第十一話 じゃ、覚悟決めますか
あれから三日経ち、悪ガキがまた来るかな? と思っていたが悪ガキたちは姿を見せなかった。あれから俺たちは色んな話しをした。好きなものとかしょうもない話しだ。
今日も俺はあいつのところにモンスターたちから分けてもらった美味しい木の実と果物を届けるため向かっている途中、杖をつき立派な白髭を生やしたご老人と遭遇した。
やっべぇ、姿見られた……!
困ったな……。村の人たちに騒がれると来づらくなるぞ。そう俺が思っているとは知らずに老人は白髭を撫ぜながら呑気に話しかけてくる。
「なんと、あの子に木の実や果物をあげていたのはお主だったのか」
「ホホホ」と可笑しそうに笑うご老人。俺は黙って老人の様子を伺っていると「安心せい、村の者たちには言わんよ」と俺の心を読んだように言ってきた。やっぱ年の功って凄いな、おい。
「野良モンスターに助けられるとはあの子もなんとも数奇な運命を持つ子よ。いやそれもあの子自身のまた魅力なのかもしれぬな」
そう言うと腰を下ろし、肩の力を抜く老人。
「スライムのお前に話しても分からないとは思うがあの子は可哀想な子じゃよ」
細い目を伏せながら、老人は語り始めた。
「あの子は元々貴族の生まれだったらしいんじゃが、どうやら魔力持たずして生まれたらしい。暫くは屋敷の中で暮らしていたようなんじゃが、その後に夫妻の仲に新たな子供がお生まれになってな……」
ふーん……。要するに代用品が生まれたからもうお前はいらねぇってばかりに捨てられたのか。……ほんと、子供なんだと思ってんだろうねぇ?おじさんには理解できませんよ。
「儂らもすぐその事をあの子に説明して、最初は村に連れ帰ったのじゃが……。何度も連れて帰っても、あの子はあの捨てられた木の下に戻って帰ってこぬ母親を待ち続けているんじゃ」
何処か遠い所を見つめるように目を細める老人。
「そして、それから運の悪いことに村に凶暴なモンスターが度々現れるようになってな……。村の中であまり良くないことが起こり始めたのじゃ。そしたら、村の誰かがあの子のせいじゃないかと揶揄しおってのぅ。それから皆あの子を気味悪がって、あっという間にあの子に近寄る者はいなくなっていったよ」
「まったく馬鹿な奴らじゃ……! あんな優しくて、か弱い子供がそんなことするはずないのにのぅ……」っと、悲しそうに呟いた老人の話を俺は黙って聞いた。
「……すっかり長話をしてしまったなぁ。老い先短い年寄りの独り言を大人しく聞いてくれてありがとのぅ」
俺は『気にすんな』と言わんばかりにピョンと青い体を揺らし跳ねる。「……お前は賢いスライムじゃのう」と優しそうに頬笑み、俺の頭を撫でる老人。
うん、ご老人。俺こう見えて中身はもう、とっくのとうに成人した40近いおっさんなんだ。
「だがスライムよ、忠告はしとくぞ。中途半端な、優しさはかえってあの子を傷つけるだけだぞぉ?」
覚悟を決めるのじゃ、そう老人は呟くと村の方へと帰っていった。なんとなく、ご老人の言いたいことは分かった。中途半端な優しさはあいつをかえって傷つけるだけだった。野良猫にエサを与えてやるのとは訳が違うのである。きちんと最後まで責任を持ってあいつを育てあげなければらない。
人一人を育てるのは相当の覚悟と経済力も必要だが、ちゃんと愛情も込めて育てあげなければならない。
しかも相手は出会って三日経たない、血の繋りもなんにもないただの捨て子である。子供を育てたこともない自分が100%面倒をみきれる確証なんてどこにもない。
けど、今の俺ならイケメン神様から授かったチート能力がある。あいつのことを救えるかもしれない……。ずっと憧れだったあの人のように、困ってる人に笑顔で手を差し伸べるヒーローになれるかもしれない。
――――なら、答えは一つだ。
『いっちょ、腹でも何でも括ってやんよぉ!』
俺は静かに覚悟を決めた。だって救えるかもしれない命があるのに見捨てるなんて俺には出来なかったのである。