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女神様の◯◯で異世界チート

作者: 匡裄

 高校の空手部の夏の合宿。今日はその最終日と言う事で打ち上げがてら川原でバーベキューをしているところだ。

 朝から晩まで空手漬けの一週間。

 3年生はこの後にある、夏の全国大会をもって正式に引退となる。

 そして、全国出場を決め2段を持つ俺が今の所、次期部長の最有力候補と言われている。

 がらではないが、正式に決まったら、俺なりに頑張ってみるつもりだ。


 そんなことを考えていたせいかもしれない。俺たちの隣で、同じようにバーベキューをしていた、小学生達の1人が川に流されたと聞き、周りの制止も聞かず助けに飛び込んだのは。

 水は身長160センチの俺の胸元まで、足も着くし大丈夫。空手で鍛えた足腰は伊達じゃない。

 過信でありおごりであった。

 誰かが投げたロープを小学生に巻け付け引っ張って貰い、自分はそのまま帰ろうとした。が、足を滑らせ下流に流されてしまった。


 「がぼっ!」


 大量の水を飲んでしまい、軽いパニックに陥る。

 まずい! 落ち着け俺!

 がん!

 そう思った次の瞬間、後頭部に衝撃が走る。

 どうやら岩に当たったらしい。

 あっヤバイ、落ちる。



 目を覚ました俺は川原に立っていた。

 んっ? たすかったのか?

 誰かいないかと思い周りを見渡す。

 誰もいない? ……何かおかしいぞ?

 不審に思いさらに注意深く見渡す。と、目の前の川の対岸で誰かが呼んでいるのが分かった。


「んっ? じいちゃん?」


 あれ? 何でじいちゃんがいるんだ? 確か2年前……

 背を向け立ち去ろうとするその姿を見、俺はその背を追い掛けることで頭がいっぱいになった。


「待ってじいちゃん!」


 大好きだったじいちゃん。俺の最初の師匠のじいちゃん。厳しい鍛錬の後、いつもやさしく、頑張ったな、と声をかけてくれたじいちゃん。


「待って! 行かないでよじいちゃん!」


 遠ざかるその背を追い掛けて走り出していた。

 走りにくい川の中を必死に走り、水が胸元に達した辺りでじいちゃんがこちらを振り向いた。


「じいちゃん!」

 ズルッ!

「がぼっ!」


 足を滑らせ再び大量の水を飲み、パニックになりながら下流に流される俺。

 ええ~……またかよ……



 だいぶ下流に流されてしまったが、今度は意識を失わず岸に戻ってこれた。


「う~、お腹たぷんたぷんだ」


 思わず声に出してしまったほど、大量の水を飲んでしまった。

 後ろを振り返ると、対岸に2つの人影が遠ざかっていくのが見える。

 はっ! と、あることに気付く。


「三途の川!」


 と言う事は死んだのか俺? ……確かにそう考えれば辻褄つじつまが合う。2年前に死んだじいちゃんがいたことも……


「マジか……」


 となると俺は、この川を渡ってあの世に行かなきゃいけないのか?

 …………よしっ! 戻ろう!

 そう思うが早いか、俺は川に背を向け歩き出していた。

 いやあ、臨死体験ってやつかこれ? 皆に話したらなんて言うかなあ?

 空手部の皆の顔を思い出しながら、生き返るために歩みを進める。



 おや? 真っ暗だ。それに……焦げ臭い? ……まさか燃やされてるのか!?

 突然のことに慌てて動くと、体のあちこちが何かにぶつかった。

 げっ! 棺桶の中か!?


「おーい! まだ生きてるぞー! 火を止めてくれー!」


 あらん限りの声で叫ぶと、なにやらざわつく声が聞こえてくる。

 だんだん熱くなってきた!


「早く助けてー!」


 外のざわつきが大きくなっていくが、火が収まる気配はなく、中の温度は徐々に上がっていく。


「冗談じゃねえ! 死んでたまるかあ!」


 手足を無茶苦茶に振るい暴れると、棺桶が、バキッバキッ、と音を立て、手足の当たった場所に穴が開いていく。


「うりゃあああああ!!」


 渾身の力を込め、両手の平で蓋を打ち上げる。

 ばごん! と言う音と共に、蓋が青空の下に飛んでいく。

 へっ? 青空?

 棺桶を壊し火葬炉の中からどうやって出ようかと考えていた俺は、目の前に広がる青空に一瞬、ほうけてしまい、次の瞬間オレンジ色の炎に覆い尽くされてしまう。


「ぬあっ!」


 突然の炎に驚き、惚けていた意識が戻ってくる。

 慌てて身を起こし周りを見ると、どうやら屋外のようであり、炎の向こうには大勢の人影が見受けられる。

 とにかくここから脱出しないと!

 棺桶の中に立ち、炎に飛び込む覚悟を決めたとき、突如足下が崩れ浮遊感が襲ってきた。


「がっ!」


 背中を痛打し肺の空気が吐き出される。

 そして空気を吸う。


「ぐっ!」


 周りの炎を共に吸い込んでしまい肺に痛みが走る。

 とにかくここから出なきゃ!

 立ち上がる時間も惜しいと、俺は手足をばたつかせ、四つん這いで炎の中を駆け抜けていった。

 出れた!

 周りにあったオレンジ色の圧力がなくなりホッとしたのだが、なにやら所々が熱く感じる。

 火傷したか?

 そう思い体を見ると、火が服に燃え移っていたのだ。


「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!」


 地面をごろごろと転がり火を消す。


「ぜぇー、ぜぇー、も、もう大丈夫かな?」


 服の所々に穴が開いてるが、火は全部消せたようだ。


「ふう、助かった」


 やっと人心地着いた。と思ったのだが。


「蘇ったぞ!」

「全員武器を構えろ!」


 殺気立った見知らぬ人達に、ゲームや映画でしか見たことが無いような剣を向けられ睨み付けられている。

 …………どう言う事?

 困惑に駆られつつ立ち上がり、目の前の人々を見ると、気圧されたかのように皆が一歩引いた。

 ……皆、ずいぶんと背が低い。160センチの俺が見下ろすくらいだ。


「皆ちょっと待ってくれ!」


 そう言って、剣を持たない40代くらいの男が前に出てくる。


「村長危険だ! いくらあんたの息子だからって……」


 息子!? えっ? 俺?

 村長と呼ばれた男は、皆を手で制止俺に問い掛けてきた。


「ネレザス、私のことが分かるか?」


 ネレザス? 誰だそれ?


