第三話「一歳の抱える問題」
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2017/02/11
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2017/07/30
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『この世界において、魔法とは、様々な研究や解明がなされているものの、原点は全くの未知の領域であった。
今から一千年以上も前の話。
古の時代、人類は今よりも魔法の存在自体知っている者が少なく、身体能力が高くなかった生物だった。
魔物という異形が何なのか、そもそも立ち向かう術すら持っておらず、一瞬の抵抗すら無に等しい抵抗をし、涙を流し、ただただ蹂躙されていた。
そんな一時の、生物の頂点に立っていた魔物を、かろうじて討伐することができたのが、今はもう絶滅したといわれる吸血鬼族と龍人族である。当時の龍人族の呼び名は、《人》ではなく、《神》だったが。
龍神族。
龍神が創ったとされる、最初で最後の生物。龍神族の女子供ですら、今のSランク冒険者を数人吹き飛ばせる伝説まであるほどの身体能力を有していたとされている。
彼らは龍でありながら、人でもあり、神の眷属でもあった。龍から、人へと成ることのできる、そして龍神の加護を受け、魔物と戦うことのできる、昔の他種族からしたら英雄であった種族。
しかし、彼らは人の姿になることはほとんど、否、全くと言っていいほどに無かった。
原因は、人族の弱さである。
当時、人族はどの種族よりも弱かった。今現在、他種族と同等の力を持つ我らだが、古の時代の人族はどの種族よりも弱く、どの種族からも嘲笑われ、どの種族よりも嫌悪された。
その時代、今の魔物よりも数も頭脳も力も大きさも、それこそ天と地の差があった。
曰く、今は最弱魔物と言われ、他の魔物にすら嫌われるスライムは、オークよりも大きく、力もあったとある。
曰く、駆け出し冒険者ですら勝てるほど弱い『スネイク』は、お伽噺や童話で出てくる『べヒモス』の強靭な外皮を骨と肉を巻き込んで、内臓も同時に飲み込み、力の糧とすることをしていたとある。
今の時代に存在していれば、確実にSSランクを超えるだろう。そんな魔物に勝つ彼ら龍人族からしてみれば、人族などいるだけ邪魔という存在。
人族は蹂躙され数を減らしながらも、山奥などでひっそりと暮らしていた。―――』
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バタンッと本をやや大げさに閉じ、俺は溜息をついた。
目をぎゅっと閉じる。伸びをして本を床に置く。
いつの間にか、疲れが溜まっていたらしい。
ここは、家の地下にあった図書館みたいなところ。
遊び半分でどっかの書斎の床をいじくってたら床のタイルが外れた。
はい、リディル・レインハルトです。
現在一歳。この間誕生日来ました。誰か祝って。
今はこの世界の歴史や常識を学ぶために本を読んでいる。
といっても、両親達がいない間だけど。
初めて姉と会ったあの日、手から出てきたあのか細く頼りないホヨホヨの光は、一種の魔法らしい。
父さんたちが話してたから、多分間違いない。
あの日から幾度となく隠れてこの世界の勉強をしてきて、一応、魔法などについてが分かってきた。
『隠れる』必要があるのは、万が一『転生者』ってばれないようにするため。
自分の子供が、知らない他人の子供として一度生まれてきていたなんて、嫌だと思う。
生まれてすぐ嫌われるとか、腫れ物扱いとか、されたくない。
一歳の子供が本を読む、か。こわいな。
俺はまだこの世界の言語を学んでいない。
にもかかわらず、この世界の言語を理解でき、読めるのは、異世界人特有なのか、別の因果か。
というわけで前に調べたところ、これは”スキル”というものらしい。
この世界はステータスなるものが存在する。
名前や魔力、体力が数値化されたやつ。
この技術は、六百年前に異世界人が創り出した。
一応、この世界に連れてこられる異世界人はいるみたいだけど、全員が召喚された、らしい。
転生の例は本に書いてない。
俺がこの世界に来た理由はまだ謎だらけだ。
「《ステータス・オープン》」
テンプレともいえる台詞を呟く。
ヒュンッと、軽い音を立てて、絶妙な配色のウィンドウが出現する。
色は本人の好みの色らしい。
俺の場合は、エメラルドグリーン。かっこいい。
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▽リディル・レインハルト 男 人族 1歳
▼HP
1327/1327
▼MP
2300/2300
▼魔法
火魔法適正/練度・6
水魔法適正/練度・7
風魔法適正/練度・5
土魔法適正/練度・4
光魔法適正/練度・9
闇魔法適正/練度・8
無魔法適正/練度・9
神聖魔法適正/練度・7
治癒魔法適正/練度・9
▼スキル
全魔法適正
言語理解
神眼
剣術適正/練度・5
異世界補正
状態異常解除/練度・6
勇者適正▽
聖剣/練度・7
魔剣/練度・6
▼称号
異世界人・勇者・聖剣を持つ者・魔剣を持つ者
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この世界どうなってんの?
