第十話 俺の過去
俺の親は育児放棄―――所謂、ネグレクトってやつだった。
父親は俺が3歳の時、女と蒸発した。母親も最初は一人で俺を育てようと躍起になって働いてくれた。だが、そんな辛く苦しい極貧生活長く続かなかった。育児に仕事にどんどんと時間を奪われ母は憔悴していった。
そして、母も俺が5歳の時にたった1枚の一万円と『いい子に留守番しててね?』と言葉を残し、二度と家に戻ってくることはなかった。
俺は待った。
――――母がいつものように戻ってくると信じて疑わなかったからだ。水も電気もガスも既にとめられていたので、菓子パンを買って細々と一人で机に向かって食べて、いつ母が帰ってきてもいいようにゴミで散らかった汚い部屋の玄関先で一日中座って待っていた。
だが、たかだか一万円程度じゃ二ヶ月ぐらいしか持たず俺はどんどんと痩せていた。その時、俺は初めて人生の中で諦めと絶望を知った。信じていた物全てが崩れさる音が聞こえたのだ。
――愛が憎しみに変わった瞬間であった。
今なら母に同情することできるが、小さい頃の俺には到底できなかった。
その後の俺は子供だから働けるわけもなく、物を盗んだりして食いつないでいた。あまりこの時のことは覚えていない。
この頃の俺はそれだけ1日1日を生き抜くので精一杯だったのである。
けど、すぐ大人たちに捕まり児童福祉施設へと入れられた。俺は大人が大嫌いだった。
だって、大好きだったあの母ですら俺を裏切ったのだ。またいつ俺を裏切るかわかったもんじゃなかったから。
だから、俺は次々に入った施設で問題を起して施設を転々とした。俺の問題児ぷっりに福祉施設のお偉方たちもほとほと困り果てていた頃、ある女性が名乗り出た。俺にとっての運命の出会いであった。『あの人』が居てくれたから今の俺がいると言っても過言ではない人だった。
その女性も施設出の人で元レディースの総長もしていたというとんでもない経歴の持主であった。
俺が悪いことをしたら子供でも容赦なく頭部に鉄拳を食らわせ謝らせた。マジでこいつ本当はゴリラなんじゃねぇか?と思った。――まぁ、それを言ったらまた殴られたけど……。
だが、その分俺がいいことをするとわしゃわしゃと頭を撫でたり、一杯誉めてくれた。周りが俺のことを悪いと言っても、必ず話しを聞いてくれて俺の一番の味方になってくれた。
だから、施設に棲む皆から慕われていた。『あの人』は俺たちのヒーローだった……。
俺にはそんな人が居てくれたがあいつにはそんな人物がいるようには見えなかった……。
このままじゃ確実に俺のような末路を辿るか、このまま地べたで野垂れ死ぬか。その前者か後者のどちらかであった。
誰が手を差しのべない限り確実にこの少年は死ぬ。
――あんな身を削る思いをするのは、俺一人で充分だ。
それから俺は昔の頃の俺に似ている少年がほっておけず、毎日のように少年のところに行って胃の消化に良さそうな木の実と果実を届けてお話するようになった。