「え~と、すいません、たぶん人違いだと思うんですけど……」


 俺の言葉に、村長は驚いたように目を見開き、他の人達もざわつき始める。


「自分のことが分からないのか?」

「でも意思の疎通は出来てるぞ」

「普通に喋ってる……」


 皆の顔に戸惑いの色が見える。


「ネレザス、自分のことは分かるか?」


 村長が不安げな表情で聞いてくる。


「あのう……自分のことは分かりますが、ネレザス、って名前じゃないです」

「それはどう言う……」

「自分の名前は加反郁人かそりいくとと言います」




 俺は今倉庫の中に入れられ、ロープで縛られ、3人の男に見張られている。

 3人いる男のうち真ん中にいるのはこの村の村長であり、この体の元の持ち主、ネレザスの父親だという話しだ。

 村長曰く、このネレザスというのはとんでもない馬鹿息子であり、村長の息子であるため偉いと勘違いし、火炎魔法が使えるため強いと勘違いし、近くの森に出没する死霊系の魔物、ワイトを勝手に討伐しようとし返り討ちに遭ったという、救いようがない男だったらしいのだ。


 ワイトという魔物に殺された者は、死後ワイトとして蘇る事があるらしく、ワイトとして蘇る前に死体を焼いている最中に俺が生き返ったため、ワイトとして蘇ったのだと思い剣を向けてきたと言うことだったのだ。

 通常のワイトという魔物は、青白い肌で濁った瞳をしているのだが、肌の色つやも良く、戸惑いは感じたものの澄んだ瞳をしていたため、村長が皆を制止し声をかけたのだ。が、俺が、自分はネレザスではない、と言いだしたため、皆がどうして良いのか分からず戸惑ってしまったのだ。


 俺を含め全員が訳の分からない状態では話が進まないと思い、俺が、拘束して構わないので話しを聞いて欲しい、と願い出て、ここでこうしてロープで縛られ、先に村長がざっと話しをしてくれたのだ。


 村長の話しを聞いた俺は、更なる困惑にとらわれてしまった。

 何て言ったこの人? ワイト? 魔物? 魔法? 何の話しをしてるんだ? ゲームや映画じゃあるまいし、そんなファンタジックな異世界……なのか?

 まさかと思い3人を見ると、確かに着ている服も、村長の横の2人が持つ剣もそれっぽいっちゃあそれっぽいが……

 ここは考えても仕方が無い、俺は俺で正直に話すだけだ。川でおぼれ死に、三途の川で足を滑らせおぼれ、下流に流され戻ってきたらこの体で生き返り、そして死ぬ前の世界に魔法はなく、魔物もいなかった。と。

 俺の話しを聞き3人の表情が険しくなる。


「魔物がいなく、魔法のない世界?」


 村長が聞くともなく言ってきた。


「はい、地球の日本という国から来ました」


 3人の表情が、よりいっそう険しくなる。


「ここはシャナローゼ王国のベクセール村という」


 村長の言葉に、今度は俺の表情が険しくなるのが分かった。


「初めて聞きます」

「私も日本というのは初めて聞く」


 お互いがその目を真っ直ぐ見合う。

 しばしの時が流れ、漂っていた緊張感が不意に緩んだ。


「どうやら嘘は言ってないようだ」


 村長の雰囲気が少し和らいだように感じる。


「縄は解こう。だが、今晩一晩だけはこの倉庫にいて貰いたい」

「……理由を聞いても?」

「君の言うことは信じよう。だが、君自身のことはまだ信用していない」

「なるほど分かりました」


 俺の言葉に村長が少し微笑んだような気がした。



 日は既に沈み夜になっていた。

 俺は見張りの2人、身長175センチ、赤髪茶眼のナユテと、身長180センチ、茶髪紅眼のフドツと共に晩飯を食べているところだ。

 この2人は腕っぷしには自信があるようで、生前のネレザスが暴れているのをよく止めたもんだ、と言っていた。

 村長がいなくなり3人になって、最初に声をかけたのは俺だった。

 燃えて穴の開いた服を着替えたい、と言ったのを切っ掛けに色々と話しをしてみたところ、本当ネレザスじゃないんだな、と訝しげな態度が軟化していき、色々なことを教えて貰ったのだ。


 まずネレザスについては、身長190センチ、金髪碧眼のイケメンで、村長の息子と言うことと火炎魔法が使えると言うとこで傲慢な性格をしており、何か気に入らないことがあるとすぐに暴れていたと、かなり不機嫌な口調で教えてくれた。


 そして魔法についても色々と教えて貰った。

 ます基本的に魔法は、火炎、水氷、電雷、土木、召喚、治療の6種類があり、10才の時に行われる、神与しんよの儀式において適性を調べるものだという話しだ。

 そして6種類の魔法のいずれかの魔法が与えられれば、体の何処かにその魔法の属性色の丸い紋様もんようが浮かび上がり、その紋様が大きければ大きいほど使える魔法の威力も高いらしく、ネレザスは左肩に火炎の赤い8センチの紋様があると言っていた。

 ちなみに、火炎が赤、水氷が青、電雷が黄、土木が茶、召喚が紫、治療が緑、だと教えて貰った。


 そんな話しをしている内に時間はたち、頼んでいた服と晩飯が運ばれ、3人で食事をすることになったのだ。

 メニューはパンとスープとサラダと肉野菜炒めである。

 パンは柔らかく、スープも肉と野菜の出汁がよく出て、サラダと肉野菜炒めもかなりのものだ。特に野菜が美味い。

 文化レベルが低そうだから、どんな物を食わせられるのかと思ったが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。


「うめえだろ」


 そんなことが顔に出ていたのか、ナユテが嬉しそうに聞いてきた。


「はい、おいしいです」


 それを聞いたフドツも又、嬉しそうな顔をする。


「そうだろ、何たって俺たちが作ったもんだからな」

「えっ? そうなんですか?」


 話しを聞くとこの村は農業を中心とした村で、この2人も普段は農業に精を出しているようなのだが、何かあるたび、こうして呼び出されているらしいのだ。

 食器を端に片しながら、やっぱ腕っ節が良いとそうなるんですね、と言うと、2人揃って急に服を脱ぎ始めた。

 何で!? と思いながら2人を見ると、ナユテは右胸、フドツは左胸に10センチ程の茶色い紋様が浮かんでいる。

 ナユテが紋様を、パンッ、と叩きどや顔で言う。


「10センチの紋様持ちはこの村で4人だけだ」

「10センチの紋様?」

「ああ、村人700人の内紋様持ちはおよそ100人、その平均的な大きさは5センチだ」


 フドツが腰に手を当て、胸を張りながら言う。

 なるほど、この2人の紋様の大きさは村でもトップレベルと言うことか。


「となると、ネレザスの8センチと言うのもそこそこの大きさ?」

「まあそうなるな」


 ナユテがそう言いながら服を着る。


「だから俺たち2人がよく呼ばれるのさ」


 フドツの言葉に、ふと疑問が浮かぶ。


「他の2人は?」

「ん? ああ、1人は女で、1人はまだ11才だ」

「下手すりゃ命に関わることもあるからな、そう簡単に呼び出すわけにはいかないだろ?」

「なるほどねえ」


 2人の言葉に感心していると、ナユテが服をこちらに差し出してきた。


「着替えねえのか?」


 いけね、すっかり忘れてた。


「あっ、着替えます」


 そうだ、ついでに自分の紋様も見てみよう。

 服を脱ぎ、紋様があるという左肩を見てみる。


「あれ?」


 何もないぞ……ああ、もしかしてあれか? 中身が入れ替わったからそう言う物もなくなっちゃったのか? ……ちょっと残念。


「おい……お前それ……」


 ナユテもそれに気付いたらしく、背後から驚いた声をかけてくる。


「ええ、どうやら中身が入れ替わったせいで、紋様がなくなっちゃったみたいです」

「いやそれよりもお前……」


 なんだ? フドツが絶句しているようだが?


「背中一面に白い紋様が浮かんでるぞ」

「…………はい?」

「30センチほどはあるぞそれ……」


 どうやら俺の背中には30センチほどの白い紋様が浮かんでるらしいのだが、自分ではそれを見ることが出来ない。


「鏡か何か」

 ガラッ!


