犯人は誰だ
「犯人はS田でしょ? 体育教師の」
「マジで? だって一番怪しいだろ」
一組の男女が、とある推理小説について話し合っている。
舞台は全寮制の私立高校。相次いで殺される学校関係者たち。現場に血で残されたローマ数字は、何を表すのか……。
「だからこそだよ。いかにも怪しい奴は実は犯人じゃないっていうのが推理小説のセオリーっていうかお約束じゃん。これはその裏をかいて――」
「いや、確かに、一番怪しくなさそうな奴が大抵の場合犯人だったりするが……。でもこの養護教諭とかは?」
「A美先生? 私にしてみれば、この女性はポジション的に最も怪しいんだけど。美人だし優しいし、むしろ存在そのものが怪しい」
「そこまで言うか……」
「第一、この人が犯人だったらがっかりしない?」
「する」
「でしょう? 意外さを狙うならY子あたりじゃないかな」
「え!? 生徒会長!? それは確かに意外だ……。いや、ちょっと待て。第一の殺人が起きたとき、Y子は主人公と一緒にいただろ? 時間的に無理じゃないか?」
まだ少年と呼べる年頃の男は、情報をまとめた紙を手元に引き寄せながら言う。
「うん。だから最初の殺人はY子がやったんじゃないんだよ。ほら、『I』は犯人が書いたのか被害者のダイイングメッセージなのか微妙でしょ? だから最初にI原先生が疑われたじゃん。次の殺人が起きてあれは数字の『I』だってことになったけど、やっぱりアルファベットの『I』だったとしたら――」
「Y子はI原を庇ってその後三人もぶっ殺したのか? そりゃいくらなんでも殺しすぎだろ」
「実は別の動機があったとか……うーん、やっぱり無理があるか……」
少年と同じ年頃の少女も腕を組んで考え込み、二人のいる狭い部屋は短い間静まり返った。
「……連続殺人に見えるけど」先に口を開いたのは少女だった。
「実際はそれぞれ別の人間が犯人っていうのはどう? 最初はI原先生で、動機は疑われたとおり、N井先生の体罰が許せなかったから。それに気付いたY子が、同じく真相を知った新聞部のM夫を弾みで殺しちゃって、その後ふと思いついて連続殺人に見せかけるために『II』の字を残した、と。これが第二の殺人」
「なるほど。確かに、M夫は階段からの転落死だから、それはアリだな……。第三は?」
「そこはS田で」
「拘ってるな。まあ動機がある上にアリバイも無いから、そのまんま疑われたとおりやってたってことか」
「素直すぎるかな?」
「いや、逆にそこが意外といえば意外なんだが……その前に、最後はどうなんだ?」
「えっと……それはA美先生が――」
「おい。さっき、がっかりするって言わなかったか?」
「言ったけど。A美先生の指輪が何かの伏線になってたらいいなぁとか思って」
「実は結婚して子供が三人いるとか?」
「うわ。そりゃ男子生徒たちは泣くね。ありがちなのは婚約者がいるとかだけど」
「どんな相手だろうな?」
「意外とアキバ系の冴えない男とかだったりしてね!」
「それは……嫌な展開だな」
「あるいは……、あ、そうか! 実は四人目の被害者E子の旦那さんとこっそり付き合ってるんじゃない? あ、でもそれだったら、新聞部のM夫を殺したのはA美先生でもいいのか。秘密を握られて脅されてたんだ」
「それで殺すのか!? 腹黒!! いや、というか、それはねーちゃんの言うがっかりする展開に近づいてないか?」
「あ、そうだった」
「適当だな」
「じゃあやっぱり第二の殺人はY子で。A美先生は、今なら『IV』の数字を残しておけば自分は疑われないと思って犯行に及んだ」
「結局腹黒にするのか……。まあいいんじゃない?」
「何その投げやりな言い方。もっと真剣に考えてよー」
「というか、話を作るなら犯人くらい先に決めておけよ」
「確かにそうだけど。でもだから一緒に考えようって言ってるんじゃん。共同制作者でしょー?」
「……やれやれ。合作も楽じゃないな」