第六話「ついに来ました魔力検査」
俺、リディル・レインハルト。三歳。三歳。
もう一度言う、三歳だ。
現在俺は母さんと父さんに連れられ、王城に来ていた。
きっと今の俺は顔面蒼白で、冷汗垂らしながら、母さんに抱えられているだろう。
……さすがに歩けるぞ。
やばい、王城ってきらきらしてる。前世のきらきら好きだった姉が目を輝かせるだろうと思うほどにきらきらしている。ついでにピントが合わない。目がぼやけてる。もう無理。
母さんは心配そうに俺をちらちら見ていた。ごめん、体調が悪い訳じゃないんだ。
ついに、魔力検査の日がやってきた。
*
もう、どこの道を通ったのか覚えていない。無理、だって広いもん。
俺の腹がきりみり言ってるから早くしてほしい。
気が付いたときは、どこかの部屋の前にいた。どこだここ。
白を基調とした厳かな衣服を纏った人が数人目に映る。
魔法審査官、というやつだろうか。
確か本では、魔力検査の進行とか検査のための何かしらを実行する人と書いてあった。
周囲を見回すと、石造りの壁や天井、床と、その隙間に蔦がくるくると渦巻いていて、床には高級そうな赤色のカーペットが敷かれていた。さすが王城。
俺たちは隅に置かれた椅子に座る。
この部屋は、なんら変哲もない、普通の石造りの部屋に見えた。首を傾げる。
本当にここでやるのか? しかし、ここから動く気配がないことから、ここでやるのだろう。
注意深く見回していると、異変に気が付いた。床のカーペットと天井に。
そこに、よくわからないが違和感を覚えたから。
「――それでは、只今よりリディル・レインハルト殿の魔力検査を始める」
魔力審査官の中でも一番年老いた、されど油断も隙も無いような筋肉隆々の老人がそう言った。
すごいバリトンボイス。深みがあって、聞きやすい声。すっと耳に入ってきた。
「前へ」
その言葉に従い、俺はゆっくりと歩く。三歳にもなると、貴族はだいたい教育をはじめているから、自分で歩けるのが普通なんだろう。
かくいう俺もそうだ。家庭教師が家に来てスパルタ教育を味わった。
男だったから気落ちして、ただでさえきつい教育がさらに…。
カーペットにあった違和感の中心で立ち止まる。
すると、突如として、カーペットに青白い光が浮かび上がった。
円と細かな模様を描いていて、何処かで見たことがある形だった。
(…ああ、そうか)
思いだし、納得する。
これは魔方陣だ。本に載っていたのを見たことがある。
違和感の正体はこれだ。
(でも…なんで今?)
魔力検査に魔方陣が必要だとは本に書いてなかった。
でも、それは今こうやって使われているから、何かしら変更があったんだろう。
そう考え、大人しく待つことにする。
じっとなっていると、一分後ぐらいに老人が口を開いた。
「下がってよい」
魔方陣特有の青白い光が徐々に薄れていく。それを見ながら俺は家族のところに戻っていった。
母の膝の上に座り、魔法審査官らを観察する。
魔方陣は老人以外の、恐らく部下と思われる若い人達が起動したらしい。彼らの体内にある魔力と魔方陣の周囲の魔力の”波長”が一致していた。
俺は天井をじっと見つめた。カーペットには魔方陣が仕掛けられていた。同じく天井も、と思ったが、天井に変化が見られない。
観察していると、ふいに変化があった。天井の方に。
それは直ぐに戻ってしまったものの、何があるのかは分かった。
天井には、魔石があるっぽかった。
それも、使い捨て。
(こっちのほうが効率いいのかな?)
といってもこっちは習い始めて何週間のぺーぺーだ。
こんなこと序盤に習わないし、もう少し大きくなってから考えてみよう。
そう思った。
*
その後、魔力検査の結果は普通に終わった。
といっても、俺の思考が普通に終了しなかったんだけど。
魔法審査官は紙をもって知らせに来た。この紙に、前世で言うステータスが書いてあった。
どうやら、さっき感じた”天井の変化”というのがこの紙、らしい。
印刷でもしたのかな。この世界の理屈が分からない。
結論から言うと、その紙には、《魔法》《スキル》の殆どと、《称号》すべてが表示されなかった。
HP、MPはどうやら高いらしく、魔法審査官と両親には驚かれたけどね。
「さっすーがリディルくーん、ぼーくらのほっこれるわーが子っ」
「ちょ、母様、あの…」
帰り道、母さんはそんな歌を歌っていた。なにその歌。
このとき、俺は馬車でよかったとつくづく思った。
生温かい目で見られるのはごめんだぞ。