 ありませんか? と言えなかった。

 倉庫の引き戸が開き、そこに息を切らせた俺と同い年ぐらいの女の子が立っているのだ。


「ナユテさんフドツさん来て下さい! スケルトンの群れが、森から村に向かって来ます!」


 あまりの突然のことに一瞬時が止まる。


「……分かったすぐ行く!」


 最初に動き出したのはナユテだった。


「群れと言ったが、数はどの位か分かるか?」


 次いでフドツが動き出し、俺も女の子の方に向き直る。


「詳しくは分かりませんが100体はいると……」


 100体! 多いな!


「100体か、ちょっと多いな」


 ナユテのやつ、今、ちょっと、って言ったか?


「まあ俺達だけならちょっときついが……ユノー、他の皆は?」


 フドツが、ユノーと呼んだ女の子に声をかける。


「はい、既に村の入り口に集合しています。」

「なら、問題ないな」

「ああ」


 マジか!? そう言うもんなのか?


「ところで……」


 ナユテがチラリと俺を見る。


「あいつはどうする?」


 んっ? 俺? ……ああそうか、2人が行ってしまったら俺を見張る者がいなくなる、って事か。


「私が代わります」


 ……えっ? こんな倉庫で女の子と二人っきりになるの?


「……そうか、分かった、だが……何かあっても殺すなよ」


 んっ? えらい物騒な単語が聞こえたぞ……殺すな、って言わなかったか今?


「紹介しておこう、彼女の名前はユノー、さっき話した10センチの紋様持ちの1人で水氷魔法の使い手だ。で、ネレザスがよくちょっかいを出していた子だ」


 フドツの言葉を聞き、ユノーという女の子の方を見てみると、彼女はものすごい冷たい眼でこちらを見ている。


「2人とも安心して下さい……半殺しで我慢します」


 ええ~、何その、我慢します、って? 出来れば殺したいの?


「じゃあ俺達は行くから、お前は大人しくしてろよ」


 そう言って行こうとする2人に俺は声をかけた。


「ちょっと待った」

「どうした?」

「服……置いていってくんない?」


 ナユテの持つ、俺が着替えようとした服を指差し、上半身裸のままそう言った。



 スケルトンとの戦いは既に始まっているらしく、倉庫の中で腰を下ろした俺の耳に外の喧噪が聞こえてくる。

 ナユテとフドツは大丈夫かなあ……

 開けた戸の横に肩を預け、外の様子を見ているユノーにチラリと目を向ける。

 年は俺と同じくらいで、身長は女の子にしては少し高く170センチくらい、黒髪黒眼で、その髪をポニーテールにし、胸の所に革で出来た鎧のような物を着け、鋭い目付きをしているものの、美少女と呼べる顔立ちをしている。

 ネレザスにちょっかいを出されていた、10センチの紋様を持つ子か……

 そんなことを思いながら、ボーッとユノーを見ていたら、冷たい目付きで睨まれてしまった。


「ご、ごめん」


 思わず謝り目をそらす。のだが、視界の隅に、今度は逆にユノーがこちらを、ジッと見ている姿が見えた。

 え~……なんで?


「本当にネレザスじゃないのね……」


 ああ、なるほど、俺がネレザスじゃないと、話しには聞いていたけど信じてなかった、って事か。


「そう、俺の名前は加反郁人。よろしく」


 立ち上がりながらそう言った時には、既にユノーの目は外に向けられていた。

 耳に外の喧噪が聞こえてくる。

 ……無視されちゃった……

 まあでも、村が襲われてそれどころじゃないっちゃあそれどころじゃないもんな。うん、仕方が無い。

 1人納得しようとしたとき、ユノーの声が耳を打った。


「貴方の背中の紋様は何?」


 せっかく向こうから声をかけてきてくれたのに、よりによってそれか。


「俺もよく分からないんだ」

「……そう」

「君は何か知らないか? 白い紋様らしいんだけど……」

「知らないわ」

「あっ、そうなんだ……」


 会話終了……何か気まずい! 頑張れ俺! 会話を続けるんだ!


「ナユテとフドツの2人も知らないらしいんだ」

「そう」

「村長なら分かるかな?」

「さあ」

「……ああそうだ、この紋様って神与しんよの儀式で与えられるんだよね?」

「ええ」

「ちなみにその神与の儀式って何処でやるの?」

「教会よ」

「あっ、じゃあ教会の人に聞けば分かるかな?」

「さあ」

「……」

「……」


 取り付く島もねええええ! ちくしょうネレザスか!? こいつのせいで俺は今こんな目に遭ってるのか!? ちょっかい出してたって言ってたけど、どんなちょっかい出してたんだこいつ! いっぺん死んで来いや! ……ああ、もう死んでたっけ……

 でも待てよ、まさかネレザスは関係なく、俺自身が嫌われてるって事は……まあそれはないか。まともに会話もしてない相手に、好きも嫌いも無いか。

 それかあれだ、このユノーがよそもんが嫌いとかそんな感じなのかも知れないな。

 ちょっと聞いてみるか?


「1つだけ良い?」

「なに?」

「このネレザスってやつそんなに嫌い?」

「ええ、大っ嫌いよ、村長には悪いけど、死んでくれてせいせいしてるわ」


 おおう、すげえ嫌われっぷりだ。だけど俺と関係ないって分かってちょっと安心した。


「そう思っていたのにあのバカ! 死んでまで皆に迷惑かけて!」


 おや? ユノーさんが沸騰してらっしゃる。


「結局最後まで他人に尻ぬぐいさせて!」


 めっちゃ怖いっすユノーさん。ちょっと落ち着いて欲しいっす。


「え~っと~、何があったの?」

「何があったかですって……よくそんなことが言えるわね!」


 あっやべえ、油を注いだっぽい。


「あんたが1人で勝手にワイト討伐に行って失敗したから、今こうやって村が襲われているんじゃない!」


 スケルトンが襲ってきたのにはそんな訳があったのか、そりゃあ口も聞きたくなくなるな。


「それに私が相手にしないからって弟にあんな事して……」


 えっ? 弟? あんな事?

 ユノーの言ってる意味が分からず、それが顔に出たのだろう、ユノーが猛烈な勢いで胸ぐらをつかんできた。


「なにとぼけてんのよ! あんたが魔法の練習とか言って、弟に魔法を撃ったんじゃない!」


 まじか!? ……まさか弟さんは……


「言ったわよね、死ぬまで許さないって」

「……すまない」


 ユノーが俺の言葉に、はっ、とした顔をして、掴んでいた胸ぐらから手を離した。

 たぶん気付いたんだろう、この男が死んだと言うことに。


「ごめんなさい……貴方は違ったのよね……」


 俯き力無く呟くようにささやかれた言葉。


「いや……許せないな」


 ユノーが驚いた顔で俺を見上げる。が、俺はそんなことに構ってられない。

 倉庫ならたぶんほうきがあるはず……あった。

 は木で出来ているのか、ちょうど良いな。

 俺は近づき、箒の先の部分だけを折り取りただの棒にし、怒りの形相でこちらを睨むユノーの足下に投げ渡した。


「えっ?」


 何をきょとんとしてるんだ。俺だってそんな話しを聞かされたら黙ってられない。

 足を肩幅に広げ、両手を後ろで組む。


「好きなだけそれで打て」

「えっ!?」

「半殺しで我慢しろなんて言わない、気が済むまで打て」

「えっ? ……えっ!?」

「どうした? 弟さんのかたきを討ちたくないのか?」

「……はい? 敵を討つって?」


 んっ? こっちの世界には敵を討つって言葉はないのか?


