本当にここで死にたいのか?』
「……た……い」
小声でぼそりと何かを呟く少年。
『ん?』
「……たく……ない!!」
『聞こえないなぁ……もっと大きな声で!』
「死にだぁぐない……!生きて、またパパとママに会いだぁい!!」
そう鼻水と涙で顔を濡らしぐしゃぐしゃにした少年の瞳が俺をとらえる。
「僕と契約して、従獣魔になってください!」
『よっしゃ!よく言った少年!!』
すると、俺の体は白く光り強い風が吹く。そして、ピコンッといつものお決まりの音が鳴る。
【スライムが従獣魔になった!】
こうして俺は晴れてこいつの従獣魔となった。