《勇者》って何?
なんで魔法全部使えんの?
なんでばっちり《異世界人》ってかいてあんの?
《練度》って何?
とまぁ、初めて見たときは疑問盛りだくさんだったけど。
いまは溜息しか出てこない。
まわりに比べる人がいないからだ。
こ、これがボッチ…異世界でも味わうことになるとは。
それはさておき。
一応この世界の言語に馴染めているのは、異世界人特有のスキル、《言語理解》ってやつらしい。ありがたい。
本を見るところ、《全魔法適正》は珍しいようだ。
《練度》とかいうやつも、本当は、はじめは1からで、俺のはなぜか最初から4未満すらない。
因みに《練度》ってのは、所謂『どれくらい馴れてきたか』らしい。
まあつまり使用回数。
あと、HPとかMPもこの数値は異常のようだ。
これは《勇者適正》が関係している。
結論、俺のステータスおかしい。
いろいろ説明するところはあるけど、今回はこのくらい。
さて、問題がおきた。
この世界、三歳に王城か教会で『ステータス鑑定』するらしい。
自分のは鑑定しなくてもステータスは見れるけど、《鑑定スキル》がないと他人のステータスは見えないようだ。
親としても、子のステータスは把握したいということで、鑑定が当たり前のようになった。
…俺のステータス鑑定されたら異世界人ってばれるよな?
どうしよう、打開策がない。
勇者ならまだ『人』として扱われるだろうが、異世界人は、召喚でしか有り得ないのだ。
あることないこと疑われても困る。
鑑定するために使う《鑑定石》について調べたこともあるけど、鑑定石はランクがあるらしい。低レベルから、五等級、四等級、三等級、ニ等級、一等級。
ランクは石の純度によって決まる。もちろん、調べられる情報も、高ランクのほうが多い。最低ランクの五等級を使うにしても、お金はある程度かかる。
どうにかしてすり替えれないかなあ。
うち、十中八九貴族だからなあ。
一等級使われたらおしまいだ。
貴族階級は上から、上級貴族、中級貴族、下級貴族。
異世界人が、伯爵とか男爵とかめんどくさいからって単純化したいといい、王が受け入れ、こうなった。
大丈夫か、当時の治世。
色んな意味でヤバイぞ。
ってそんなことは今はどうでもいい。
打開策を考えるため、本に囲まれたこの部屋で黙々と考えるのだった。
…そういえば《聖剣》って不死属性に有効なのか?
よくあるよな、ファンタジー小説とかで。
あれ、だとすると《魔剣》は何に使うの?
そこらへんのスキルも解明しないとな。
……大幅に話が逸れた。
そう、魔法の話だ。
この世界には、地球にはなかった元素、『魔素』が存在する。
魔素はなんか知らんけど、体に取り込める。
そうすると何故か『魔力』というやつに自動変換。
その魔力が『魔法』に必要なものらしい。
魔法は俺のステータスにあったように、全九種類。
火水風土光闇を『六属性』と呼び、これがまあ基本。
大体の人は、この内のニか三の種類の属性を持つ。
プラス、無聖治は『特殊属性』で、あれば才能がある、らしい。
俺があのとき使ったのは、治癒魔法。
多分『笑顔仕舞え』が『落ち着け』にでも変換されたんだ。
治癒魔法は、外部の傷にも、精神の異常にも効くらしい。
考えれば考えるほど俺、ハイスペックだな……。