「敵を討つって言うのはだな、恨みを持つ相手に」

「いや、そうじゃなくて、弟の敵って?」


 おや? ……まさか?


「弟さんこいつに殺されたんじゃ」

「何言ってんの、生きてるわよ」

「でもだって、こいつが弟に魔法を撃ったって」

「そうよ、だから私が咄嗟に相殺したんじゃない」

「………………はああああああああああ!? じゃあ死ぬまで許さないってのは?」

「当たり前でしょ、私の可愛いケヤンに向かって魔法を撃つなんて、許すわけ無いでしょ」

「ああ、弟さんケヤンって言うんだ、良い名前だね」

「あら、分かる。私がつけたのよ」

「マジで? 幾つ離れてるの?」

「5つよ、だから今11才ね」

「へえ、そうなんだ……って、おい」

「なによ」


 軽く睨み合う。


「紛らわしい言い方をするな」

「勝手に勘違いしたのはあんたでしょ」


 ……言われてみれば確かに。


「はあ……で、どうする?」

「どうする? って何を?」


 ユノーの足下にある木の棒を指差す。


「2、3発やっとくか?」


 こいつを許せないという思いは未だ残ってる。


「何あんた、そう言う性癖?」

「ちがうわ!」


 何つう事ぬかすんだこの女。


「冗談よ、別に良いわよ、それにもう、一回半殺しにしてるから」


 何さらっと物騒な事ぬかしてんだこの女、こえーよ。


「ちなみにいつ?」

「ケヤンに魔法を撃った時よ」


 すぐじゃねえか! 手がはえーよ!


「おっかねえよお前」

「分かったら下手に手を出そうと思わない事ね」


 下手に手を出すなって……


「上手にだったら出しても良いって事?」


 瞬間、耳の横を氷がかすめ飛んでいく。


「あんたやっぱネレザスでしょ」


 右手をこちらに向け、ユノーが冷たく言い放つ。


「待て待て、冗談だ冗談」


 俺が慌てたようにそう言うと、ユノーは右手を下ろしニヤリと笑った。


「私もよ」


 この女やっぱこえーよ。ナユテとフドツ戻ってきてくんないかなあ。

 そんなことを考えながらドアの外に意識を向けると、さっきと少し様子が違うことに気付いた。

 不審げな俺にユノーも気付いたのか、ドアの外に意識を向ける。


「何かおかしいわね」

「ああ、音がさっきより大きく聞こえる……違う! 近付いてきてる!」


 戦闘が村の中まで及んでいるって事か?


「マズくないか?」

「マズいわね」


 お互いの視線が絡み合う。


「あんた戦える?」

「魔法がどんな物か分からないが、多少の自信はある」


 幼い頃から、父さんとじいちゃんに叩き込まれた空手は、超実戦向けとして、刃物の対処もやらされていて、本物の日本刀で斬り掛かられたこともあるくらいだ。


「そう、なら行けるわね」

「……良いのか?」

「何が?」


 何が? じゃなくないか?


「村長の許しも無く、俺をここから出して」

「構わないわ、それとも何か迷惑をかけるつもり?」


 おっとぉ、これはユノーの信用を得たと言う事か?


「よしっ! ここは1つ、ユノーさんの信頼にお答えして見せようじゃないか」

 がん!


 瞬間、左脛ひだりすねに衝撃が走った。


「ユノーさんとか、気持ち悪い呼び方しないでもらえる」


 左脛を押さえうずくまる俺の頭の上から、冷たい言葉を浴びせ掛けられた。

 だから手がはえーって。



 耳には様々な音が混ざり合った、雑音のような音が響いてくる。


「こっち、大通りの方よ」


 ユノーの先導で、3メートルほどの道幅の道を走り抜ける。

 街灯のような物のお陰で、足下を気にせず走れる。


「あそこよ」


 言われて見ると、今までの倍以上、10メートルほどの道幅の道が目に映る。

 大通りに走り出た俺達の目の前を数人の男達が走って行く。


「逃げろー!」

「もう駄目だ!」

「冗談じゃねえ! やってられっか!」


 男達が走ってきた方、右側に顔を向けると、そこには大勢の人間と大量の白い何かが争っている姿がみえた。


「あれがスケルトンか……」


 大量の骨格標本のような白い骸骨が、手に剣を持ち襲い掛かってきている。


「…………」

「怖じ気づいたの?」


 思わず足を止め見入ってしまった俺にユノーが聞いてきた。


「怖じ気づいたのなら下がりなさい。邪魔よ」


 ここでもう一つ幼い頃からやらされていたことを言っておこう。それは、恐怖心克服の一環として、お化け屋敷巡りや、ホラー映画鑑賞をやらされていたと言う事だ。

 小さい頃の俺はそれなりに怖がっていたらしいのだが、今の俺にとってそんな物は、ただの作り物にしか思えなくなっていたのだ。だから。


「オモチャみたいだな」


 目の前の大量のスケルトンを見ても、そんな思いしか浮かばなくなっていた。


「……行くわよ」


 ユノーが何かを言い掛け、諦めたようなため息交じりにそう言ってきた。

 俺のせいじゃないんだけど、と思いながらも、黙ってユノーについていく。

 ついていった先は村人の後方、弓や魔法を使い攻撃している人達の所だ。

 ユノーがその人達に何かを話し掛けているが、その内容は俺の頭には入ってこない。


 皆が放つ魔法に見とれていたのだ。

 剣を持って前で戦う人達に当たらないよう、放物線をえがいて狙うはその後方のスケルトン達。

 火の玉や水の玉、あの茶色の玉は土の玉か? おお! バチバチ言って光ってるのは雷の玉か!?

 ……すげえ、映画なんか目じゃない。派手さで言ったら映画とかの方があるかも知れないが、生の迫力という物がそこにはあった。


「どお?」

「うおっ! びっくりしたあ」

「何驚いてんのよ」


 やべえ、意識が魔法に持って行かれてた。


「で、どお?」

「……何が?」

 がん!

すねっ!」


 ちくしょう! また脛を蹴りやがった!


「行けそうかどうか聞いてんのよ」


 ……ああそうだった、俺はここに戦いに来たんだった。


「少しだけ時間貰って良いか?」

「……早くしなさいよ」


 たぶんユノーは結構冷たい目で俺を見てると思うが、今はユノーのことよりも、スケルトンを集中して観察しなければならない。

 思ったより動きは速くない。力もそんなに強そうじゃない。んっ、何だ? 折れた腕の骨がすぐに元に戻ったぞ……おっ! 頭蓋骨を砕かれると塵に帰るのか、そこが弱点ってことか。

 俺はユノーを見て1つ頷く。


「あなたには前衛にいる、ナユテさんとフドツさんと共に戦って貰うわ」

「んっ? ユノーは一緒じゃないのか?」


 ユノーは一瞬何かを言い掛け、軽く首を振った後に話し出した。


「どうやらこのスケルトンは、ワイトの召喚魔法で際限なく呼び出されているらしいのよ」

「なるほど、だからこんな所にまで押し込まれたのか」

「そう言う事。だから私は迂回して後方のワイトを叩くわ」


 言われてスケルトン達の後方を見てみる。遠くてよく分からないが紫のローブで大きな鎌を持った何かがそこに佇んでいた。

 ……死に神のコスプレか?


