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よくいる少年が異世界転生した話。  作者: かねしろ
第一章:始まりの世界
9/10

第七話:「リディとラディ先生のある日」

 

 何故かステータスと鑑定結果が違うという、おかしい(のか?)結末を迎え、取り敢えず安堵した一週間後。


「今日は天気が良いので、外で勉強しましょうか」

「…はい」


 前々からつけられていたイケメン堅物系家庭教師さんの提案に、俺は少し間をあけて了承した。

 先生の言うことは大体絶対である。


 *


 彼が俺の家庭教師になったのは、鑑定の少し前。

 彼の名前をラディさんと言い、ラディさんに俺は逆らえない。

 なんかあるじゃん、逆らえない雰囲気、ってやつ。

 まあそれと、以前、マナーについての勉強で彼の逆鱗にでも触れて気まずいというのもある。

 その時の先生の目つきと言ったらもう……。


「では始めます」


 館の敷地内にある庭の芝生に座り、彼はそう切り出した。

 俺も素直にそれに従う。


「はい」

「では、以前、《ステータス》についてお話ししましたね」


 それは俺のもつ知識と大体同じだったから問題ない。


「はい、覚えています」

「それでは、今回は《魔法陣》と魔力の関連性について勉強します」

「はい」


 彼は、以前教えたことはもう完全に頭に入っているものとして教えてくる。

 幸いに、俺は記憶力が良いらしく、順調に勉強が進んでいる。


「まず魔法陣とは、以前……王城でリディル様がご覧になったように、円状の形の、模様に魔法を仕込んだ術式の名称のことです」

「はい」

「魔法陣は特殊な液体を使って、特定の模様を描かなければ成り立ちません」


 ほうほう。


「魔法にも決まった”形”があり、それと魔法陣とが一致しなければ、魔法を入れようとしても弾かれます。

 拒絶されるのです」


 ああなるほど。

 磁石と同じ原理みたいなかんじだ。

 S極とN極だとくっつきあうけど、同じだと反発しあう、的な。


「はい」

「魔法陣を描くための特殊な液体を、《夜光液》といいます。この液体は夜になると発行する、半透明の緑色の液体です。

 大体何にでも塗ることが可能です。《迷宮(ダンジョン)》でよく使用されます」


 あ、なんか異世界っぽい物騒そうな単語。


「迷宮とは?」

「迷宮は別名、古代産物とも呼ばれる、魔力が溜まって起こる地形変形によってできる洞窟のことをいいます。大体、五年から十年経つと魔物が住み始め、三百年くらいすると人間では討伐できない強力な魔物が住み着きます。

 基本的に、魔物は迷宮の階層が深くなるほど強くなっていきます。迷宮は階層が深くなるにつれ魔力が濃くなりますから」


 魔力が溜まるっていうのは魔力が集まってるってことかな。

 魔力は溶液のように、均等には広がらない。偏ったりするのが普通だ。


「……魔物とは」


 訊きすぎて少し躊躇ったが、先生はすらすらと答えてくれた。


「魔物は魔力溜まりで発生する生き物です。基本的に魔力が溜まるところに集まってきます。また、魔力の濃度が濃いほど、強力な魔物が寄ってきます。

 一応、一番有力とされる説が『自らを生み出した魔力に何か感じるところがあるのでは』らしいです」


 魔力の濃度っていうのは、多分密度みたいなかんじだろう。

 何か感じるところ…母性?

 よくわからん…。


「基本的に魔物は人を襲います。理由はそれぞれで、繁殖、食事、気まぐれ、様々です」


 き、気まぐれ…。そんな理由もありうるのか。


「なるほど」

「また、魔物は魔力を食べることはありません」

「はい」

「では、もとの話に戻ります」


 と、そこで、母さんの声がかかった。


「二人とも、そんなところで座学してないで、実技しましょうよ。こんな明るいんだし」


 にこにことしながらこちらにやって来て、そう言う。

 多分母さんは俺の魔法を見たいんだろう。

 あれ以来、出せてはいないが母さんが次の魔法を楽しみにしているのは知っている。

 先生はなにやら微妙な顔をしている。

 あれ。他人のように真顔で応じるかと思ったら。

 少しして溜め息をつくと、


「レイリアだって座学の重要さくらいは知っているだろうに…」


 そう言いながら立ち上がった。従うらしい。

 それにしても、知り合いなのか? 名前呼びするとは。


「お茶もってくるわ!」


 微笑んで来たときより速めに戻っていく母さん。


「しょうがないから魔法の練習をします。レイリアも見たいようですし」

「わかりました」


 おれも立ち上がる。やっぱり憧れる魔法はどきどきする。


「魔法を詳しく教えるのははじめてですから、まずは魔力の扱いについて教えます」


 そう言ってラディさんは手を前に差し出して、掌を上に向けた。よく見ると炎のような揺らめきが見えた。熱くはない。


「これが魔力です。これは制御して留まらせていますが、素人は制御できず放出しています」


 ラディさんはゆらゆらした魔力を握りつぶすように手を握り締めた。

 そうすると、手にあった魔力がさっと消えていった。だけど、微妙に空気は揺れている。

 手から出た魔力が、出たそばからどこかに飛んでいく。

 これが魔力を放出した状態らしい。


「魔力の体外への出し方は、まず血流を意識することが重要です」


 よくある血管に流れているというかんじだろうか。

 取り敢えず言われたとうりにやってみる。

 身体中に血管が張り巡らされていることを意識する。最初はぼんやりしていてよくわからなかったけど、だんだん身体中のぐるぐる回る感覚をつかむことができた。

 おお、前世では感じれないことだろう。すげえ。


「掌を上に向けて前に出す。そこに血を出すようなイメージで」


 前に出し、血をそこから溢れ出させるイメージを作り、力を込める。



「ぐっ……うぐぐぐぐっ…」


 ほしゅっと、空気の抜けるような音と共に、ゆらっとしたものが出てきた。


「おおっ」


 思わず感動してしまう。

 だけど、同時にそれが消えてしまった。

 折角何か出てきたのに!


 今のが魔力、なのか?


「今出てきたのが魔力です。まあ、このくらいで上出来でしょうね」


 ラディさんはそう言うけど、ただ魔力を放出しただけで、上出来になるのか?

 案外、難しいのかな。放出するのにも結構労力がかかるし。

 ってことは俺すごい?


「バームクーヘン食べましょ!」


 いつの間にか近寄ってきていた母さんに肩が跳ねる。

 うおあ、びびる……。


 母さんの声で、一旦勉強が中止になった。




「かーさま、とーさまは?」


 そう言えばと思い母さんに聞いてみる。


「ヒルは今手が離せない仕事にいるから、少し会えないね」


 俺はまだ、この家がどんな仕事してるかを、どんな家かを知らない。

 でも、手が離せないということは、何か重要な案件ってことだろ。

 忙しくなるような仕事なのか。


 もぐもぐと、母さんが作ったサンドイッチを食べるラディ先生は、真剣そうにサンドイッチを見つめていた。

 それがふと気になって見ていると、母さんがこそっと話し掛けてきた。


「ラディはサンドイッチ好きなのよ」



 なるほど。もぐもぐ。



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