「何か要望はあるか?」

「……前線で暴れて、ワイトの気を少しでも引いてくれると有り難いわ」

「それだけで良いのか?」


 ユーノはこくんと頷いた。


「そう言う訳で頼んだわよ」

「1人で大丈夫か?」

「……問題ないわ」


 今の間は気になるが、本人がそう言うのなら信用するしかない。


「じゃあ、ユノーの為にも派手に暴れてやるとするか」


 言ってすぐに、気持ち悪い事言うな、と蹴られるんじゃないかと身構える。だが、蹴られることはなく、ユノーはただ黙って俺を見つめていた。


「名前……何だったっけ?」


 意外な反応に少し驚いたが、ちょっと嬉しかったので、ニッ、と笑って見せた。


加反郁人かそりいくと、イクトと呼んでくれ」


 俺の笑顔につられたのか、ユノーの顔も笑みを作る。


「頼んだわよイクト」


 そう言ってユノーは、大通りから脇道に走って行ってしまった。

 やべえ、何かドキドキする。だが今はそれどころじゃない。

 両手で顔を、パンッ、と1つ叩き気合いを入れる。


「異世界からネレザスの体を使って生き返ったイクトです! 前線に出るので通して下さい!」


 それを聞いた皆の表情は様々だ、驚いた顔をしたり、怪訝な顔をしたり、無表情だったり。だが、非協力的な人はなく、皆が俺を前線に送るための道を空けてくれた。


「ありがとうございます!」


 礼を言いながら人々の間を走り抜け、闘争心を高めていく。

 だんだんと近付いてくる目の前の戦い。

 空手の試合のように寸止めではない戦い。

 ちょっとしたミスで命を落としかねない戦い。

 芽生えそうになる恐怖心を、闘争心を高め塗りつぶしていく。


「ナユテ! フドツ!」


 俺の声に、背中合わせで戦う2人が反応した。

 あれか!

 俺はそこに向かい走って行く。

 大きい方の人影、フドツが少し押され気味だ。

 走るスピードを上げ、フドツと鍔迫り合いをしているスケルトンの頭に跳び蹴りを食らわす。

 バガン! とスケルトンの頭蓋骨が砕け塵に帰る。


「お前! 何しに来た!」


 おおっと、いきなり怒られちゃった。


「2人と一緒に戦えってユノーに言われて!」

「ユノーに?」


 スケルトンが剣を突いてくる。

 俺は右前に右足で踏み出し、半身になってその剣を躱し、溜めた左拳でスケルトンの眉間を打ち抜く。

 バガン!

 スケルトンは塵に帰って行く。


「責任はユノーが取るってさ!」


 言いながら俺は今の攻撃に違和感を覚えていた。が、フドツの左腕から滴る血を見て、それを後回しにすることにした。


「大丈夫か?」

「ドジっちまってよ。ワリいけど少し時間を稼いでくれ」

「おう!」


 スケルトンの踏み込もうとする右足を左足で狩り、受け身もとれず倒れたスケルトンの頭蓋骨を踏み抜く。

 バガン!

 ……何だろう? やっぱり違和感を感じる。


「うおっ!」


 今のはナユテの声だ!

 ナユテの方に視線を向けると、2体が同時に襲い掛かっているところだった。


「右は任せろ!」


ナユテに意識を向けているスケルトンの頭蓋骨に、一切の手加減も遠慮もない右の拳を打ち込む。

 バガン!

 つきん。

 …………えっ?


「後ろだ!」


 思わず痛みが走った拳を見てしまい、後ろから襲い掛かってくるスケルトンに気付くのが遅れた。だが、ネレザスの身長があれば上段の後ろ蹴りで。


「いてっ!」

 グシャッ!


 股関節に痛みが走り足が上がらず、頭蓋骨ではなく胸骨を蹴り抜いていた。

 仰向けに倒れたスケルトンの胸骨がすぐに元に戻る。

 やべっ!

 バガン!

 起き上がってくる前に、頭蓋骨を踏み抜き塵に帰す。

 ナユテの方も終わったらしく、フドツと共にこちらにやってくる。


「ありがとうフドツ」


 フドツの声が無けりゃちょっとやばかった。


「なあに、先に助けて貰ったのはこっちだ」


 フドツが左腕を、グリングリン回しながら言ってきた。


「もう直ったの?」

「ああ、ポーションを飲んだからな」


 ポーション! そんな物まであるのか……さすが異世界!


「にしてもお前、強いな」


 ナユテが俺の強さに感心している。


「まあね、さんざん鍛え…………そうか!」


 突然の大声に2人が驚く。

 さっき感じた違和感も、右拳と股関節の痛みもそう言う事だったのか!

 何でユノーに脛を蹴られたときに気付かなかったんだ……


「ど、どうした突然?」


 思わず呆然とする俺に、ナユテが心配そうな声をかけ、フドツは襲ってきたスケルトンと戦っている。

 どうする? …………そうだ!

 俺は着ているシャツを脱ぎ、適当な大きさに引き裂く。


「何やってんだお前?」


 上半身に着ていたのはシャツ1枚なので、上半身は裸だ。


「こいつの体使えねえ!」


 ビリビリと服を破きながら、思わず愚痴る。


「体はかてえし! 拳は柔いし! 使いずれえ!」


 そう、これは加反郁人の体じゃない、だから前と同じように動けないんだ。


「ユノーに脛を蹴られたときに気付くべきだった」


 包帯状に裂いたシャツを拳に巻き付け、即席のバンテージにする。


「ユノーに蹴られた?」


 ナユテが新たに襲ってきたスケルトンの相手をし、今度はフドツが話し掛けてくる。


「前の世界で空手って言う素手で戦うすべを叩き込まれたんだけど、蹴りも使うから脛も結構硬かったんだ」

「ユノーに脛を蹴られたのか?」


 シャツを巻き付けた拳どうしをバンバンと打ち付け合う。

 うん、良い感じだ。


「何でだ?」


 おっ、ナユテのやつも終わったのか。


「えっとー、確か、ユノーさん、って言ったら、気持ち悪い呼び方するな、って」


 ナユテとフドツが俺の顔を、ジーッと見てくる。

 何だ? おっとスケルトンだ。

 2人の間を抜け、その背後に迫ってきたスケルトンと対峙する。

 振り下ろされる剣の腹を、左の手刀で受け流し、右の拳で胸骨を打ち抜く。そして倒れたスケルトンの頭蓋骨をすかさず踏み抜く。

 バガン!

 良……くないな。手刀受けで手を開いたとき、握りこんでいたシャツの端を離してしまい、巻き付けたシャツがだいぶほどけてしまってる。

 蹴りと手刀はなしで戦うしかないな。

 シャツを拳に巻き付け直し振り返ると、ナユテとフドツがそれぞれスケルトンと戦っていた。

 なので俺は、横合いから素早く2体を、バガン! バガン! と塵に帰す。

 うん、こんなもんだ。

 2人が、ふうと息を吐き剣を下ろす姿を見て、ふとした疑問が頭に浮かんだ。


「ところで2人は魔法は使わないの?」

「ん? ああ、今は温存中だ」

「……何で?」

「あいつのために取ってあるんだ」


 ナユテが剣を向けた先には、死に神コスプレのワイトがいた。

 あっ! いけねえ!


「そうだ! ユノーが今1人でワイトの元に向かってるんだった!」


 すっかり忘れてた!


「だから、暴れてワイトの気を少しでも引いてくれ、って頼まれてたんだ!」


 ナユテとフドツの眉間にしわが寄った。


「どう思う?」


 フドツが真剣な表情でナユテに聞く。

 あれ? もしかしてやばいのか?


「いや、有り得ないだろう」


 え? 有り得ない、ってそんな強いのかワイトって?

 2人が真剣な顔で俺を見てくる。


「どうする! やっぱ加勢に行った方が良いのか!?」

「暴れてくれ、って言われたのか?」

「あ、ああ」


 フドツは行かない方が良いと思ってるのか?


「頼まれたのか?」

「そ、そうだけど」


 ナユテまで……そうだよな、頼まれたもんな。

 おっとスケルトンだ。

 でも、1人で相手するのは有り得ない、ってさっき言ってたし。

 横薙ぎに振るわれる剣をバックステップで躱し、すぐさま踏み込み、バガン! する。

 結構慣れてきたぞ。じゃない! どうするんだ? 行った方が良いのか? 行かない方が良いのか?

 スケルトンを倒し、2人のところへ行くと、2人は未だ悩んでいるようだ。


「そんなに悩むなら行こう!」


 フドツが俺を見ながら口を開く。


「そうだな、直接聞くのもいいかもしれない」


 直接聞く? ……んっ?


「ああ、だがその前に」


 ナユテの鋭い眼光が俺を射貫く。


「お前ら2人、いつの間に仲良くなったんだ?」


 ………………はあ?




 振り上げられた剣の柄尻つかじりを左で打ち、剣を飛ばし、返す右で、バガン! する。

 突いてくる剣の腹を右で殴り飛ばし、崩れた体制のところに左で、バガン! する。

 横薙ぎに振るわれる剣を左で上から叩き落とし、下がった頭を右で下から、バガン! する。


「女心ってのは分かんねえもんだな」


 フドツがそう言いながら相手をしているスケルトンを、俺が、バガン! する。


「女ってのは、口では外見外見言ってるけど、ちゃんと中身を見てるって事なんだよ」


 ナユテがそう言いながら相手をしているスケルトンを、俺が、バガン! する。


「おお、言うねえ……モテねえくせに」

「よしっ! 分かった! そのケンカ買った!」


 俺が2体のスケルトンを相手している後ろで、2人がそんなことを言い合っている。


「お前らちゃんと戦えよ!」


 そう言いながら、バガン! バガン! とスケルトンを塵に帰す。


「そう怒るなよ、モテるくせに」

「ごめんごめん、悪かったよ、イ・ク・ト」


 2人がユノーとのことを聞いてきたので、まんで話しをしたのだが、最後にイクトと呼ばれたことまで話したのは失敗だった。あれから2人がチョーウゼェ。それにしても。


「そんなだから2人ともモテないんじゃないの?」


 どうやら2人ともモテたくて悩んでいるらしい。


「はあ? お前、ばっか、俺はナユテ程じゃねえよ」

「よしっ! 2人とも掛かってこい!」

「もう分かったから、2人とも早く行くよ」


 短い付き合いで分かったことは、2人ともすぐ調子に乗って悪ふざけを始めるって事だ。しかもそれが結構ウザイ。

 だがそれでも良いところもあり、こうして結局、俺に付き合ってユノーの所に一緒に行ってくれるところとか。ちなみに顔は良いところには入らない。


「それにしてもお前、強すぎだろ」


 ん?フドツのやつ急になんだ? 褒めてるわけじゃないっぽいが。


「素手の一撃でスケルトンの頭蓋骨砕くって、普通に俺らの頭も殴られたら砕けるんじゃねえか?」


 いやいや、それは言い過ぎだろう。


「いくら何でもそれは無理でしょ。腐敗して脆くなってたんじゃないの?」


 襲ってきたスケルトンを、バガン! しながらそう言ったら、ナユテが呆れた様子で答えてきた。


「あのなあ、そんな訳ないだろ。魔力で強化されてるんだから」


 えっ! ……マジで?


「じゃあ、何でだ?」

「こっちが聞いてるんだよ」


 フドツにまで呆れられてしまった。

 本当に何でだ?


「おい! ユノーのやつ始めたみたいだぞ!」


 ナユテの言葉に前を見ると、ワイトに向かい無数の氷が襲い掛かっていくところだった。


「おお、すげえ!」


 無数の氷が街灯のような物の光を反射して、キラキラと光っている。

 もう少しゆっくりと見ていたかったが、横からスケルトンが襲ってきたのでそちらの方に向き直る。


「なっ!」


 ナユテが驚いた声を上げた。

 バガン! して、何事かと視線を戻すと、そこにはでっかいスケルトンが、ワイトとユノーの間に立っていた。


「でかっ!」


 何だあれ? 6メートルくらいはあるんじゃないのか?


「くそっ、まずい! サイクロプススケルトンだ! 急ぐぞ!」


 ナユテが急に走り出し、フドツもその後を走って行く。が、スケルトンが邪魔で思うように早く、前に行くことが出来ない。

 今の、まずい、は本気のまずいだ。

 ユノーがやばい!

 手に巻き付けていたシャツを外し、鼻から息を吸い込む。


「はっ!」


 気合いを1つ入れ、集中力を高める。

 一秒でも早くユノーの元へ、それ以外の一切は切り捨てる。


「先に行く!」


 ナユテとフドツの返事は聞かず走り出す。

 殴り、蹴り、避け、さばき、投げる。

 ありとあらゆる技を使い、スケルトンの群れを突破し、ユノーの元へと辿り着いた。


「ユノー!」


 俺の大声に、ユノー、ワイト、サイクロプススケルトンがこちらを見る。

 うおっ! 本当にサイクロプスなんだ。目の穴が真ん中に一個しかない。

 などと、場違いなことを思いながらユノーの元へ走り寄る。


「イクト……あなた……」


 疲労の色が濃い。そりゃあそうだ、こんなでっかいやつの相手してりゃ。

 がん!

 ここですね! だが大量のアドレナリンが分泌中の、今の俺には効かん!


「何勝手なことしてんのよ」


 冷たく睨み付けてくるユノー。


「助けに来たんだよ」


 おれは、ニッ、と笑ってみせる。

 俺の笑顔を見て、ユノーの頬が少し赤くなる。

 あれ? もしかして?


「脛を蹴られて喜ぶなんて、やっぱりそう言う性癖なのね」

「なんてだよ! ちげえよ! 脛を蹴られて笑ったわけじゃねえよ!」


 その時、サイクロプススケルトンがその手の、2メートルはある剣を横薙ぎに振るってきた。


「ふっ!」


 鋭い呼気と共に、かざした手の先に分厚い氷の壁が出来上がる。

 ガイン! と音を立て、剣が壁にはね返させられる。


「ふう……冗談よ」


 ユノーの言葉と共に氷の壁が砕け散り、大気へと溶けていく。


「大丈夫か?」


 今の魔法も結構きつかったっぽい。


「駄目ね、って言ったらどうするの?」

「俺が1人で何とかする」


 そう言って、でっかい骨とワイトを睨み付ける。

 ……何だろう? あのワイトからあまり攻めっ気を感じない、それどころか……もしかして。


「で、本当は?」

「……少しきついわ」

「少しか?」

「ええ、少しよ」


 ……あまり時間は無いな。


「ユノー」

「なに?」

「あのワイトってやつを倒せば骨達は消えるか?」

「ええ、消えるわ」

「なら、俺がワイトを倒すから、少しの間でっかい方を頼めるか?」

「……分かったわ」

「すまないな、手柄を横取りするみたいになって」

「大丈夫よ……許さないから」

「おい」

「冗談よ」


 そう言って向けられた笑顔に、闘士が沸き立つ。


「たぶん勝負はすぐに付く、だからユノーはでっかいやつの気を引いてくれるだけでいい」

「分かったわ、私が魔法を撃ったら行きなさい」

「了解だ」

 俺は腰を落とし、いつでも走り出せるように集中する。


「いくわよ、はっ!」


 ユノーの魔法がでっかいやつの顔面に当たった。

 思いっきり地面を蹴り込み走り出す。

 自分でも驚くほど早く周りの景色が流れていく。

 人生史上最速なんじゃないか?

 そんなことを思っていたら、ワイトが慌てた様子で新たなスケルトンを5体召喚した。


「事ここに至ってスケルトン頼みか! 思った通りだ!」


 極限まで集中力高めたお陰か? スケルトン達の動きがひどく緩慢に見える。

 殴り飛ばし、蹴り飛ばし、投げ飛ばし、蹴り飛ばし、殴り飛ばす。

 5体のスケルトンを失い、ワイトがその手に持つ大鎌を振るってきた。


「遅い!」


 振り下ろされるよりも早く、大鎌のを左手で掴み止め、軽く引き寄せながら右の拳を、青白い肌で濁った瞳をしてても怯えていると分かる顔面にぶち込む。

 バゴン!

 鎌とローブをその場に残し、ワイトが塵に帰っていく。

 これで終わりか?

 そう思い周りを見渡すと、サイクロプススケルトンも普通のスケルトン達も塵に帰っていくところだった。

 ああ良かった、終わったんだ。

 そう思った瞬間、張ってた気が抜け体中に痛みが走った。

 つうっ! 結構無茶したもんな、この体もきっちり鍛え上げないと。

 そんなことを考えていたら、こちらに走ってくる人影が目に入った。


「イクト!」


 おっ、ユノーだ。良かった無事そうだ。


「ユノー!」


 痛む体にむち打ち、ユノーの元へ走り寄る。

 ユノーも結構無理をしていたのだろう。お互いの手が届きそうな距離まで近付いたとき、2人一緒に足をもつれさせてしまったのだ。

 がつん!

 ユノーの頭が俺の顎にヒットした。

 え~……マジか?

 俺はそこで意識を失った。



 あれから既に3日が経っていた。

 俺は今、薄汚れた服を着て、坊主頭で材木を運んでいる。

 ワイトの襲撃により、破損した建物の修復の手伝いをしているのだが、そんな知識や技術の無い俺は、力仕事ばかりを受け持っている。

 俺は逆にそれが、この体を1から鍛え上げるにはちょうど良いと思っている。


「真面目にやってる?」


 おっ、この声はユノーか?

 声がした方を向くと、そこにはユノーとナユテとフドツが立っていた。

 あれから3人は何かと俺を気にかけてくれて、こうやってちょくちょく顔を合わせるようになっていた。


「どうだ体の調子は?」


 ナユテの言葉に、材木を下ろし軽く汗を拭ってから答える。


「筋肉痛はまだするけど、体を鍛えてるって実感があって心地良いくらいだ」

「痛みが心地良いなんて……やっぱりそう言う性癖なのね」

「だから、ちげえって! なんべんも言ってるだろ!」

「冗談よ」


 ユノーが口元に手を当てて、クスクスと笑っている。


「仲良いなお前ら」

「俺は一方的にからかわれてるとしか思えないよ」


 フドツの言葉に、そうとしか返せない。


「あら、私と仲良いと思われるのは不満なの?」


 真顔で言うユノーに、俺もナユテもフドツも驚く。


「私は不満よ。フドツさん2度とそんな気持ち悪いこと言わないで下さい」

「おい!」


 俺のツッコミにユノーが再びクスクス笑う。


「冗談よ」


 俺は1つため息を吐きフドツを見る。


「なっ」

「なっ、じゃねえよ」


 何でフドツがそんな不満そうな顔をするんだ?


「ところで皆してどうした? 用が無いなら仕事の邪魔だぞ。せっかくの好感度アップ作戦が台無しだ」


 ワイトを倒した俺を、村人の大半の人は受け入れてくれたが、見た目はネレザスのままなので、やはり思うところがある人もいたのだ。だったら見た目を変えてしまおう、と言う3人の助言を受け、薄汚れた服を着て坊主頭にし、真面目に仕事に従事したところ、徐々にではあるがそう言う人達にも受け入れられつつある状況なのだ。


「邪魔しに来たわけじゃねえよ、ちゃんとした用事だ」

「教会の方がだいぶ落ち着いてきたから、連れて行ってやろうと思ってな」


 ワイト襲撃によって教会も壊されたらしく、背中の紋様もんようについて聞こうと思ったら、落ち着くまで少し待って欲しいと言われたのだ。


「でもまだ仕事中だぞ」

「大丈夫よ、親方さんには私から話しを通しておいたから」


 ずいぶん手回しが良いな。それにしても……


「3人も必要か?」


 教会に連れて行ってくれるくらい、1人で充分だと思うんたが……

 がん!


「あおっ!」


 ユノーに脛を蹴られた!


「さあ、行くわよ」


 さっさと歩き出すユノー。

 苦笑いのナユテ。


「やっぱり、仲良いよな?」


 うずくまり脛をさする俺にそう声をかけるフドツ。

 これを見てそう言うフドツに、こいつこそそう言う性癖なんじゃないか? と疑念をいだいた。



「ところで聞きたいことがあったんだけど」

「ん?」


 教会への道すがら、俺の横を歩くユノーがそう言ってきた。ちなみにナユテとフドツは2人並んで俺達の前を歩いている。


「何でワイトを簡単に倒せると思ったの?」


 ああ、その事か。


「いや、簡単に倒せるとは思ってなかったよ、ただ、何をしてくるかは予想が付いていたけどね」

「予想が付いた?」


 フドツが首を回して聞いてくる。


「ああ、俺が向かっていけばスケルトンを召喚するだろうって」

「何でだ?」


 ナユテも同じく首を回して聞いてくる。


「攻めっ気も無く、でっかいやつの後ろに隠れてるようなやつは、臆病者が多いからな。だから、俺が攻め込めば、まず自分を守ることをすると思ったのさ」


 どやっ!


「その顔ムカツク」


 ユノーさんに、どや顔をたしなめられました。


「ま、まあ、そう言う訳で、ワイトが予想外のことで慌ててる内に、俺は予想通り落ち着いて止めを刺したって事だよ」


 どや顔はしていない。筈だ。

 そんなことを話している内に教会が見えてきた。

「なるほどねえ」

「結構考えて戦ってるんだな」

「まあな」

「……顔に似合わず」

 何て辛辣なことを言うんだユノーのやつめ……あれ? まてよ。


「残念だったなユノー、この顔は元々俺の顔じゃ無い」


 ユノーが少し慌てたように俯き、小さく呟く。


「ごめんなさい」


 えっ? ちょっ、なんでそんなリアクション?


「じょ、冗談だよ冗談。俺は気にしてないから、ユノーも気にしなくて大丈夫だから」


 そう言う俺にユノーは顔を上げ、ニヤリと笑って見せた。


「私も冗談よ」


 ………………このやろう。


「いちゃついてないで早く入れよ」

「やっぱ仲良いじゃねえか」


 そう言い残し教会の中に入っていくナユテとフドツ。

 俺は歯がみし、ユノーを睨み付け……ようとしたら、既にユノーは教会に入っていくところだった。

 1人教会の前に残され、ふと思う。

 俺の用事で来たんじゃ無かったっけ?


 教会の中に入ると、奥の方にりっぱな女神像が、静かに佇んでいる姿が目に入った。


「ほー、たいしたもんだな」

「あれが女神ニオ様よ」

「へー、ニオ様って言うんだ」


 この女神様は俺がこの世界にいることをどう思ってるんだろう。


「じゃあ俺らはちょっと神父様を呼んでくるから、2人はここで待っててくれ」


 2人がそう言って姿を消すと、ユノーが女神像の方に歩き出した。


「どうした?」

「せっかくだから女神様にお祈りしておこうと思ったのよ」

「なるほど、なら俺も」

「そう」

「ちなみに、何か特別な作法とかあるのか?」

「特にないわ……私の真似をすれば良いわ」


 なるほど、それは手っ取り早い。

 女神像の前まで来ると、ユノーは左膝をつき、右足を立て、両手を組み、目をつぶり、軽く頭を下げる。

 俺はユノーの真似をし、女神様に祈りを捧げる。

 とは言え、何を祈れば良いんだ? 取り敢えずあれだ、この世界に呼んでいただきありがとう、とでも祈っておくか。


『私は呼んでないわよ』


 急に聞こえた声に驚き、ユノーの方を見てみる。が、ユノーは祈りの姿勢のまま微動だにしていない。


『その子じゃ無いわよ』


 再び声が聞こえてきたが、ユノーの口元は僅かも動いていない。


『私よ私、ニオよ』


 ニオ!? 女神様か?


『だからそう言ってるでしょ』


 の割にはずいぶん軽い口調だな。


『何よ、別に良いでしょ、話し方くらいどうでも』


 ま、まあ、確かにそうだけど……あれ? 今俺声に出してないよな?


『そうね、じゃあまずその説明からしましょうか』


 あっ、お願いします。


『あら、礼儀正しいのね』


 いえいえ。


『ふふ、じゃあ説明するわね。これは私と、貴方の背中の紋様もんようが、人々の信仰にさらされた女神像を使って繋がっているからよ』


 背中の紋様? 繋がっている?


『ええ、そうよ。その女神像を中継基地として声を直接心に届けてるって訳』


 ……何となくですが、分かった気がします。


『そんなもんで良いわ』


 分かりました。


『素直でよろしい。ふふ。じゃあ次の話ね』


 はい。


『さっき、私は呼んでない、って言ったでしょ』


 ええ、そう言ってました。


『あれは所謂いわゆる事故みたいなもんよ』


 事故、ですか?


『ええ、あなたが三途の川で足を滑らせて、違う世界のところまで流されちゃったのよ』


 そうだったんですか!


『普通はそれで戻ってきても肉体が無いからまた三途の川に戻されるんだけど、ごく稀にあなたみたいにタイミング良く戻れる人もいるのよ』


 ……運が良かったんですね。


『そうよ。じゃあ次に背中の紋様の話しね』


 おお、待ってました。


『あら、そうなの』


 ええ、ワイト達との戦いで活躍できたのも、この紋様のお陰ですよね?


『ふふ、正解よ』


 やっぱり!


『その紋様は、肉体強化に特化した紋様で、他の紋様に比べて絶大な効果を発揮するのよ』


 ん? 肉体強化? 絶大な効果? その割に殴った拳は痛かったぞ。


『当たり前よ。熟練度が低いし、ちゃんと使いこなせてないもの』


 あっ、そうなんだ。これはとんだ失礼を。


『良いのよ、分かってくれれば。で、使い方は簡単よ、紋様を意識して、力を使うだけよ』


 それだけで早く動けたりするんですか?


『ええ、それにそれだけじゃ無いわよ、堅くもなるから、素手で岩も砕けるし、刃物だって防げちゃうのよ』


 そりゃすげえ!


『でしょう。と言う訳で、あなたはもうこの世界の子としてこの世界の秩序に反って生きていって欲しいの』


 分かりました。この力を良いことに使うよう心がけます。


『あら良い子ね。あなたにはこの世界をより良くしてくれるよう期待しちゃうわね』

 

 いやあ。


『ふふ、じゃあそろそろ私は戻るわね。何かあったら、信仰にさらされた女神像を探しなさい。いつでもは無理かも知れないけど、それで私と繋がるはずよ』


 なるほど、女神様も忙しいんだ。


『そうよ。じゃあ、元気で健やかにね』


 あっ、1つだけ良いですか?


『あら、何かしら?』


 この紋様って、特別らしいんですけど、何で俺はこの紋様なんでしょう?


『……えーっとー、それはどうしても知りたい?』


 おや? 急に口ごもったぞ。


『べ、別に口ごもってないわよ』


 …………あやしい。


『あ、あやしくなんか無いわよ……ちっ、勢いでごまかせると思ったのに』


 舌打ち! 女神様が舌打ちしやがった!


『ああ、しまった! 筒抜けだったんだ!』


 ……女神様ともあろうお方が、嘘やごまかしで逃げる何て事しませんよね?


『ううっ』


 しませんよね?


『で、でもぉ』


 しませんよね!?


『何かちょっと怖いんですけど』


 しませんよね!!?


『はい! 言います! 言わせて貰います!』


 では、聞かせて下さい。


『もう、しょうが無いわね。その紋様は奴隷紋と呼ばれる紋様で』


 奴隷紋?


『そう、正確には女神の奴隷紋』


 女神の奴隷紋?


『昔、女神に奴隷の如き忠誠を誓った者に与えた紋様なの』


 昔あった紋様?


『10万年くらい前の話なんだけど、あの頃はちょっと、その、何て言うか……とがっていた時期でして』


 とがっていた時期?


『それでその者達に、その……聖水を飲ませたら浮かび上がってきて』


 聖水?


『そう言う風に呼ばれるようになったの』


 ……?別におかしいところ何てない気がするが?


『で、あの日は、その、色々忙しくて』


 ん? 俺の話聞いてないのか?


『トイレに行く時間も無くて』


 ……トイレ?


『ちょうどこの世の用事が済んで、あの世に戻ろうと三途の川の、神専用の橋を渡っていたときに尿意を催しまして』


 …………


『誰もいないしここでしちゃえ、って、橋の上から川にしまして』


 えっ!?


『そうしましたら上流から人が流れてきまして、ちょうど私の真下を通り過ぎていきまして』


 もしかして!


『どうやらそれがあなただったみたいで』


 女神の聖水を飲んだ者に浮かび上がる特別な紋様……女神の聖水、ってまさか!


『しかもあなたの場合、肉体の無い魂の状態で摂取したから、その効果はもう、チート、って言って良いくらいよ』


 女神の聖水って、しょんべんか!!


『じゃ、じゃあそう言う事で私は帰るわね。バイバーイ』

「まてごらあ! 戻ってこいこのやろう! 一言謝れ!」

「きゃっ、急にどうしたのよ」


 ん? この声はユノーか、ちくしょう逃げやがったな。


「長いことお祈りしてると思ったら、急に騒ぎ出してどうしたの?」

「おおユノー、今、女神のやつと話しをしてんだけど」

「えっ? 女神様とお話って、あんた何言ってんの?」


 ユノーが変な者を見る目で俺を見てきたので、俺は思わず今の女神とのやり取りをユノーに喋ってしまった。


「て、事らしいんだよ」


 ユノーは腕を組み深く頷く。


「やっぱりあんたそう言う性癖なのね」

「だから! ちげえって!」


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